074 身長からスリーサイズも把握済みだ
――エルゼーの街 大通り
いかつい鍛え上げられた体の男と小柄な男。二人の男が街の大通りを歩いている。二人は何をするというわけでもなくうろうろ、うろうろと街中を歩き回るという控えめに言っても怪しい行動をしていた。
「兄貴、来ました、あいつですぜ」
大柄な男が小柄な男に呼びかける。
「情報通りか。行くぞ。相手が素人だからって油断して見つかるようなヘマをするなよ」
「わかってるぜ兄貴」
そう言葉を交わすと、その視線の先の先にいる金色に輝く綺麗な髪の毛をした女の子の後をつけ始めた。
その女の子は街の人から呼びかけられればにこやかに手を振って、子供たちが寄ってくれば笑顔で対応している。子供たちは彼女が抱えているスライムの体をさすったり、指で突いたりと、やんちゃな姿を見せている。
そのようなやり取りの流れも終わり、人の姿もまばらになった街道沿い。
距離が離れているとはいえ男たちが後をずっとつけているのはいささか不自然であり、女の子もそれに気づいたようだ。
女の子はタタタと急に駆け出した。
「兄貴、気づかれた!」
「想定ではもう少し人気のないところまで気づかれない予定だったが仕方ない。追うぞ!」
逃げる女の子とそれを追う男二人。
その女の子の逃げ足は結構速いとはいえ、腕にはスライムを抱えている。
それを追うのは大きな歩幅の男たちとくれば、女の子に追いつくのは時間の問題だった。
そんな中、スライムがぴょいっと女の子の腕から飛び出して、二人の男の前に立ちはだかった。
「兄貴!」
「いい、俺が対応する。お前は行け」
兄貴と呼ばれている男が正方形のクラテルから蜘蛛のグロリアを呼び出す。同時に大柄の男がスライムの横をすり抜けて女の子を追い始める。
スライムが大柄の男を追おうとした時――
「おっと、お前の相手はこの俺だ。クィンスパイダー、糸で奴をからめとれ!」
男のグロリア、クィンスパイダーは尻から糸を吹き出してスライムの行く手を遮った。
(これで時間が稼げる。少なくともあいつが女を捕まえるまではな)
Cランクのクィンスパイダーは粘着性の糸で相手の自由を奪う。
たとえスライムが
だが、男の算段も空しくスライムをからめとっていた糸が発火した。
男は驚いた。確かに普通のスライムではないと聞いていたが、こんなにも早く拘束から抜け出るとは、と……。
「おい! プランBだ!」
先行する大柄な男に向けて声を張り上げる。
「了解だ兄貴。契約は後回しだな。お嬢ちゃん、おとなしくしてくれよ」
スライムの奮闘虚しく、女の子は大柄な男に捕まってしまった。
「さあお嬢ちゃん、あのスライムをクラテルに引っ込めるんだ」
大柄の男は小ぶりな刃物をちらつかせて女の子に脅しをかける。
「おおっと、動くなよスライム。お嬢ちゃんに傷をつけたくなかったらな」
攻撃態勢に入っていたスライムをけん制する。
「でかしたぞ。だがチンタラやってる暇はねえ」
追いついてきた兄貴が女の子からクラテルを奪うと、何やらいじりだして。そうして本来ならば
「兄貴、こっちも終わりましたぜ」
大柄の男の手の中にはぐったりとした女の子の姿。揮発性の睡眠薬をかがせて眠らせたのであろう。
「よし、速やかに戻るぞ」
男たちは少女を大きな麻袋に入れると街道を逸れ、どこかへと消えていった……。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
俺、
綺麗な青色の目をした金髪のお嬢様、レナと契約している。
レナが5歳の時に初めて会って、それからずっと一緒にいる。もう7年にもなる。だからレナの事は何でも知っている。好きな食べものから細かい癖まで、もちろん身長からスリーサイズも把握済みだ。別に変な意味じゃない。娘の成長を見守る父親的ポジションだからな俺は。
あ、なんでも知っていると言ったが一つだけ分からない事がある。それはレナがどんな男の子を好きなのかということだ。これだけは全く分からない。そもそも男の子に興味があるそぶりを見せないのだ。
その原因は俺にある。レナの好き好きベクトルは俺に向いていて、人間の異性に向かわないのだ。それはそれで困るのだが、まあ成長するにつれて俺離れするだろうと思っている。
……はっ!!
意識が覚醒する。何やら夢のようなものを見た気がするけど、あまり思い出せない。まあ夢ってそんなもんだ。
俺は今クラテルの中にいるようだ。
普段はクラテルの中にいても外の様子が分かるんだけど、今は真っ暗で何も見えない。
例えばクラテルを袋の中に入れたとしても袋を見ることはできるので中からでも袋に入れられているのは分かるんだけど、今のこの状態はそうではない。完全な闇の状態だ。
壊れたのだろうか。クラテルは丈夫で壊れた話を聞いたことは無いけど、人が作ったものだから壊れることもあるだろう。
……レナ!!
そうだ、どうして忘れていたんだ!
二人組の男に襲われて、撃退しようとしたものの俺は片方の男に足止めされて、その隙にレナは捕まってしまって。
ええい、レナは無事なのか。
外の様子も分からないし、無理矢理クラテルから出ようにも、自分からはクラテルの外に出ることは出来ないし。
この真っ暗さえなんとかなれば……。と思っていた所、その終焉は思いのほか簡単に訪れた。
暗闇は晴れ、周囲の様子が分かるようになったのだ。
レナ!
無事だったか。よかった。
外の様子が分かるようになると同時に俺はレナの姿を探して……そしてその姿を見つけることが出来て安堵した。
それにしてもここは……どこだ?
屋内のようだ。石造りの建物の中で、部屋の中には窓はない。窓の外の景色を見ることが出来ないので何時ごろなのかも測ることは事は出来ない。
レナはどうやら食事の用意をしているようだ。
大きな木の箱から草を取り出して、グロリア用の器に入れて。
準備ができたようで、俺をクラテルから出すと俺の目の前にその器を置く。
さあおたべと、お預けが解除され、俺は器の中の草を体内に取り込む。
これはニニガー草だな。少しだけ苦みのある草で慣れればそれがおいしいとも言える。ミルグナ草に比べて安く大量に市場に出回っているが、それなりの味であり残念ながらミルグナ草にはかなわないのだ。
まあいつもミルグナ草じゃあ変化がないので、こう一般のスライムが食べるような大衆草もいいもんだ。
それよりもレナ。今日はあーんしてくれないんだな。
いつもなら膝の上に俺を乗せてあーんしてくれるんだが。
あと、もうちょっと量を増やして欲しいかな。
いつも食べてる量より少ない。おかわりを所望する!
ぺろりと器の中のニニガー草を平らげた俺は体全体でおかわり要求ダンスを踊りだす。
が、残念ながらおかわりは貰えなかった。
もしかしてあれか。俺が草の食べ過ぎで重くなったとか⁉
だから膝に上に乗せると重いから今日は床なのか?
自分ではそんなに太ったとは思わないんだけどなぁ……。
食事が終わると俺はクラテルの中に戻され、レナは自分の食事を食べ始めた。
おや、あれはミバラクの実じゃないか。栄養満点だけど苦くて、それでレナは苦手にしていたんだけど、おお、パクパクと食べれるようになって。成長したなレナ。いいことだ。
いつの間にか背も伸びたみたいだし、また素敵なレディへ一歩近づいたな。俺も嬉しいよ。
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