131 クシャーナ防衛戦 その1
時にして1日前。スー達がリコッタを連れ戻しにクシャーナを飛び立った後。
依然としてクシャーナの民は一丸となって結界展開用の
帝国への警戒は土地勘のあるクシャーナの民が引き継いで夜通し行う事になり、休息のため3人は村で一泊することが決まった。
村の中に3人全員を受け入れるだけの大きさの家は無く、さらにウルガーは村の外で寝ると言い出したので3人は分かれて宿泊することになる。
以前からクシャーナに出入りしているナバラはいつどおりマフバマの家で。村を救ってくれたリゼルを是非歓待したいという女性の家にリゼルが。ウルガーは村の外の木の上。
三者三様に夜を明かす事となった。
そんな中、マフバマ邸。
食事を終えたナバラとマフバマがお茶をすすっている。
「すまんな」
「何をおっしゃいます。いつも泊っているではないですか」
「そうではない。ワシで良かったのか……とな」
「……」
無言のマフバマがコトリと湯呑を床に置く。
「これで良かったんですよ。今は非常事態です。私情を挟んでいる場合ではありませんからね」
「じゃが……」
「あの事は気になさらないでください。あれは私が決めた事です。ナバラ様はそれに協力してくださっただけ。今回もそうです。司祭である私が最終的に決定を下したのです。それに……何も夜は今日だけではありませんからね」
「そうじゃな。そう祈ろう……」
そして夜は更けていった。
翌朝。
空を浮遊するクシャーナの地にも日の出はやってくる。
3日周期でこの大陸上を周回しているクシャーナでは毎日同じ方向から太陽が昇ることは無い。
クシャーナ自身が移動していることもあり、太陽は複雑な軌道を
日が昇ってからしばらくして。
わざわざ木の下まで持ってきてくれた朝食を感謝していただき、ウルガーは腹を満たす。
昨日帝国は現れなかった。今日現れるかどうかも半々だ。
今日現れない場合は覚悟を決めたほうがいい。なぜなら明日は帝国本国の上空だからだ。
そのような事を考えながらウルガーはナバラ、リゼルと合流する。
昨日と同じように3人で警戒を行っている折、ウルガーが直感的な感覚で帝国の襲来を感じ取って……そうして3人は決戦の場へと出撃したのだった。
◆◆◆
クシャーナの端。そこは地面と空との境目。
先日スーとレナが飛び立った場所とはまた別の場所。そこに帝国軍はいた。
「なんだありゃ」
ウルガーは地を駆け、リゼルとナバラは飛行グロリアに騎乗して飛行中。
そんな最中に目にした見慣れない光景に、ウルガーは思わず声を上げた。
空に浮かぶ巨大な貝型のグロリア。アサリやシジミのような形ではなく、美の女神が素っ裸で
「あれはオーロラシェルじゃな。わしも見るのは初めてじゃ。はぐれグロリアとしては深海に生息し、強大な水圧に耐えるその殻の防御力は絶大と言われておる。古い文献によると飛行も可能じゃという事じゃったが、実物を目の当たりにすると圧巻じゃな」
つまるところあのオーロラシェルは何者かの契約グロリアであると言う事。
それは無論帝国軍に他ならない。
「師匠、周りに飛行グロリアが。やはり帝国軍です」
巨大な貝グロリアに近づくにつれて陣容が明らかになってくる。
昨日の帝国兵と同じ紋章を付けた鎧の騎士達。間違いなく帝国軍。
彼ら帝国騎士団はオーロラシェルの周囲に展開しているものの、数はそれほど多くは無い。
「罠の気配はしない。突っ込むぞ!」
「あ、おい、ウルガー!」
先頭で敵陣に突っ込むウルガー。
勝手なことを、と思いながらも放っておくわけにもいかずリゼルとナバラはその後を追う。
そんなウルガーに対して空に浮かぶ帝国兵は攻撃を加えようとはせず、スウっと後方へと下がった。
「ふん。何が狙いかは知らんが好都合だ。そのデカブツ落とさせてもらうぞ」
いつの間にか並走している相棒のケロラインと共に、障害が無くなりクリアになったオーロラシェルへの道を猛進する。
先ほどから不気味に鳴動していたオーロラシェル。
そのオレンジ色の殻が虹色に輝きだし、前方へ輝力が収束していく。
「ウルガー、危険だ!」
「俺は大丈夫だ。それよりも、そっちはとばっちりを受けるんじゃないぞ!」
ウルガーの正面。
見上げる巨大グロリアが一瞬チカッと光ったかと思うと、凄まじい光の奔流がウルガー目掛けて放たれ……爆音を上げた。
咄嗟に頭の上に乗せていたゴーグルを装着したリゼルだったが、それでも太陽を肉眼で直接見たかのように網膜に光がこびりついた。
「くそっ、何て光量だ!」
確かに自分では言葉を発した。だが凄まじい爆音によって耳がおかしくなっており自分の声すら聞き取れない。
視覚と聴覚の二つを同時に奪われたリゼル。不用意に動くのは危険と判断し、自身が騎乗するヒーランの背中に手で指示を送り、オーロラシェルの攻撃によって副次的に発生した風に逆らいながらその場で滞空を続ける。
ほんの数秒後、ここではないどこか遠方で起こった爆発音を最後に音も止み、膨大な光量にやられた網膜が徐々に辺りの様子を映し出していく。
巻き起こっている土煙、そしてバラバラと空から降ってくる小石や木々の枝。
そして射線上の地面にはトンネルでも掘ったかのような大穴が空いていた。
「ひゅぅ、間一髪だったな」
「ウルガー! 無事だったか!」
リゼルが声の方に視線をやると、頭の上の赤いハットを風で飛ばされないように押さえているウルガーの姿があった。
「まあな。格好つけて突っ込んだ挙句やられましたじゃあ、あまりにも格好悪い」
「ウルガー殿、リゼル、次が来る前にヤツを倒すのじゃ!」
無事を喜んでいる暇は無い。
第二射が来る前にオーロラシェルを倒しておかなければとナバラは
第一射の前に帝国兵は後方へ下がっており、オーロラシェルへの守りは無い。だが――
「ふぅん、やるじゃないか自由騎士ウルガー。田舎者かと思っていたが認識を改めよう」
前方のオーロラシェルから声が響いてきたかと思うと、今まで強固に閉じていた貝殻が開き始める。
三人はその声を警戒し、各々が足を、翼を止めた。
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