184 月下の大森林の戦い その4
――北の陣 カルルと王都守護騎士団
「丁度手詰まりだった所。その情報はありがたい」
カルルは本陣からの伝令にそう伝えた。
敵数の方が上であり、数の少ない味方側はどうしても防衛一辺倒にならざるを得ない。
騎士団の性質上防衛が性に合ってるとはいえ、いつまでも防衛し続けることが出来るわけでは無い。
何か必殺の策があるから、このあと事態が打開されるから、との思いで防衛を続けているのだ。
本来ならそれはレナの中央軍による、
だが伝え聞く状況によるとそれは難しそうであり、先の見えない防衛戦に味方の士気はジワジワと下がり続けていた所だ。
そこにこの朗報。味方の士気を大いに上げて反転攻勢に出る事ができる。
そしてそれを何よりも待っていたのは他でもないカルル自身だった。
カルル・マル。現在27歳になる女性の騎士団長は言葉少なく黙々と仕事をこなすため、落ち着いた雰囲気の人間だと周囲に思われている。もう少し言うと感情の上下がほとんどなく常に一定で結婚式も葬式も同じく一定のテンションで臨むタイプの人間だと思われている。
カルル自身もそのように思われている事は承知しており、それでも自分が仕事を効率的にこなすにはこの状態が一番なのだと分っているので、特に問題にはしていない。
だが実際カルルの内側は、内面は違う。
渦巻くような熱い炎が、燃え上がるマグマのような熱がその内側に眠っている。
平時には必要ないその感情、戦いとなるとその感情はプラスに働く。
カルルは待っていたのだ。
自分と相棒のグロリアが全力で戦う事の出来る時が来るのを。
「副長、私の隊の指揮は任せる。私はシーザーと共に単騎で敵を蹂躙してくる」
「はっ。承知しました。ご武運を」
そうしてカルルは一人敵の中へと飛び込む。
相棒のブランシェタイガー、シーザーと共に。
血走った眼をした狂暴化グロリア達の中を白と黒の縞模様が稲妻のように駆け抜ける。
「シーザー、右、トライクロー」
シーザーの背に乗ったカルルは的確に指示を出し、狂暴化グロリア達を倒していく。
「後ろ、注意して、来るよ」
ポンポンとシーザーの背を手でたたく。
シーザーは振り返ることもなく、振り下ろされた狂暴化グロリアの腕を回避する。
「よーしよし、いいこだシーザー、お前も燃えてきたようね」
自らの心とグロリアの心が一体となる感覚。
熟練のグロリア
そして人とグロリアが心を通わせて一体となる事によって、さらなる力を引き出せるのである。
「いくよシーザー! 鬼魂強化! この身に宿れ鬼の力、虎の魂!」
シーザーが輝力の光に包まれていき、次いで騎乗しているカルルをその光が包み込んでいく。
光はさらに眩くなり巨大な光の玉となって一人と一体の姿を覆い隠す。
そして、光はジワジワとその周囲を縮めていきカルルの体と同化していくと……カルルの腕は大きな虎の両腕に変化していた。
ビーストモード。王都守護騎士団長カルル・マルの秘技。
輝力で形作られた自分の身長の倍もあろうかという大きな虎の手は、圧倒的な力をカルルに与えてくれる。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
シーザーが駆け抜ける。カルルが虎の大腕を振るう。
単純な一撃だが、それだけで狂暴化グロリアの一団は吹っ飛んだ。
「まだまだぁぁぁぁぁ!」
シーザーが回転しながら跳躍すると、カルルの虎の手はその回転に合わせてまるでプロペラのよう円を描き、進行してくる狂暴化グロリア達を薙ぎ払っていった。
――南の陣 ドッカ―と王宮守護騎士団
「戦場が離れていても良く聞こえる。あれはカルル嬢ちゃんがビーストモードを使っている音だな」
ドッカ―はニヤリと笑みを浮かべた。
本陣からの伝令を受けた後、南の陣ではどのように反転攻勢を行うか検討していたところだった。
ガッチガチの防衛線を敷いている南の陣では北のカルルのように機動的な戦略を用いる状態には無い。つまりはこのまま防衛戦を続けるしかないのだが――
「当てられちまうな。若い嬢ちゃんたちがこうも頑張っているんだ。カルル嬢ちゃんしかり、レナ様しかり。年長である俺だってやれるところを見せてやらねえとな」
防御壁の先を見渡しているドッカ―。
その声はいつもに比べて弾んでいるように聞こえる。
「ドッカ―団長、アレをやるのですか?」
「ああ、準備しろ。こちらも攻勢に出るぞ」
そう言うとドッカ―は横で待機している自らのグロリア、ガイアギアをチラリとみる。
Aランクのガイアギア。ゴーレムのような人造タイプのグロリアで、体は金属で出来ている。4m程の高さのある巨大なグロリアだ。
