044 唾液きたわぁぁぁ
俺が主賓の会はいつものように夕方から始まった。
目の前にはぐるり一周囲むように好物のシテンシテン草が皿に盛られている。
それと……目立つように鎮座するマッドキノコの干物。
マフラーと一緒に失ったことを知ったリゼルが買ってきてくれたのだ。
うん、うれしいよ……。俺はもうダークスライムじゃないからね。だからたぶん腹をこわすよ。
俺はそっとモゴモゴンにそれをお渡ししておいた。
モゴモゴンにとってもマッドキノコは好物なのだ。
リゼルはと言うと、序盤からハイペースで酒を飲み続けている。おかげでもうベロンベロンだ。開始からずっと肌身離さず酒瓶を手に持ってるんだからな……。
そんなリゼルが俺のそばに寄ってきて、なぜか俺を持ち上げて頭上に掲げた。
てれれれーんという口での効果音付きだ。
何が面白かったのかゲラゲラと笑い始め、地面におろされたり頭上に掲げられたりを何度も繰り返されるという
リゼルの脅威が去った後、グロリア達が代わる代わる俺の元にやってきてくれた。
ウォンウォンと鳴くグレーターハウンドのルプシュ。そしてその5つ子達。ルプシュは俺の体をぺろぺろと舐めてお別れの挨拶としている。小さな子供たちは何故か頭突きよろしく俺の体の中に頭を突っ込んで足をばたつかせている。これ、息できてないんじゃないのかと焦って、体外に排出した。
会は屋外での実施なので、ヴァリアントホークのヒーランも参加している。
羽ばたくと風圧で料理が飛んで行ってしまうので、よちよちとゆっくり歩いてきてくれて、俺とヒーランは頭を下げ合った。
ぶすっと何かが背中に刺さった感覚があってそちらを向くと、そこにはアクアビーストのホルンがいた。今まさに召されそうな感じの陸に上がった魚状態!
屋外の臨時特設プールで参加していたホルンはびちびちと跳ねて水槽から出て、ゴロゴロ転がりながら俺の元に来てくれたのだろう。5mもの巨体が転がってくることに気づかない俺も俺だが、虫の息になりながら俺の元にやってきてくれてありがとう。
水差しのようなグロリアのスケルポット達がその口から水を噴出して弱ったホルンを介助して、ホルンは無事にプールへ戻っていった。
モゴンとモゴモゴン達からはプレゼントをもらった。口の中から取り出されたそれは、モゴン達秘蔵のイラミーナ草だった。秘境に生えるという珍しい草なので食べた事なかったからうれしかったぞ。味はさっぱりしていてシソに似ていた。
キルベス先輩はそのドリルを使ってミックスジュース、もとい青汁を作ってくれた。
何種類もの草が混合されたその液体はどろりと粘り気があり、ねばねばした草が混じっているのが容易に想像できた。飲みやすいようにもう少し水分を足してもいいのではないかという物だった。味はお察しのとおり……。
キルベス先輩は爪であるドリルに付いた青汁をペロリと舐めてきれいにしようとしたようだが、途端に渋い顔をしていた。
そんな盛り上がりの中、後方の建物から人が一人現れた。
どこで拝借したのか、手には掃除用のモップが握られており、それによりかかるようにしてここまで歩いてきたようだ。
ふらふらとおぼつかない足取りのその女性は俺たちがやっとのことで救出したカミャムだった。
建物の入口から出てこちらを見るなり――
「ひわゎぁぁぁぁぁ、なに、なにこれ、グロリアがいっぱい! 天国? ゴッドランド?」
などと手に持っていたモップを放り出すと奇声を上げながらこちらへと駆け出してきた。
が……、そのテンションに体が追いつかなかったのか、途中で盛大にすっころんで動かなくなった。
宴に参加していた2体のヒーリングヒポポタマスが駆け寄って、その唾液を倒れたカミャムにぶっかけた。
あーあ、唾液の原液だよ。
治療薬で名高いヒーリングヒポポタマス軟膏は唾液を材料にいくつかの工程を経て完成する。主にその臭いを取り除くためだ。
唾液そのままでも治癒効果は高いが……つまりクサイ。
「ひょぉぉぉ、生ヒーリングヒポポタマス! 唾液きたわぁぁぁ。この癖のある匂い、す、て、き! ねえもっと、もっと私にぶっかけて!」
ぴくぴくして虫の息だったはずのカミャムは起き上がると、がしりと両脇に2体のヒーリングヒポポタマスを挟み、追加の匂う唾液を所望した。
さらにはだ液まみれの自分の体や顔をヒーリングヒポポタマス達にこすりつけて……スキンシップを計ってるのか?
