148 王子様と秘密のお話 その2
「それで、リリアンさんであるのは分かりましたが私にどういったご用件でしょうか」
眩暈が治まった後、リリアンは元のグラウ王子の姿に戻った。
その際に体が小さくなってズボンが脱げてしまうなど色々あったが気を取り直して、立ち話もなんだからと円形の小さなテーブルに二人突き合わせて座っている。
俺は床からその様子を窺っているというポジションだ。
そもそも何の用件でレナがグラウ王子に呼ばれたのか。
目的は無くただ単に旧交を温めるためだろうか?
「うん、そのね、あの……」
王子はカップに注がれた紅茶を口に含む。
「だからね、その、あれでね……」
ずずっと再び紅茶を喉に流し込む。
「えっと、その……」
皿に入れてある焼き菓子を鷲掴みすると口の中にねじ込み始め、案の定むせてしまい紅茶をグイッと流し込んだ。
「いや、あはははは、ごめんごめん、そのね、あれで、ごにょごにょ……」
なんだこれは。
いつになったら次の言葉が始まるんだ……。
何? そんなに言いにくい事なのか?
男の子ならスパッと言ってくれ。ほら、顔には出していないがレナも呆れているぞ。
「グラウはあなたと交尾したいのだよ、レナ・ブライス」
――ブゥゥゥゥッ!
グラウ王子の口から飲んでいて紅茶が吹き出された。
「何を生々しい事言ってるんだよヴォヴォ、違う違う!」
「何が違うのか。度々ベッドで身悶えしながら、そう言っていたではないか」
「こら、ヴォヴォ! そんな事ばらしちゃだめだろ、それにボクは交尾だなんて一言も言ってないぞ!」
「ん。まあ確かに交尾とは言っていなかったな。民草の言葉で言う所のつがいになって子を成したい旨の言葉だったと理解しているが」
「ちょっと、もうやめてよヴォヴォ!」
なんだこれは……。
レナもドン引きしている。
つまりはレナの事が好きなグラウ王子はその気持ちを伝えるためにレナを部屋に呼んだけど、自分で告白できないヘタレ根性を見かねたグロリアが内情を暴露してしまったと言う事か。
「あ……」
王子もレナの様子に気づいたようだ。
「いやそのね。将来的には子供は欲しいなって思うけどさ、その、だからね。婚約をですね……」
ええい、もっとはっきりと。はっきりと言わないとレナには伝わらないぞ。
「だからね、その……。
あああああああああああっ! もう、そのね! ずっと好きだったんだレナのこと!」
うんうん。吹っ切れたか。それでこそ男の子だ。
「スーを取り返すために迷わず危険な方法をとったり、敵だったザンメアを助けようとしたり、目の前のおじいさんの盾になるために飛び出したり、そんなボクには出来ないことを目の前で躊躇なくやって見せて、ボクより年下のそれも女の子のそんな姿がキラキラして眩しくて。それでいてスーを助けた時には大泣きするような一面も見せたりして。そんな表も裏も綺麗で素敵なレナに心を奪われたっていうか、その綺麗な目でじっと見つめてもらいたいとか、金色の髪の毛をなでてみたいとか、ボクの名前を呼んでもらいたいとか、もうね、あの後ずっと忘れられなかったんだ。
ずっと一人で悶々としていたのもしかたがなかったんだ!
だって、レナは
だからウルガーさんの
ほら、いいぞ、あと一息だ!
「だからボクと結婚して欲しい!」
おおーっ、言い切った。やればできるじゃないか。
さて、レナはどう返すのか。
「素敵なお申し出ありがとうございます。
ですがお断りします王子様」
「えっ!?」
「私は今は自由騎士ウルガーの
それに叶えたい夢と目標もあります。
なので王子様とは結婚できません」
「そ、そんな……。
その……夢と目標って、教えてもらえるのだろうか……」
「私の夢は世界中の人にスライムの可愛さと凄さを知ってもらう事。そしてそれを行うために強い騎士になる事が目標です。
それに……私はスーと結婚しますので。
ね~スーぅ」
うーん。まあこうなるか。王子様との結婚なんて最高なんだがなぁ。
あー、でも俺はジミー君推しでもあるからなぁ。
答えの見えていた告白への返答。
それについて俺は満面の笑顔のレナに頬ずりされながら思考を巡らせる。
「そ、それじゃあ、スーと結婚してボクとも結婚してよ!」
えっ?
「見てたら分かるけど、ううん……初めて会った時から分かっていたけど、レナとスーの絆の間にボクは入ることは出来そうにない。
だけど、そうだからと言ってレナを諦めたくもない。
だからほら、第二夫でいいからさ」
いやだめだろ。普通に考えて。
「うーん、それならいいかも?」
レナ―!
