199 知らないところでいろいろな事が
「ウルガー様!?」
打つ手なく
うん。急に現れたのではなく、空から降ってきたというのが正しい。
そして、その背には――
「久しぶりだな、レナ、スー」
リゼル!
「リゼルさんも、どうしてここに……」
「おう。話せば長くなるが、俺たち結婚したんだ」
え?
「け、け、結婚っ!? ウルガー様とリゼルさんがですか? 本当に? あのぶっきらぼうを絵に描いたようなお金だけはもってるウルガー様が? リゼルさんに全然好みじゃないし金があっても願い下げだって面と向かって言われたウルガー様と、リゼルさんがぁ!?」
「バカ、ウルガー、まだ結婚していない。まだ婚約中だ!」
背におぶさっているリゼルがウルガーの頭をこぶしでゴンゴンしている。
……うそう? 本当のことなのか?
この二人が、まさかのこの二人が結婚するってのか?
「いてててて、頭を叩くな。ぐはっ。だからって頬をはたくな」
なんだこの展開は。
どうしてこうなった。俺は今ラスボスとの戦闘中だったはずだ。
説明を求める。
結婚報告に来たわけではないと言うウルガーとリゼル。
連絡もよこさずいったい今まで何をしていたのかと詰め寄るレナとの話を総合するとこんな感じだ。
まずは俺たちが知っている情報のおさらい。
オランドットを倒した後その内容をリゼルに伝えようとしたのだが、リゼルは旅に出ていて居場所がわからなかった。なので伝言をクシャーナにいるリゼルのお母さんマフバマさんにお願いしていた。実は俺とレナはそれからずっとリゼルとは会えていなかったのだ。もう5年くらいか。
そして俺たちが知らない新情報はこちら。
実はウルガーはリゼルが帰ってきたことを知っていた。
リゼルが帰ってきた知らせをウルガーが受けた時、とある目的のために旅立つことを決意したという。
ウルガーの目的とは、若いころに苦汁をなめさせられた蛇グロリアと決着をつける事。
ウルガーは自由騎士をレナに
そして一緒に旅について来てくれって土下座して泣き付いたらしい。
その時のリゼルは探していた父の顛末を聞かされて目的を失っていた所で、ウルガーもしつこいから仕方なく一緒に行くことにしたらしい。
それから1年くらいで目標の蛇グロリアを見つけ出し、激闘の末に倒して汚名を返上したウルガー。その場でリゼルにプロポーズしたんだと。
でまあリゼルとしては、以前とくらべてウルガーの目つきがましになったので、しかたないからお付き合いから始めることにしたそうだ。
その後、2年くらいグロリア研究の手伝いとかしてもらって、まあいいかなって思って婚約して、今は結婚式の引き出物の準備とかをしている最中だと。
そして……。
「数日前のことだ。俺たちがクシャーナへの帰り道、月下の大森林で見たことのあるツラのやつを見つけた。お前たちも知っているだろう、オランドットと一緒にいた鳥女のスピカ。そいつが血まみれで倒れていたんだ」
スピカだって!?
確か戦いの途中でオランドットのやつが彼女を逃がして、戦いの後もその後足取りは追えなかったから忘れていたけど……この森の中にいたのか。
そんなスピカが血まみれ……何かに襲われたのか? それとも……。
「まだ息があったから、ちょうど持っていたフェニックスの尾羽を無理やり食わせて、裂けていた腹を治してやったんだが、大変だったぜ」
「あれは大変だったな。気が付いたスピカさんがいきなり襲ってきたからなぁ。抑えるのに苦労したぞ」
スピカ……さん?
