179 やってやってとせがむ割には
日も高く上がった快晴の空。そんなお天道様の元、レナが編成した騎士団が進軍を開始していた。
ガチャンガチャンガチャンガチャンと慌ただしい音を立てながら進む騎士団。内訳はこうだ。全王宮守護騎士団300名、王都守護騎士団の精鋭700名、王都近隣の兵士1000名の合計2000名だ。
これに途中で合流する予定の中核都市マキーリ近隣の兵士3000名を加えた5000名が今回の全戦力となる。
数的には大幅に負けている。ルカルスの狂暴化グロリアだけで3000。そこにパルチとカルス村のグロリアが4000、イングヴァイトの町から来るグロリアも1万はいるだろう。
つまり17000程の最上位グロリアと、そして、全長が5kmほどもある超大型の
幸いなことに士気は高い。王国のピンチに皆が騎士の本懐を胸に戦うからだ。さらに一部の熱狂的な
レナとしてはあえて士気を落とすことも無いので今は苦笑いしている。今は。
そしてのんびり進軍している暇はない。
進軍している間にもベルセルクゾーンの範囲は広がっていて、被害地域が増え続けている。
故に騎士達・兵士達は各自のグロリアに騎乗してかなりの速度で移動している。
とはいえ、騎乗できるグロリアを所持していない者も多く、その場合は騎乗できるグロリアに複数人が便乗しているので全速力の進軍と言う訳にはいかない。
当然の事だがレナは俺に乗っている。本当は俺の体内に入れたほうが何かと便利なのだが、今はスライムライド用の鞍を俺の上に乗せてそこにまたがっている状態だ。
リストさんが言うには旗印として分かりやすい格好良さが必要らしい。確かにスライムライダーとしてのレナはカッコいい。俺は上に乗せてる都合上直に姿を見る事は出来ないが、鏡で映してもらった姿を見たことがある。
寓話の中でよくある姫騎士ってやつと同じ感覚だな。高貴で美しいものが皆を引っ張っていく。大切な事だ。
この速度なら王都から中核都市マキーリまで日本時間で大体6時間、そこでマキーリ近隣兵士と合流して、月下の大森林を目指す。そのまま進むと真夜中の進軍となるので、途中で野営地を築く予定だ。
◆◆◆
「レナ様、お待ちしておりました」
日も傾き沈み行くころ合い。
マキーリに付いた俺達を出迎えたのはリストさんだった。
「遺憾ながら、ザンメアの情報は間違いありませんでした。我々はベルセルクゾーン内のパルチに向かいましたがグロリアの狂暴化は起こりませんでした」
「ご苦労さまですリストさん。それで、ザンメアさんは?」
「それが、レナ様のために別行動すると言って……。レナ様、やはりヤツのことは信用なりません」
「大丈夫ですよ。私とザンメアさんは
レナ様がそう言うのなら、とリストさんは引き下がったが。ザンメア……そうとう嫌われてるようだな。
そうこうしているうちにマキーリの近隣兵士と合流して、皆がクラテルをブンブンと振り外部からの干渉を阻害する遮断モードにしておく。推定ではマキーリの先までベルセルクゾーンの範囲が及んでいるからだ。
遮断モードにする前に全てのグロリアがクラテルから出ている。グロリアだけで8000体はいる。まさに壮観だ。
ここからは人騎一体。進むも戦うも一蓮托生だ。
マキーリの人達は避難を開始している。俺達が避難を呼びかけたのだ。
偵察隊によると
なぜ移動しているのか、どこへ向かうのかは分からないが、俺達が
いたずらに不安を煽るべきではないとリストさんは言うが、レナは「危険の可能性があるのなら知らせるべき」と言い張ったのだ。
足早に去る者、声援をかけてくれる者、俺達を送り出すまで町に残るという者、いろんな人々がいて、ここで生活をしていて。
そんな人々を危機から守るため、俺達は再び進軍を開始したのだ。
タイムリミットは明日の夕刻。クラテルに遮断を行って丸一日だ。それを超えると遮断モードが解除されてグロリアが狂暴化してしまう。そうなる前に原因を排除しなくてはならない。
