134 レナのスーパーなグロリアなんですから
俺の名前はスー。かつて
などと走馬灯まがいの記憶が頭をちらつく。
どうしてかと言うとだな、今必死なんだよ。
マックスのウィングキャメルの背からジャンプして浮遊大陸クシャーナの外壁に引っ付いたところまでは良かったんだけど、そこから上に上がるのが大変だった。
まず一つ。くっ付いたものの、この外壁、もちろん岩と砂で出来ていてボロボロと崩れやすい。気を抜くと岩と一緒に剥がれ落ちてジ・エンドだ。
ゆっくりとそっと気を使いながら少しずつ登っていくのだが……レナとリコッタも状況を把握して俺の体内で動かないようにしてくれているが、それでも完全に動くなという事にはならない。リコッタがちょっと体を揺するだけで俺はもう神経を尖らせる必要があるのだ。
くしゃみとかやめてね。
そしてそしてもう一つ。そんな壁を登っていたらだんだん外側に反り返っていって、垂直の壁だったものが今は水平になって……天井に張り付いている状態だ。ちょっと気を抜くと魂を重力に引かれてジ・エンドだ。
うおっ、いらんことを考えていたらむにょんと体が重力に引かれて伸びてるっ!
危ない危ない。そーっと、ゆっくり、やさしーく……。
◆◆◆
そんな感じで最大の難所を乗り越えて。そしてようやくクシャーナの大地を踏むことが出来た。
うぐぐ、疲れた……。
レナとリコッタを体外に排出して、水たまりのようにぐんにょりとしている俺。
そんな俺にレナは肩掛けカバンからグロリア用回復薬を取り出して俺の体に流し込んでくれる。
うぃー、染み渡るぜ。
ありがとうレナ。
さて、疲れたからと言って一服している暇はない。先ほどの超強力な砲撃から察するに、すでに帝国軍は襲ってきている。ウルガーもリゼルもナバラ師匠も歴戦のツワモノで少々の事ではやられたりしないと思うが、帝国が相手となるとどうなるかは分からない。
俺も急いで駆け付けたい所だが……。
ちらりとリコッタの様子をうかがう。
彼女を村まで送り届けなくてはならない。そして俺は今どこにいて村がどっちなのか分からない!
「レナ、行って。私ならここから一人でも村に帰れるから」
うひぃ!
俺に心臓は無いのにドキッとした。
俺の思考読まれた? それとも表情に出やすいの!?
「でも……」
「うん。村に帰るのはちょっと怖い。あいつらに会いたくないし、マフバマ様が怒ってるかもしれないって思うと帰りたくないなって……」
リコッタ……。
そうだよな。リコッタはまだ8歳の子供。使命だお役目だなんだって言っても割り切れないことはあるだろう。
「だけど! 私を連れて帰るために死んでいったマックスお兄さんのためにも、私、帰るよ!」
「リコッタちゃん……」
マックスは死んでいないぞ。見てないから多分だが、死んだと決めつけるのはかわいそうだ。
だけどここはリコッタに甘えさせてもらおう。レナ、俺達は救援に向かうぞ!
「分かったわ。リコッタちゃん、気を付けてね。急がずにゆっくりと、隠れながら帰るのよ」
「うん。レナも、スーも頑張って。帰ってくるの待ってるから」
ありがとうリコッタ。すぐに片づけて村に帰るよ!
そしてお互いが背を向けて走り出す。
各々が役目を果たすために。
◆◆◆
俺達がどっちに向かえばいいのか。それは簡単だった。
遠くの方で聞こえていた花火のような音。明らかに通常では聞こえるはずが無いその音の方向に走って行くと、遠くにオレンジ色の貝が浮かんでいるのが見えたのだ。
非常時なので俺はレナの腕から降りて跳ね進んでいて、レナはダッシュでついてきてくれる。
貝の近くに米粒のように見えるものが浮かんでいる。
かなりの数だがあれがすべて敵だろう。
スピードを上げたい所だが、俺が全力疾走するとレナがついてこれない。今もアイテム満載の重いカバンを下げながら必死についてきてくれているのだ。だけどこの状態が一番早い。俺の体内にレナを入れて跳ねるとその分スピードが落ちてしまうのだ。短距離ならいざ知らず長距離ともなるとな。
米粒がだんだんと大きくなっていく。
かなり大型のグロリアが相手のようだ。
ええい、もう少し近づかないと状況が分からないぞ。
はやる気持ちを押さえて跳ね続け、空の様子をつぶさに観察する。
あれはフリーゲンゴレムか? 思ったより数が多い。
リゼルもナバラ師匠も苦戦している。ウルガーは見えないけど地上だろう。
なんだ? 急に砂が舞い上がって見えにくくなったぞ。
もしかして風の結界とかか?