「そうそう。リゼルに危害を加えそうなんでもう一回気絶させようと思っていたんだが、急におとなしくなってな。どうしたのかと様子をうかがっていたら、俺の帽子の羽飾りの中から小さなグロリアが出てきてな」
「うんうん。その後も大変だった。その小さな蛇グロリア、お前たちが倒したミーシャだっていうじゃないか。何かの拍子でウルガーの帽子に引っ付いたんだろうな。それから今までずっとそこで眠っていたって言っていたな。
それでそのミーシャに気づいたスピカさんがおとなしくなってな。それでまあ、よくよく私のことを見ると、どうやら父と、その、オランドットと似た気配がすることに気づいたらしい。
こちらが知る事情、つまり私がオランドットの娘であることを説明したらどうしたことか……、急に自分のことをお母さんと呼ぶように強要しだして……なんかすごく世話を焼かれ始めて戸惑った」
驚愕の情報の連続だが、すごく話が逸れている気がするぞ。
「それで、ウルガー様とリゼルさんはどうしてここに?」
さすがレナ。俺とは以心伝心!
「おう。言い忘れてたが、あそこのでかいやつ、名前はオルデって言うんだが、スピカが生んだやつだ」
「え、えー-----っ!?」(な、なんだってー!?)
あの、紫巨大物体オルデはスピカの子だって!?
娘なのか!? 息子なのか!? いやいやそんなことよりも、やっぱり元凶はあのオランドットじゃないか!
「まだ全快していないからスピカはクシャーナで寝てるんだが、オルデを止めてほしいって言われていてな。それで俺たちがやってきたってわけだ」
「母は違ってもオルデは私の
オランドットとマフバマさんの娘がリゼル。オランドットとスピカの息子がオルデ。つまり二人は異母姉弟ってことか。
「あの大きなオルデさんが……」
レナも驚くよな。俺だってまだ信じられない。
「そうだ。あんなに大きいとは思わなかった。スピカさんの話からすると手で抱えられるくらいの大きさだと思っていたんだがな。まあ大きさはともあれ、オルデもグロリア。予定通り私がこのクラテルをつかって契約しておとなしくさせるだけだ」
リゼルの手の中でキラリと光る円柱形のクラテル。
なるほど、オルデがグロリアなら契約してしまえばいいのか!
「でもリゼルさん、大丈夫なんですか?」
「おや、レナ。私を誰だと思っているんだ? リゼル・クーシーだぞ? グロリアについては誰よりも詳しい。なーに、ぼっこぼこのぼっこぼこにして契約してくださいと言わせるだけさ」
さっきレナが同じようなことを言ってたな。案外似た者同士なのか?
「とはいえ、あのでかさをやるのは俺でも骨が折れそうだ。ケロラインは近距離物理専門だからな。だから違う方法を考えなくてはいけないんだが……もう思いついているんだろ?」
なんで俺のほうを見るんだよウルガー。
「そうなのスー?」
レナのつぶらな瞳までこっちに。
え、うん、まあ、だけどな……。
とりあえず俺の考えをレナに説明した。
さっき思いついたけど、まとめ切れなかったあれを――
「オルデさんにクシャーナをぶつける……。でも、クシャーナがどこにいるかわからないし、そもそも軌道を変えることができるのかとか、ぶつけたときに衝撃があってクシャーナの人たちに被害が出るとか、いろいろ問題があるってことね」
そうなんだ。
でもクシャーナをぶつければ……全長5キロ以上の巨大な浮遊大陸を落とせば確実にオルデを倒せるはずだ。
『やっほー、あ、聞こえてる? 話は聞いたわ! クシャーナをぶつけるんだって?』
なんだ? これまた聞き覚えのある声。どこから聞こえるんだ?