だめですだめ。
「冗談だよスー。レナはスー一筋だから。ごめんね。機嫌なおして」
俺が嫉妬したと勘違いしてるなこれは。
そろそろ健全な恋愛観について教える時かもしれない。残念ながら未婚だった俺は良い教師にはなれないけど。
「ダメかぁ……」
「グラウ、諦めるのはまだ早いぞ。人というのはいきなり交尾には至らないものだと聞く。つがいとして長くいる事で交尾に至るとか至らないとか。
ん? もしや、今つがいになるのを断られたのだったか?」
「ヴォヴォ! 千年も生きてるんだからもう少し情緒を学んでよ!
そうだよ、つがいになるのをお断りされたの! 一緒にはいられないの。だから交尾も出来ないの!」
大声でまくしたてる様に返答して、そうして顔を真っ赤にして息を荒らげるグラウ王子。
しかしだ。王子様が交尾とか言ってはいけませんよ。まったく。
ヴォヴォさんも王族仕えなら宮廷マナーをですね……。
うひっ!
スライムボディがぶりんってした。
つまりは驚いたわけだが、何にかっていうと、ヴォヴォ様が俺をにらんだように見えたからだ。
もしかしてスライムマインドが読めるとか?
くわばらくわばら!
祈りながらちらっとヴォヴォ様の方を見てみたが、俺の方を見てはいなかった。
肝が冷えたよ。俺に肝は無いけど。
「あ、そうだ。
レナ、その、あの、ボクの事がほんのちょっとだけでも好きだったらさ、友達になって欲しいんだ。
ボクは体が弱くてほとんど外には出歩けなくて、友達らしい友達はいないんだ。
あ、その、好きじゃなくってもいいから友達に……」
いいじゃないか友達。なあレナ。
恋愛ってのは友達から始まる事もあるしな。多分。
いや、レナに限ってはそうではないのか?
ジミー君との仲は進展してないし。
いやまてよ、そもそもレナはジミー君を友達とは思っていないのでは?
「うーん、まあ好きとか嫌いとか言われても王子様のことをあまり知りませんので。リリアンさんのことは知っていますけどリリアンさんは王子様とは違いますし……。
でも、友達はいいですよ。恐れ多いですけど、王子様が私の事を友達だと思っていただけるのなら、それはもう友達です」
「本当! やった! じゃあ今からボクとレナは友達ね。ボクの事はグラウって呼び捨てにしてね! 友達だから」
「いえ、それはちょっと……」
うん。それは困るな。世間の目が厳しい。王族のお友達との付き合い方ってどの距離感になるんだ?
その辺りは庶民派の俺よりもブルジョアなレナの方が詳しいか。
「それで、おこちゃま同士のお遊びは終わりか?」
突如、これまでこの場に無かった声が聞こえた。
皆がその声に視線を向けると――
「ウルガーさん!」
「ウルガー様どうしてここへ」
赤いハットを被った無精ひげ成年が入口扉に寄りかかってポーズを付けていた。
「国の外れの辺りで問題が起こりそうだから出かけようと思ってお前を探してたんだ。
それなのに、そこの狐の幻術のせいでなかなかこの部屋にたどり着けなかったんだ。かれこれ1時間くらいか。幻術を打ち破る力をもった兵士君にここまで案内してもらったってわけだ。
さすが病弱な第三王子の部屋の守りは硬いな」
言うまでも無くそれは幻術ではなくて自分が方向音痴なだけだと思うぞ。
「あ、じゃあボクも行きますよ。久しぶりに一緒に」
「いやいい。でかくなったお前はこいつと比べて重いからな。
自由に姿を変えれるならでかい胸は必要無いんじゃないのか?」
「がーん。ボクはウルガーさんが好きかと思ってそうしてたのに……」
「いやいや、いくらそうだとしても中身が男だろ。そんなのにベタベタされたら気持ち悪い。
俺、そう言うの見破るの得意だし」
「そ、そんな。冷たくされるのは愛情の裏返しだと思ってたのに、本気で嫌がってたなんて……」
結局、急ぐということでウルガーに連れ出されたところでレナと第三王子との面会は終わった。
しかしリリアンの正体が王子様だったなんて驚きだなレナ。
「そうね、変わった王子様だったね。
でもリリアンさんとはまた一緒に戦いたいかな」
そうだな。うまくいけば玉の輿だからな。
これはマーカスパパに連絡を取ってみる必要があるかもな。
これが病弱な第三王子との出会いだった。
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