108 決着の時
辺りの視界を奪うかのように土煙が舞う。
俺達はクリングリンさんの体をがっしりと掴んだままフィールドに叩きつけたのだ。その衝撃がクリングリンさんを通して俺にも伝わって来た。
そして……彼女の反応が無いことを確認すると、レナはその体から手を離した。
頬をなでるような柔らかな風が土煙を払い流し、その様子が審判席や校舎から確認できるようになる。もちろん至近距離の俺達もそうだ。
フィールドに横たわるクリングリンさん。そしてその横に立っているのは俺とレナだ。
クリングリンさんは頭から落ちただろう。
兜はかぶっていないから普通だったら重傷を負ってしまうところだが、ユニオンリンクの防御膜があるので致命傷にはならないはず……だ。
「大丈夫よスー。クリングリンさんあの場面で受け身を取っていたから。凄いよね」
そ、そうなのか?
気づかなかった。とはいえ打ちどころが悪ければ……。
そんな心配をしている俺の前で、ピクリとクリングリンさんの指が動いた。
ほっ。よかった。無事だった。
「う、ううっ……」
痛みに顔をしかめながらも何とか起き上がろうとするクリングリンさんだが……俺達の放ったコスモ重力落としはそんなに温いものじゃない。自由騎士の模倣だけど元々の技の威力が高いのだ。
それでも、体を震わせながらも地面に手をついて、腕の力で何とか体を起こし……太ももに手を当てて強引に立ち上がろうとする。
ほ、本当に起き上がってくるのか?
あれだけのダメージを受けて本当に!?
まだ
レナ、最後まで気を抜くんじゃないぞ。
「分かってる。分かってるけど、もう……」
つっかえ棒として脚を支えていた手が滑り、ドシャりと倒れこむクリングリンさん。
それでももう一度、まだ戦うんだと言わんばかりに再び体を起こし始める。
「クリングリン先輩! 頑張って! 立ち上がってください!」
声援だ。校舎側からだ。いったい誰が……。
いつの間にか校舎のベランダは学生達でいっぱいに埋め尽くされていた。静かに勝負の行方を見つめるその中で、一人の女子学生がクリングリンさんに激励を送ったのだ。
「先輩は凛として毅然として気高くて高潔で! 何者にも屈せず前に進む姿は私に勇気をくれました!
そんな
「わたくしはクリングリン・ドリルロール。後輩に無様な姿は見せられませんわ!」
啖呵を切ってぐいっと一息に立ち上がった。
おおっ、と審判席からもどよめきが上がる。
一体彼女の体のどこにそんな力が残っていたのか……。
いや、愚問だな。応援は無限に力をくれるものだ。
どんなに絶望的な状況でも、どんなに打ちのめされた時でも、それは心の底から湧き上がる力となって勇気となって限界を超えた体をも動かすのだ。
だけど……。
――ガシャリ
一度は立ち上がったその体であったが、ふらりと前後に揺れたかと思うと、そのまま前のめりに地面に倒れこんでしまった。
そして、クリングリンさんの体は光だし、黄金の鎧は小さな粒へと変わっていく。
その粒は彼女の体を離れ、すぐそばに二つの塊を作っていき……なんと、リミットシェルとフリントロックの姿を形成していったのだ。
二体のグロリアの姿が鮮明になるころには鎧が二重に見えていた状態も終わりを迎えて、元のフルフレッジドアーマーへと戻った。
審判の先生がそんな姿を確認すると――
「
と、戦いの終了を告げる。
その瞬間、地鳴りのような歓声が辺りを埋め尽くした。
やったぞレナ、勝った!
クリングリンさんに勝ったぞ! あのとてつもなく強かったクリングリンさんに!
「うん! 勝ったよ! レナとスー、二人の勝ちだよ!」
ああ、二人の勝利だ。これで晴れてレナは第一王女守護騎士になれるんだ!
あの日、レナがベッドの中で俺に語ってくれた想い。騎士になりたいという夢がようやく叶うんだな。レナが自分自身で考えて、その目標に全力で邁進して……。あの大泣きしていた、小さかったレナがこんなに成長するなんて!
「レナが頑張ってこられたのはスーのおかげだよ。いつもスーがレナのそばにいてくれて、力をくれて。だからレナは頑張れるの。ありがとう、スー」
そう言ってもらえるとグロリア冥利に尽きる。俺はレナが
よーし、今日はお祝いだ。大勝利パーティーを開催するぞ!
「
大盛り上がりの中を圧の乗った声が一言駆け巡った。
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