多分そうだ。急に二人の動きが悪くなった。
俺は後方のレナの様子をうかがう。
はぁはぁと大きな息をして必死に走ってくれている。
再び空を見上げる。
フラフラと飛行する二人にフリーゲンゴレムが襲い掛かって……だめだ、全然回避できていない。
急がなければ、もう少しなんだ。もう少し!
リゼルっ!!
パンチがヒーランの腹に当たった。まずいぞ、まずいぞ。
ああっ!!
ナバラ師匠!!
ヒエルゥがフリーゲンゴレムに捕まった。まずいまずいまずい!
あれはまずい!
ええい、全速力だ、届いてくれよっ!
俺はイグニスドライブを起動させ、ありったけのスピードで加速した。
間に合う!
上空ではフリーゲンゴレムが磁石のようにくっ付いて塊になり……そして落下した。
そおい!
俺はラストスパートで落下地点に滑り込み、クッションになるようにスライムボディの弾力性を高め、それでいてイグニスドライブ起動中の熱々のままではナバラ師匠もヒエルゥもまる焼けになってしまうのでボディをクールダウン。
万全の状態でナバラ師匠とフリーゲンゴレム御一行様を受け止めた。
ヒエルゥとナバラ師匠は体内へご招待。
じゃまなフリーゲンゴレムは落下の衝撃を増幅して、と。
俺の体が吸収した落下の衝撃を地面に反射させ再度俺の体を通過させ、フリーゲンゴレムに振動として伝える。
あ、忘れずにお土産も渡しておくぞ。
そーれ!
フリーゲンゴレム達はトランポリンの上で跳ねたように空へと舞って。
ズズンと音を立てて地面に落下した。
大丈夫でしたかナバラ師匠。
俺が来たからもう安心ですよ。フリーゲンゴレムなんかには後れは取りません。
なんたってあなたの誇る弟子、レナのスーパーなグロリアなんですから。
「スー!!!!!」
お、リゼル、悪いな遅れてしまって。
なんだ? そんなに頬を赤らめて涙を浮かべて。そんなに俺との再会が待ち遠しかったのか。そんな顔をされると俺も男だからドキッとするぞ。
ちょっとリゼルさん、熱い視線でこちらを見るのはいいけど、後ろ後ろ!
ああもう、そーらよっと!
俺はリゼルに迫るフリーゲンゴレムに向かって粘着液を射出する。
狙いは背中のバックパック。
狙い通り見事ホールインワン。そして――
――ドゴォォォン
フリーゲンゴレムは爆散した。
「くっ、なんでいきなり爆発を。もしかして?」
そうです。俺の攻撃です。
強大な力を持つフリーゲンゴレムのウィークポイントはそのバックパック。爆発物質を爆破させた推進力で飛行するため体内で大量の爆発物質を作っているのだが、そのバックパックの噴出口を塞いでやるとこの通り。
行き場をなくした爆発物質が体内で爆発の連鎖を引き起こして爆散してしまうというわけだ。
その後いくつもの爆発音が響いた。
もちろん先ほどナバラ師匠に取りついていたフリーゲンゴレム達だ。
渡しておいたお土産というのはもちろん粘着物質。
バックパックを詰まらせておいたフリーゲンゴレム達が爆発四散して辺りに破片をまき散らしたというわけだ。
ウルガーは、と。
あー、セキワケウサギね。確かにケロラインとは相性が悪いけど、リゼルやナバラ師匠を危険な目に合わせてしまうなんて、自由騎士失格だぞ。
おれはプッと、粘着液を射出する。
うまくセキワケウサギの足の下に潜り込んだ粘着液。
ビタンビタンと、二体のセキワケウサギは地面に足がくっ付いて倒れこんだ。
追加ね。
折り重なるように倒れたウサギたちの間に粘着液を放り込む。
これでよし。
地面と粘着液だったら地面側を無理矢理はがしてしまうかもしれないけど、体と体ならどうにもならんだろ。その体毛、結構丈夫なんだろ?
俺の目論見どおり、お互いの体が引っ付いたセキワケウサギはゴロゴロと辺りを転がるしかなかった。
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