きょろきょろ辺りを見回す俺たちの目の前。
するといきなり、空に白黒ならぬ青白の映像が映ったのだ。
「リコッタちゃん!?」
『レナ! 久しぶり! 元気してる? 私は元気だよー!』
その映像はクシャーナからの通信だった。
リコッタ。彼女はクシャーナの民でクシャーナの結界を維持するための大切なおやくめを行う少女。そしてガルガド帝国軍がクシャーナに襲ってきた際に、そのたぐいまれなる力で俺の進化を促してくれた子。
はらぺこ行き倒れ少女だったあのリコッタが成長してる。
ちょっと見ない間に大きくなったものだ。しみじみ。
通信によるとリコッタはクシャーナでもっとも敬われる存在の一つである結界師になったらしい。しかもその筆頭に。
確かお別れするときに筆頭結界師のマーサさんに指導をうけることになってたな。それから頑張ったんだな。
そしてリコッタが筆頭結界師になったことで、もともとあった秘匿結界の外に新たに秘匿結界
秘匿+防御の能力を兼ね備えた秘匿結界2の結界の強度は従来の比じゃないないもので、地面に落ちたくらいでは壊れない上にクシャーナの中には振動すら生じないらしい。
うーむ、さすがリコッタ。才能の塊だな。
現在クシャーナの位置はルーナシア王国の中部。通常スピードでここまで3時間くらいかかる位置にいるらしい。その辺りにいるのであれば俺の感知に引っかかるはずなんだが……さすがは秘匿結界2。俺に全く気付かれないほどに秘匿能力もアップしてるってことか。
『でも、どうやってこのクシャーナを落とすの? 安全装置があるから浮力を一瞬で0にすることはできないよ。だからゆっくりと徐々に落ちていくことになるけど……それじゃあ重力による効果は得られないから、威力が落ちちゃうんじゃない? それに、クシャーナは周回コースが決まっていて、コースから外れているそこに落とすのは難しいよ? やろうと思ったら周回コースの変更はできるんだけど、直角に曲がったりはできないから少しずつ変更するしかなくって、今の位置からじゃあ……。せめてもう2日前だったらやれたんだけど』
なんてこった……。
クシャーナをオルデにぶつけるって簡単に言ったけど途方もない計画だった。
「ふふふ、そんな時こそスーパーパーフェクトスペシャルスライムのスーの出番よ!」
レナ、何かいい方法を思いついたのか?
「ええ。名付けてスーちゃんモーニングスター作戦! スーがみょんみょんと伸びてクシャーナに張り付きます。それをみんなが引っ張って、勢いをつけて……そして勢いよく振り下ろしてオルデさんに命中させるの!」
えええ……。
「おいおい。いろいろツッコミどころはあるけど、誰がスーを引っ張るんだ? ここには俺とお前しかいないんだぞ? リゼルさんは身重だから力仕事は無しだ」
おい、さらっと重要情報をつっこむなウルガー。
「「「俺たちにお任せください」」」
って、なんだぁー!?
おじさんおばさん、青年、少女、人人人。ってどこから現れたんだ!
コンサートか何かか、そんな人数規模の村人・町人が急に現れたのだ。
「おらたち、レナちゃん様の力になりたくてやってきただ」
「んだんだ。いつも必死に頑張ってくれてるレナちゃんさ力になるだ」
「そうよ。私の村はいつもはぐれグロリアの被害があったけど、自由騎士様が解決してくださって、安心して住めるようになったの。このご恩を忘れたことはないわ」
「俺たちのグロリアが自由騎士様に牙をむくなんて身を切られる思いなんだ。そんなわからずやのグロリアは右ストレートでぶったおして目を覚まさせてやるんだ!」
凶暴化したグロリアの契約者もいるのか。
「いつもお世話になってるだけじゃだめだ! 俺たちが、俺たちだって自由騎士様の力になるんだ!」
「「「そうだそうだ」」」
人々が口々にレナへの協力を申し出る。
それは後ろのほうの、声をよく聴きとれないところからも上がっていて。
「みなさん……」
レナは心がじーんと来ているようだ。
しかしな、どうして避難しているはずの人たちがこっちに?
よく凶暴化グロリアに襲われずにここまでこれたな。
「レナ様! 後からも続々とやってまいります。ザンメアという男が我々に勇気をくれたのです!」
ザンメアぁ?
そういえばザンメアはリストさんと凶暴化の調査に行ったきり、どっかにふらりと姿を消してたな。
もしかしてこのためにか?
人々が急に現れたのは強力な認識阻害の力をザンメアが全員にかけていたのかもしれない。
さすがはかつての闇世界の凄腕だ。
「グロリアはおりませんが人情はあります! ぜひ我々にお手伝いをさせてください!」
めいめいがいい顔をしている。
心の底からそう思ってくれている証拠だ。
「ありがとうございますみなさん……。本当にありがとう」
レナは口に手を当てると、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
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