004 ブライス家での生活
レナ・ブライス、5歳。ブライス家の長女にして俺の
ブライス家はいわゆるお金持ちの家で、レナはお嬢様ということになる。
父親のマーカス、母親のライザ、今は王都で勉学に励んでいる兄のジョシュア、そしてレナの4人がブライス家の面々だ。
レナ達が住むブライス家のお屋敷は郊外にあるが豪邸というわけではなく、こじんまりとした庭にちょうど良くまとまった広さのお屋敷が建っている。
そこを数人のメイドさんたちが交代で切り盛りしているのだ。
そんなブライス家に俺がやってきて数日、つまりは俺がレナのグロリアとなって数日が経っていた。
「スー、朝ご飯よ、あーんして」
と言われて、体に草を突っ込まれた。
スライムがよく食べるミルグナ草というやつだが、一度にそんなにたくさん突っ込まれては消化しきれない。
ちなみに口は無いためあーんはしていない。レナが口だと思って草を突っ込んでいる場所は、俺の意識的には背中だ。
「スー、お散歩しましょ!」
と言われて、寝ている所を起こされた。
寝ぼけたまま屋敷の外に出てみると早朝で日が昇る前だった。
さすがにこんな時間に幼女一人で散歩するのはまずいと思い、その場に踏みとどまってレナと引っ張り合いをしていた所、メイドさんに発見されて事なきを得た。
皆が寝ている朝っぱらから散歩に行こうとするなんて、ワクワクして寝られなかったんだろうな。
よっぽど前日の散歩が楽しかったと見える。
「スー、お風呂にはいりましょ!」
と言われて、風呂場まで連行された。
石鹸で泡まみれにされた挙句、途中から泡を作るのに夢中になったレナが湯船の中まで泡だらけにしていた。
このままじゃえらい事になると思い、泡に隠れてこっそり抜け出そうとしたら、「お風呂嫌いはよくないのよ」と言われて湯船にダイブさせられた。
案の定、その惨状を発見されて二人して反省させられた。
これらは俺とレナとの数日間の生活のほんの一部分だ。
見ての通り、35歳独身サラリーマンだった俺は元気な幼女にたじたじというわけだ。
娘がいたらこんな感じなんだろうか?
まあ今の俺は親というよりは愛玩動物ポジションなのだが……。
そして今日も一日が始まる。
「スー、行きましょ!」
パリッとした紺色の制服に身を包んだレナ。
どこに行くかというと、学園だ。
レナはお嬢様育成学校であるグレア学園に登校しているのだ。俺との出会いもまさにそのグレア学園でのことだった。
レナは週に3回学園に通っている。
学園は午前に始まり、午後の早いうちに終わる。
その中で幼いうちから淑女としての教育が行われているのだ。
今日は学園の登校日。
はやく、はやくと俺を急かすレナ。
ぽよぽよ移動する俺の目の前でくるりと一回転して見せる。
レナはもう準備できてるんだから、と、お姉さんぶりをアピールしている。
うんうん、お姉さんならお着替えも一人で出来るようにならないとな。メイドさんに手伝ってもらっているのは知ってるぞ。
おっと、服の裾がスカートの中に入ってしまってるじゃないか。
俺はレナににじり寄ると器用に服の裾を正してあげた。
スライムボディの扱いもうまくなってきたというものだ。
学園への送り迎えはライザママが行っている。
なるべく子供との時間を持ちたいというライザママの希望でそうなっているのだ。
ライザママはいつも笑顔を絶やさない系美人ママさん32歳。
レナと同じく綺麗な金色の髪の毛で、腰まで伸ばした髪の毛を三つあみで一つに束ねている。
レナの母として俺にも優しく接してくれるのだが、実は生前の俺よりも年下なのだ。
今日も今日とてライザママはレナと俺を連れ立って学園へ向かうというわけだ。
学園へは徒歩で向かう。
学園はブライス家のお屋敷と同じく郊外にあるため、徒歩でもそれほど時間はかからない。
この登校時間は俺の大好きな時間の一つだ。
散歩が大好きな犬のようだな、とか深く考えてはいけない。
この世界は比較的気候が安定している。
やわらかな太陽の光が一面に降り注ぎ、温かな空気が辺りを包み込んでいる。
スライムの体となっても太陽の光のありがたみは覚えている。
道なりの畑では腕の筋肉がやたら発達した人型のグロリア、Dランクのストロングアームが自分の
その横では大き目の水差しのような形をしたグロリアが口から水を噴き出して作物に水をやっている。あれはEランクのスケルポットだな。
こうしてみると、神カンペの情報通りグロリアが生活の一部となっているのがよくわかる。
俺たちの横を、頭に一本角の生えた立派な馬が引く馬車が横切っていく。
あの馬はDランクグロリアのシングルホーンホースだ。
「おーいレナ!」
王侯貴族が乗るような個室タイプで中の見えない馬車の窓から一人の少年が顔を出し……。
「先に学園に着くのは俺だぜ!」
などとよくわからない事を言いながらこちらに手を振っていた。
こちらというか、レナにであるが。
当のレナはと言うと、何の返事もせずにスルーを決め込んでいる。
「あらあら、ジミー君はいつも元気ね」
小さくなっていく馬車を見ながらつぶやくライザママ。
「声が大きいのよジミー君。お父様のような紳士とは大違いだわ」
「ふふふ、レナは手厳しいのね」
そんな会話がなされながら、俺たちは学園へ向かうのであった。
◆◆◆
「ナノちゃんミイちゃんおはよう!」
レナの元気いっぱいのおはようの挨拶だ。
学園に着いた俺たちは校舎を入ったすぐの所、沢山の下駄箱が置かれた場所にいる。
「あ、レナちゃん、おはようございます」
「レナちゃんおはよー、それにスーも」
手慣れた所作でスカートの両端を少し摘み上げる挨拶を行ったおとなしめの子がナノちゃん。ちょっとウェーブのかかった肩まである黒髪とワンポイントの赤いリボンが可愛い。
俺にも気さくに話しかけてくれるミイちゃんは、赤色かかったショートカットの女の子。
ナノちゃんの所作を見て慌てて真似をしている。
連鎖するようにレナもスカートを摘み上げていた。
皆、お嬢様への修行中なのだ。
ナノちゃんとミイちゃんはレナの仲良し友達。
お歌の時もお遊戯の時もいつも一緒。
先日からはその中に、ナノちゃんミイちゃんのグロリアと俺とが加わった仲良しグループが出来上がっている。
子供たちがきゃっきゃしている間、大人たちはというと。
大人達は大人達でキャッキャしているのだ。
ライザママは先生や奥様方と立ち話をしている。
メンバーとしてはメイドさんが多い。お金持ちの子供たちが集まるため一般的には送り迎えはメイドさんが行っているのだ。
メイドさんたちも情報取集が欠かせないのか、井戸端会議に花を咲かせている。
さてさて、これが下駄箱前という社交場の状態だが、この後ライザママともここでお別れとなり、子供たちは教室に向かうのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます