039 リゼルとの魔境探検 仮契約
突如目の前に降り立ったのはリゼルの師匠、ナバラさん。
「ヒエルゥ、空気の渦であいつの動きを少しだけ止めておくれ」
その言葉に
俺は今戦闘中だったのだ。
ナバラ師匠の指示で、空を舞う黒い大きな鳥グロリアが翼をはためかせる。
その翼は激しい竜巻を生み出し、俺に相対するヒューマンイーターを包み込んだ。
その効果を見届けて、ナバラ師匠は俺の方に向き直った。
レナとナバラ師匠、二人の視線が俺に向かっている。
しかし二人共いったいどうしてここに。
それに、よく俺がスーだってわかったな。進化してまったく見た目も違うのに。
「どうしてここに、って思ってるでしょ」
ふふふ、とレナが笑みを見せる。
「それはのう、話せば長くなるんじゃが、リゼルがカミャムを探しに行く話をレナに知られてしまってな。お主を助けに行くって聞かなかったのじゃ。さすがにわしも根負けして、近くまでだけじゃという約束でヒエルゥに乗ってここまで来たら、森が燃えてるじゃないか。とまあ、そういう事じゃよ」
レナの言葉に続いてナバラ師匠が口を開いた。
なるほど。普通なら瘴気の影響で上空からは地上の様子は見えないけど、俺の必殺技で森が燃えた事が功を奏したってことか……。
「あとね、二つ目の質問は愚問だよ。どんな姿になってもレナがスーを間違うことなんかあるわけないわ!」
レナ……。
俺だって同じだ。
2年間会わない間に背も伸びて、美人になったな。
昔から美人だったけど、なんていうか、美人になった。うん。
女神様かと思うくらいだったよ。
そんな再会を果たした俺を、再び輝力切れが襲って来た。
スライムボディは球形を維持できずぐにょりと形を歪ませ、体温も徐々に上がり始めている。
「レナ、今のうちに仮契約を済ませようぞ。このまま放っておいたら先ほどの二の舞じゃて」
「はい、ナバラ師匠」
仮契約。つまりはこういう事だ。
リゼルからの輝力供給が無いままでは目の前のヒューマンイーターに勝つどころか、俺自身の存続も危うい。
そのため、俺とレナを仮契約し、一時的にレナから輝力を供給してもらう事にするのだ。
だけど仮契約は一時的にグロリアの契約を変更するものであって、かつてリゼルの守護者だったナバラ師匠ならリゼルに代わって仮契約を行う事が出来るって寸法だ。
仮契約が出来ることはいいんだけど、重要な問題が立ちふさがっている。
レナはもともとDランクのダークスライムと契約するために、輝力を上げてグロリア許容量を増やすために特訓をしていたはずだ。
それが今Dランクどころではなく輝力を消費する俺と契約して、レナの体が耐えられるのか、ということだ。
そんな俺の気持ちを悟ったのか、レナが口を開く。
「スー、レナ自信あるよ。だってすごく特訓したんだから。だからレナを信じて」
俺の不安をかき消すような、そんな優しく、そして力強い言葉。
しっかりとこちらを見つめる綺麗な青色の目は、少しも揺るがない自信を表しているかのようだ。
レナ……。
そんな目が出来るようになったんだな。
初めて会った時に大泣きしていたレナ。
そんなレナだったけど、リゼルと初めて会った時、怖いお姉さんに対してしっかりと自分の気持ちを伝えていた。
そして今も……。
子供の成長って早いものだ。
俺が一から百まで守ってあげるような、そんな子供から成長したんだな。
嬉しいようで少し寂しい気もする。
「さあ、いつまでもあやつを抑えてはおれん。そこに」
ナバラ師匠を挟んで俺とレナが位置取りを行う。
そして師匠はリゼルの手と、俺が契約している円柱形のクラテルを手に取った。
「我、ナバラ・バランは契約者リゼルを守護する者なり。古き盟約に従い、ここに仮契約を行うものである」
「契約者レナの名において、汝、スーとの仮初の契約を希望せん。仮初なれどその心、その魂との繋がりを求む願いに偽りなし!」
二人から契約の言葉が紡がれる。
どっしりと落ち着いたトーンのナバラ師匠と、凛として高めの音調のレナの声。
その言葉が俺の心の中に響いてくる。
ああ、分かってる。
俺からもお願いするよ、レナ。
俺はレナの心を受け入れる。
「双方の想いは間違いなく。我、ナバラ・バランが仮契約を承認する!」
ナバラ師匠の言葉と共にリゼルの円柱形のクラテルが眩しく光ったかと思うと、その光は消え、そしてレナの持つ正方形のクラテルへとその光が移る。
俺の体になんとも懐かしい感じの輝力が流れ込んでくる。
仮契約が完了したのだ。
「仮だけどおかえりスー。えへへ、なんだか久しぶりで、くすぐったい感じ」
仮だけどただいまレナ。
かわいくはにかむ少女に俺の心は温かくなる。
――バフゥゥゥゥ
破裂するような音と共にヒューマンイーターを包み込んでいた風の渦が消えて無くなる。
内側から技を破ったのだ。
その体には無数の触手が生み出されており、それらは刃物のような形状で金属的な光沢と質感を備えている。
それらがヤツの体の周りを高速で動いていて、それが竜巻を破ったのだと俺は理解した。
「レナよ無理はするんじゃないよ」
「心配しないでください師匠。レナの修行の成果、ここでお見せします!」
目の前には黄土色のスライム。まるで泥水の水槽のようなその中には、逆さになって取り込まれているカミャムの姿がある。
カミャムの体は淡く光っており、現在も輝力を吸い上げられている様子が見える。
レナ、あいつの再生力は驚異的だ。生半可な攻撃じゃあすぐにでも完全再生してしまう。
かといって全力でやると囚われているカミャムを傷つけてしまう。
俺としてはお手上げなんだけど。どうだ?
「ちょっとだけ見たけど、すごい再生力だったね。でもあの再生力も無限じゃないと思う。あれだけの再生をしようと思ったらすごい輝力が必要だよ。
だからね、あれだけの輝力を吸い上げられたら、カミャムさんのほうが先に限界がきちゃうと思う」
レナがそこまで言っただけで、さらに選択肢が狭まった。
これ以上再生はさせてはいけない。
つまり、次の一撃で勝負を決めろということだ。
そんな妙案思いつかないぞ。
「大丈夫だよスー。レナ、いい方法思いついちゃった。それはね……」
ふむふむ、ほうほう、なるほどね。それならいけるかもしれない。いや、確実にカミャムを助け出すことが出来るぞ!
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