082 イグニスドライブ起動!
「ザンメア、いつまで遊んどる。はやくとどめをさせ」
ここにきて大臣様からの無慈悲な
「御意に。
……さて、お前達の実力は分かった。ここからは全力でやらしてもらう」
大臣に向かって
槍グロリアの
ちなみに床は石材なので土の地面とは違ってさすがに槍は刺さっていないのだが、グロリアだからちゃんと自立している。
ザンメアのあのポーズ、セリフの通り今から全力を出すに違いない。
そんな事はさせない、と邪魔をしたい所なんだが邪魔が出来るような隙が微塵もない。
そうこうしているうちに、はぁぁぁぁ! と気合をいれ出すザンメア。
それに呼応して隣の槍グロリアが瘴気に覆われていく。
うおお、まじか!
人間が瘴気変換できるなんて。
武器系のグロリアは高ランクになると2つの系統に分かれる。輝力をエネルギーとする系統と瘴気をエネルギーとする系統だ。槍グロリアで行くと、輝力を利用するほうが、エンジェルパイクやホーリーランス、瘴気を利用する方がイビルサリッサやデビルパイクという具合に。
人間は輝力は持っているが瘴気は持っていない。そのため瘴気を利用するグロリアは
そういった意味で瘴気系のグロリアは輝力系のグロリアより下に見られがちなのだが、普通はグロリア側で行っている瘴気変換を、どういうわけかザンメアは人間の身でやってのけた。
グロリア側としては純度100%の瘴気で活動できるので通常以上の能力を出すことが出来るだろう。
穂先部分にある口が開閉され、牙がガッチンガッチンと音を鳴らしている。
濃度の濃い瘴気で喜んでいるように見える。
実際黒いモヤのようなものが槍グロリアを覆っており、穂先部分である顔の辺りはなお一層濃い色の瘴気に覆われている。
あれで切られたら輝力を吸われてしまうだろう。はぐれグロリアはそうやってエネルギーを得ているらしいからな。
さて、どうやって戦うか。
こちらの攻撃は一発も当たった様子はない。あちらの攻撃は当たり放題。その上この後は本気の攻撃がやってくる。
レナ! リリアン! 何かいい手を考えてくれ。
だが攻撃方針が固まらないうちにザンメアの準備が完了してしまう。
「獄瘴炎波!」
槍グロリアを上段の構えに構えたザンメアが、気合一閃、槍を振り下ろすと槍から瘴気の塊が火炎放射のように伸びて襲い掛かってきた。
回避! 回避!
この角度なら後ろのレナに当たることもないので回避しても問題ない。
襲い来る瘴気を紙一重で回避した俺のスライムボディがチリチリと焼ける。
熱いわけじゃないのにスライム細胞が焦げたのだ。
これは……直撃すれば俺はもとより
それを伝えたいが………気を抜くと――
ほら来た!
技は囮に過ぎず、本命は接近戦からの一撃。
ザンメアはすでに踏み込んできていた。狙いはミナディウスではなく俺。
薙ぎ払い、袈裟切り、突き、突き、薙ぎ払い。
神経は無いけど全神経を集中して繰り出される攻撃を回避する。そのたびに槍に纏わりついている瘴気が俺の体を蝕んでいく。
だっ、けっ、ど、だんだんとヤツの攻撃が見えるようになってきた。
この調子なら、ヤツの次の攻撃後の硬直に一撃入れられる!
攻撃の最後、鋭い一閃突きを何とか回避し――
「やっちゃえスー!」
「そこだミナディウス!」
行くぞミナディウス、連携攻撃だ! クロス体当たり!
俺は地面を強く蹴り、突き後の硬直で一瞬開いているザンメアの懐に、ミナディウスは背中側から急所である脇腹へ向けて体当たりを繰り出す。
ドンピシャのタイミングで両側から十字を描くごとく強敵ザンメアを強襲する。
行ける。まだ腕が戻りきっていない。
俺への防御はもとより、ミナディウスの攻撃に対しては無防備だ。
――ダンッ!