その奇妙な行動に怯えたヒーリングヒポポタマスは、するりとカミャムの脇ロックを抜け出してこちらへ逃げ込んできた。
それを追いかけてきたカミャムだったが――
「うひひひ、スケルポットにモゴン、こっちはウルフファミリー? ややや、違う、グレーターハウンドとリトルハウンドの組み合わせですね。ああっ、その金色の羽根はヴァリアントホーク! ひゃぁぁ、乗せて乗せて、背中にぃぃぃぃ!」
ハッスルして飛び掛かろうとするカミャムに対しヒーランはその大きな翼で風を起こすと、カミャムの白衣はべろんとめくれて、風にあおられたカミャムはごろごろと後方に転がっていった。
「いちち、資料どおり気難しい子ですね! おほっ、もしかしてこの子はドリルライナー? いや、その立派なモヒカンはアッシュブレイクに違いありません!」
痛みに頭を抱えたカミャムだったが、視界に入ったキルベス先輩を見るなり飛び起きると、両手を大きく広げて抱き着こうと飛び掛かった。
しかしながら、カミャムのスピードでキルベス先輩を捕らえられるわけもなく――
ぐえっ
すばやく移動したキルベス先輩の残像に飛び込むようにつっこんだカミャムを抱きとめるものはおらず、カミャムは俺の上に倒れこんできた。
「おぉぉ、なんていう素早さ。やっぱり目で見るのは全然違いますね!」
ぐぎぎ、そんなことはいいからどいてくれ。
クッション状態の俺に手を突いたまま、消えたキルベス先輩の姿を探しているカミャム。
「おぉ、これは申し訳ない。びゅーてぃふるなスライムさん。ふひひ、手触りさいこーです!」
あ、ちょっと、どこ触ってるの! くすぐったい、気がする!
俺は人間のころのクセで敏感な部分を触られたと錯覚し、体をぐねぐねとくねらすと、カミャムはその反動でごろりんと転がっていった。
「なんらぁ、さわがしいやつらなぁ。びょうりんは、さけれものんれ、ねときな」
カミャムの転がった先はリゼルの元。
転がってきたことで初めてカミャムを認識したリゼルは、手に持った酒瓶をカミャムの口にねじ込んで……酒を流し込んだ。
おいおいおい、病人に酒って大丈夫なのか?
それよりもカミャム酒を飲める年齢なのか?
えっと確か19歳だから、この世界では合法!
垂直にそそり立った酒瓶、そこから流し込まれる酒。
それに耐えきれず、カミャムはぶぶーっと酒を噴出すと、ふらふらになってそして仰向きに倒れてしまった。
こらリゼル、アルハラはダメだぞ!
「わたしのさけがのめんのかー、むにゃむにゃ」
リゼルもしこたま飲んでいたようで、急なアクションから酔いが回ったのかそのまま眠りにと落ちていった。
おいおい誰がこの騒ぎの後片付けをするんだよ……。
大混乱となった会はそこでお開きとなり、各々があたりを片しながら、キルベス先輩がリゼルを、俺がカミャムをそれぞれ寝室まで運んだのだった。
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