月明りを頼りに進軍していた俺達だったが、雲が月を覆い隠すようになってきたので野営を行う事にした。だいたい夜の8時くらいだろうか。ここで一泊し、夜明けと共に月下の大森林へ向かうのだ。
てきぱきと野営の準備を終え、明日の朝も早いということで速やかに就寝となった。
◆◆◆
天幕に入ると同時に大きく深く息を吐きだすレナ。
どうやらお疲れの様だ。
無理もない。昨日から予想もできない展開が次々と起こって心も休まる暇もなく働き詰めで睡眠時間も短くて。
ずっとそばにいて理解しているつもりだけれど、この国の騎士団のトップという重みは本人しか分からない。
それに加えてこれまでにない規模の行軍だ。
元々この世界は平和で有事はほとんど起こりえない。だからこれほどの規模の行軍は例にないのだ。
有事に際した訓練でもこの5分の1程度の規模。それも王都近隣の平原での訓練が主だ。それが今や国の端まで目指すという。
そして最も重荷なのが
これだけの材料があって、笑顔でいろっていうのは無茶というものだ。
だけどレナはそれをやってのけている。辛さも不安さも見せずに、気丈に、時には笑顔を交えつつ。
だから俺はレナの心も体も癒してあげたい。
騎士鎧を外しもせず、倒れこむようにぐでんと寝転がったレナ。
俺が横に寄ると、その指が俺の体のラインをなぞるように動いた。
いつもだったら俺の体内に入ってもらってリフレッシュマッサージ&アロマと癒し成分ヒーリングを施すのだが、今はまずい。
なぜならあれをやるとレナの喘ぎ声というか笑い声と言うか、嬌声が凄いのだ。
やってやってとせがむ割には、やたらとマッサージをこそばゆがって笑いだす。特にわきの下とか足の指とかが弱いのだが、どうやら思いっきり笑うのもレナのリフレッシュの一部らしい。
他の部分は総じて気持ちいいらしく、押し殺したような悩ましい声を上げている。
まあそんなわけで、割かし声が筒抜けの天幕では実行不可だ。
リフレッシュマッサージが出来ないとはいえ、アロマと癒し成分ヒーリングは実施可能だ。
そうと決まったら早速レナの鎧を脱がせてちょっぱやで俺の体内にインしよう。
うつぶせに寝転がっているレナを鎧の結合部分のベルトを外しやすいように横向きにゴロンとさせて……そうして俺はベルトを外していく。
うーん、すー、もっと優しく、などとレナがうわごとの様に言っているが、普通に外しているだけなので優しいとか厳しいとかは無い。そもそも俺は指が無いので外すのってなかなか難しいのだよ。
片方が外し終わって、レナはゴロンと転がって向きを変える。お疲れ状態とは言え立派なレディとしてはマイナス点だぞレナ。
もう片方も外すか、となった所――
「レナ様、お疲れのところ申し訳ない。少しよろしいかな」
天幕の外から声が聞こえて来た。
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本編にねじ込む隙が無かったのでこちらで解説を。
【兵士と騎士】
兵士は徴兵制ではなく志願制。採用試験はある。能力のあるものが隊長に昇格できる。
騎士は免許制。資格試験を経て採用される。
王国兵士:兵士。町や村などの治安維持を行う警察機構を兼ねる。
兵士隊長:兵士の管理全般を行う上級職。町や村に一人ずついる。
兵士達の指揮権の最上位は騎士長(自由騎士)が担う。有事の際は各騎士が兵士を束ねる。
王都守護騎士:王都を守護する騎士。治安維持、警察機構を兼ねる。
王宮守護騎士:王宮を警備する騎士。
親衛隊:王族を警護する騎士。
王女守護騎士:王女の警護をする騎士。特別に新設された。
自由騎士:どの騎士団にも属さないフリーな騎士。現在1名だけ。
というわけで、本編をお楽しみください!
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