勝利を意識したら敗北フラグとはよく言ったもんだ。
結果を伝えると、ザンメアは踏み込んだ左足を地面に強く叩きつけ、衝撃波的なものを発生させ俺達を吹き飛ばし、合体攻撃をしのいだのだった。
衝撃波を受けてて地面に叩きつけられて、反動で宙に舞ってしまった俺にザンメアの追撃の槍が迫る。
大丈夫だ。距離が少し遠い。それに攻撃も見えている。
空中であることを差し引いても問題なく回避できる。
俺はバック宙よろしく体を思いっきり後ろへとひねってその突きの射程外へと緊急避難した。
――ドスッ
「スー!!」
な、んだって……。
確かに間合いの外に回避した。槍グロリアの長さ、そしてザンメアの腕の長さを足しても俺のところには届かないはずだった。
だが、俺の想定とは異なり、俺の体はその中心を槍に貫かれて……見事に俺の体は槍が貫通していた。
そ、そうか……槍グロリアがザンメアの手を離れて、自ら動いて、俺の思い描いていた攻撃射程を超えてきたのだ。
槍グロリアは自分では動かない。これまでのザンメアの戦い方はそう俺達に思い込ませるためのフェイク、か……。
「そこなスライム、後半の動きは良いものがあったが、感覚に頼りすぎたな」
俺を貫いた槍グロリアは纏っている瘴気でドーナツ形状になっている俺の体を焼いていく。
ぐっ、くそっ、はやくこいつを抜かないと……。
「スー! ピンチはチャンスだよ! ようやく相手を捕まえたのよ!」
そ、そうか! 分かったぞレナ。
グロリアだけなら全力を出せるぞ!
「何をたくらんでいるかは知らんが、そうはいかん。あの丸いのも相手をせねばならん。一気に燃やし尽くしてやる」
間も置かずザンメアは俺が突き刺さったままの槍グロリアを握る。
さすがに対応が速い。
だけどな、ご自慢の槍グロリアが俺に捕まっている構図に変わりはないんだぞ。
燃え上れ俺の体よ。イグニスドライブ起動!
こっそり特訓を続けていた。いかに俺の体温を速く高く管理しながら上げれるかを。その結果たどり着いたのがキーワードだ。必殺技を意識したキーワードで一気に体温を上げることが出来るようになったのだ。
35+7歳のおっさんスライムだけど子供のころを思い出す。
幼稚園の頃は友達とアニメの必殺技を練習したりしたものだ。
さあいくぞ! そんなちゃちな瘴気なんか消し飛ばしてやる!
――ギエェェェェイ
俺の後方から叫び声が聞こえてくる。
もちろん俺の体を貫いている槍グロリアの先端にある口からだ。
「ぐうっ、なんだこの熱!」
金属ボディの槍グロリア。熱が柄に伝播するのは当然のこと。
今ザンメアががっちり握っている両手は高熱に焼かれているのだ。
もっともっとだ上がれ、俺の体温!
「スー!」
大丈夫だレナ。前のようなヘマはしない。レナからの輝力もちゃんと来ている。限界は見極められているつもりだ。
俺のスライムボディに気泡が上がり始める。これは危険のサインだ。だけどこいつが落ちるまでやめるつもりはない。
「ぬおぉぉぉぉぉ!」
し、かし……ザンメアのやつ、手を離そうともしない。鉄板で焼けるような音がしてるってのに……。
「ミナディウス! トルネードクロ―だ!」
そうだ。俺は一人じゃない。今は共に戦う仲間がいるんだ。
「ぐぬぅぅぅぅ、ぬわぁぁぁぁ!」
俺の予想外の動きに冷静さを失っていたのか、ミナディウスの攻撃、その手に輝く鋭い爪の回転を加えた一撃に対応できず、ザンメアは勢いよく闘技場の壁に叩きつけられた。
こっちもだ!
俺は残りの力を振り絞ってさらに体温を上げていく。
ザンメアがお前を手放してしまったから瘴気の供給も無いだろ。
「スー!!」
俺にはあるぞ。俺にはレナの力が伝わってくる!
俺とレナの力で燃え落ちろっ!!
辺りに響いていた槍グロリアの叫びが徐々に小さくなっていき……そしてついには聞こえなくなった。
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