057 学生番号5382崇拝教団(レナのファンクラブ)
男子校舎の方での怒号や絶叫、犬グロリアの鳴き声が喧騒となってこちらに届く。
俺が殺気を感じた場所にはすでに人影は無い。
犯人は企みが失敗したと気づいてすぐに逃げ出したのだろう。
それにしても誰だこの子は。
俺に届く直前で飛翔体を打ち落としたのはおそらくこの子のグロリアだろう。
そばにグロリアは見えない。クラテルにしまったのか?
「お騒がせしましたレナ・ブライスさん。僕はレイキ。
レイキと名乗った男子学生。確かに腕には腕章をしている。亀裂の入ったハートマークの上に曲刀を交差させている独特な紋章。その横に風紀・健全の文字が入った風紀委員の腕章だ。
唐突に表れた
茂みから突然現れて名指しされたのであれば無理もない。
それに、彼が何の目的でここにいるのか測りかねているのだろう。
「少し失礼。ふむ、
レイキ君は自らが撃ち落とした
「ちょっと、
ミイちゃんが強気に食って掛かる。
乙女の会話を盗み聞きされたのだ、それは怒りたくもなる。
「隠れていたのは謝ります。ですが事情があったのです。ご存じかどうか知りませんが、あなた方はアルダント美少女四天王と名付けられて不純異性交際を企む集団に狙われています。その集団を排除するのが我々の目的なのです」
「集団って、ファンクラブの事ですか?」
おずおずとナノちゃんが挙手しながら問いかける。
ファンクラブの話なら俺も聞いたことがある。
男子たちに良くある好みの女子を応援する集まりだ。
応援すると言っても応援団のように横断幕を掲げたりするわけじゃない。この学校では男女の接触は少なく交際の取り締まりも厳しいため、もっぱら仲間内で盛り上がる集団となっているはずだ。
「ファンクラブではありません
その崇拝教団ですが、やつらのうちの一つがここ最近活動を活発に行っているのです。
動きがあったのは学生番号5382崇拝教団。ブライスさん。あなたを狙う崇拝教団です」
レナは目を丸くして驚いている。
そりゃそうだ。『学生番号5382崇拝教団』なんていきなり言われたらな。
すんごい怪しい名前だけど、レナの学生番号が5382だから、つまりはレナのファンクラブってことだろ。ややこしいなあ。
でもいいぞレナ。驚いても口元を手で覆って隠すのはレディの
咄嗟にその仕草ができるのは身についている証拠だ。うんうん。
なーに心配しなくても大丈夫だ。何があっても俺が守るからな。
さっきはレイキ君が間に入ったけど、それが無くても俺のスライムボディがレナを守っていただろ?
「それで? レナのファンクラブとあんたが隠れてた事と何の関係があるのよ」
一方ミイちゃんの怒りは収まりそうにない。
ミイちゃんもおしとやかにね。ここはお嬢様養成学校なんだから。
「やつらは
過去の事例からやつらが直接行動に移す事が想定されたので、それを逆手にとって一網打尽にする作戦を立てたのです。
想定通りやつらは行動に出ました。
矢文などという直接の証拠を残す行動に出たのには驚きましたが、不純な
まあ、この証拠に頼らずとも仲間たちが先ほどの犯人を追っているので、じきに芋づる式につるし上げて壊滅まで持ち込めるでしょうがね」
「囮にされたってのね! ファンクラブもあんた達も一緒よ! 乙女の話を盗み聞きするだなんて!」
「風紀を守るためです。あなたも気を付けてくださいね。ミーリス・バルツさん。あなた方からすれば対象は手に余るほど存在します。くれぐれも不純異性交際に走らないように」
そう言ってレイキ君は去っていった。
「いーだ! 何あの嫌な男。あーやだやだ」
「確かに言い方に棘はありましたね」
「うーん、不純異性交際かぁ。よくわかんないよ。矢を飛ばしてでもしたいものなのかなぁ?」
首をかしげるレナ。どうも納得がいかないらしい。
「そうですねぇ、例えばレナちゃん、私が先ほどお話した王子様の話だと、令嬢にとって王子様は雲の上の存在です。気持ちを伝えるにも伝えられず、それこそファンクラブの方々と同じように矢を放って伝えるしかないのかもしれませんね」
今回の矢文については、ナノちゃんが思っているほど純粋な気持ちではないと思うよ。
俺も男なので気持ちは分からなくもないが……うちのレナにそんな
俺も
俺の怒りをよそに、相変わらず首をかしげて理解できない素振りを見せているレナ。
「ナノの言う事も一理あるかもね。王子様も騎士様も雲の上の存在で、所詮は憧れで。私たちは大人になった時に自由に結婚もできないかもしれないけど、学生でいる間は淡い恋心に浸ってもいいんじゃないかなって、そう思う時もあるのよ。ね、ナノ」
びっくりした! すごく大人な考えを聞かされた。
12歳っていうと小学6年生だぞ。確かに女の子は精神年齢は高いって聞くけど、それにしてもミイちゃん凄いな。もしかしてナノちゃんもなのか?
「そうですね、手に届くそんな恋もまた素敵です。私も先輩と――」
そこまで言って、ナノちゃんはハッとした様子で両手で口を押さえてしまった。
「ふっふーん、ねえナノ。先輩ってなーに?」
獲物を見つけたライオン、いや越後屋や悪代官のような笑みを浮かべてナノちゃんににじり寄っていくミイちゃん。
「や、なんのことでしょうか。ひゅーひゅーひゅー」
誤魔化そうとがんばって口笛を吹こうとしているようだけど吹けていない。
「ほーう、私に隠し事をしようってのね。その意気やよし。私のくすぐりに耐えられたら無罪放免よ」
わきわきと指を動かして
ナノちゃんはナノちゃんであわあわ言いながら怯えた表情を浮かべている。
「そ、その、カスケール先輩……」
消え入りそうな声でそう答えた。
「ええーっ、あの文官科きってのイケメン秀才の⁉」
「そうでしゅ……。で、でも、いいなって思うだけで、何もないんですよ」
「ファンクラブあるらしいよ、カスケール先輩」
「も、もう。カスケール先輩の話は止めです。そんなこと言うならミイちゃんだってリャウル君とお付き合いしてるんじゃないんですか?」
「ちょ、な、何で知ってるの? い、いや、ていうか付き合ってなんかいませんしー。友達、そう友達よ。幼馴染だから仕方なく相手をしてあげてるだけなんだから!」
「そんな感じには見えませんけどねぇ。喫茶店で――」
「わー、わー、わー、ダメ、それはダメ。そ、そういえばレナはどうなのさ!」
「レナ? レナはスーの事が好きだよ?」
「いやいや、男子の事よ」
その質問にレナは首をかしげる。
「スーは男の子だよ?」
こちらがうちのレナです。目に入れても痛くないおこちゃまっ子です。
「あー、レナには少し早かったかな」
「レナちゃんらしいですね」
などとキャイキャイやりながら女子会トークが繰り広げられたのだった。
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