特に胸部の防御力は高く何層もの装甲に覆われている。その内側にあるのは体の半分を占める重要部位コスモコア。
「ドッカ―様、いけます」
ドッカーの後ろには4人の騎士とそれぞれのグロリア。
大きな足のようなジャイアントフットにアイシクルレッグ。浮遊する一本の腕のようなリビングアーム。似たような姿であるが電気を纏ったエレキナックル。どのグロリアも同じCランクである。
「さていくか。ゴンボ、俺とお前は長い付き合いだ。今更テンションを上げて心を一つにしなければ秘技が出せないなんてことはないよな?」
ドッカ―は
以心伝心、阿吽の呼吸。ドッカ―とゴンボは40年来の付き合いなのだ。
何も言わずとも相棒の状態が最高潮であるのを感じとったドッカ―は、自らの秘技を繰り出す。
「いくぞ! 究極合体! ケンプフェンV!!」
その言葉を受け、ガイアギアはまばゆい輝力の光を発しながら空中に浮かび上がる。
その後を追うように、他の4体も宙に浮かび、ガイアギアを中心に浮遊する。
そしてガイアギアから他の4体へと輝力の光が伸びていき……5体が輝力の光でつながると、腕が、足が、中心のガイアギアと合体し一つになっていく。
――ズズゥゥゥゥン
強固に構築した防御壁をも揺らす地鳴り。
もくもくと舞う砂煙の中、全長15mをゆうに越す巨大な金属の巨人が
大地を踏みしめる鋼鉄の足。
「おぉ、ドッカ―様の、我が王宮守護騎士団の守護神、ケンプフェンVだ!」
説明するまでもなくドッカ―の必殺技は合体。5体のグロリアを合体させることによって強大なパワーを得て、SランクグロリアであるケンプフェンVへと姿を変えたのだ。
ずずず、と音を立てながらゆっくりとしゃがんだケンプフェンVはドッカ―達の前に自らの手のひらを差し出す。
ドッカ―と4人の騎士がその手のひらの上に乗り込むと、ケンプフェンVはその手を頭の上に持って行く。
ケンプフェンVの頭上。そこは平らで人が乗れる程の大きさがあり、円形の頭上の周囲を囲むように転倒防止の柵のようなものが存在している。
ドッカ―達は展望台のようになったケンプフェンVの頭に跳び乗り、遠目からみると王冠のように見える柵を握ると、ズシンズシンと戦場へ進んでいく。
「ドッカ―様、ケンプフェンVの重量では防御壁の上に乗ることはできないでしょう」
「そうだな。壁の前で戦うしかあるまい。いくぞケンプフェンV!」
――ゴオォォォォン
凄まじい風のような、猛獣の雄叫びのような声で返答するケンプフェンV。
その背に背負った筒のようなものから輝力の光が吹き出すと、重い巨体が宙に浮いて、ゆっくりと防壁を越えてその前方に降り立った。
「ドッカ―様、我々はいつものとおり輝力を高めておきます。全力でどうぞ」
「うむ。頼んだぞ」
これだけの巨大グロリア。維持するのには大量の輝力が必要だ。それを担うのが4人の騎士。それぞれが輝力を練り上げる。
「いくぞケンプフェンV! ジェットパンチだ!」
――ゴオォォォォン
ドッカ―の指示により、ケンプフェンVが両腕を前方に伸ばす。
そしてその瞬間、両腕はひじの部分から分離し、まるでミサイルのように拳が前方へと飛翔する!
撃ちだされた2つの剛拳は轟音を上げて飛び、波のように迫りくる狂暴化グロリア達を殴る! 殴る! 殴る!
鋭い牙をもったグロリアも、巨大な猛獣のようなグロリアも、どっしりと地面に根を張ってそうな樹木のようなグロリアも、その拳の前では無力。
どんなグロリアも例外なく猛る剛拳に吹っ飛ばされていった。
拳が放つ光が肉眼では捉えにくいほどの遠方へと去っていく。
二本の腕が通った後に二筋のラインが出来ている。
群がっていたグロリア達が吹っ飛び、これまでグロリア達に隠されて見えなかった地面が見えているのだ。
そして役目を終えた両こぶしが飛行して戻ってくると、何事も無かったかのように肘と合体して元通りになった。
「わらわらとやって来よるわ」
大技を放って一息つく間もない。
ジェットパンチが付けた二本の筋も、後ろからやってくるグロリアによってすぐに見えなくなったのだ。
「一気にケリを付けるぞ! ネーブルファイヤァァァァァァァァァァッ!!」
ドッカ―が柄にもなく大声で叫んだ。
その言葉を受けケンプフェンVは両腕を横に開き肘を上に曲げ、両拳が天へ向くポーズをとる。
そして腹の辺りがパカッと開くと内部のコスモコアが露出し、みるみるうちに高出力の輝力が練り上げられ……そこから一条の光が発せられた。
その光は左右に迫る渓谷ごと、視界を一面埋め尽くすように存在するグロリアを巻き込んでいき……遠くの遠く、巨大な
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