104 知っているのか貴殿っ!

「出し惜しみは無しですわ。ミュルクス、防御膜を最大にしますわよ。カラカラ、あなたも全輝力を殻におまわしなさい。クバール、あなたは次の一撃に全力を込めなさい。

 スーの攻撃を防いで、そこを渾身の一撃で粉砕しますわよ!」


 クリングリンさんの輝力がフルフレッジドミュルアーマークスリミットシェルカラカラフリントロッククバールへと流れ込んでいく。

 次の一撃で勝負を決める。その思いが十分に伝わってくる。


「スー、いくわよ、コズミックバスター!」


 体温を上げてスライム細胞を極限まで活性化させて放つ超強力な体当たり。それがコズミックバスター。

 Aランクのストロングギガントも一撃で倒すお墨付きの威力だ。


「きますわよ、全力防御!!」


 おれは体内に溜め込んだエネルギーを爆発させ、体当たりコズミックバスターを放つ。


 狙いはまっすぐ。リミットシェルカラカラも、フルフレッジドミュルアーマークスを纏ったクリングリンさんもこの一撃で倒す!!


 審判や審判席の偉いさんが瞬きする一瞬の間。

 俺の体はまず防御態勢をとっていたカラカラにぶち当たり、そのまま一緒にフルフレッジドアーマーが張っている防御壁に突撃する。


 クリングリンさんの防御壁が体当たりの衝撃に反発するかのような放電現象を引き起こす。


「な、なんですのこのパワー!? ミュルクス、わたくしの輝力を全部渡しますわ、それで防御力を上げなさい!」


「スー、押し抜くのよ!」


 ああ。分かってる。

 クリングリンさん達の防御は凄い。流れ込む輝力量も半端なく、Aランクグロリアの突進も止めることが出来るだろう。


 だけどな、俺とレナは止められないぜ!


 俺は体内の輝力を爆発させ、さらに体当たりの威力を上乗せする。


「そ、そんな!」


 とどめだ!


 ――キュイィィィッ!


「クバール、何を!?」


 ――ドォォォォォォォォォォン


 俺の体当たりコズミックバスターの威力に負けたクリングリンさんの防御壁が大きな爆発を引き起こす。

 その爆発を突っ切り、標的に必殺の一撃を叩き込んで場外へと吹っ飛ばした。


 慢心せずすぐさま体勢を立て直し、レナの元へと跳ね戻る俺。


 爆煙が晴れ、場外にはリミットシェルカラカラフリントロッククバールが倒れている姿があった。


「げほっ。げほっ、クバール、あなた……」


 クリングリンさんは残ったか。

 手ごたえがあったのは確かに二体だったが、クリングリンさんにしては軽すぎたのは気になっていた。

 それに……爆発の直前俺は見た。このままではカラカラとクリングリンさんが吹っ飛ぶであろうという所でクバールがクリングリンさんに体当たりしようとしていた所を。

 つまり絶体絶命のクリングリンさんに体をぶつけて俺の体当たりの軌道から押しのけたのだ。


「リミットシェル、フリントロック、場外!」


 二体の場外が宣言されて残りはクリングリンさんだけだ。

 そして今の俺の一撃を防ぐのにほとんどの輝力を使ってしまって、もはや戦う力はないだろう。

 それでもこの子は最後まで戦う事をあきらめないだろうが……。


 ガチャリガチャリと鎧の音を立てながらゆっくりと、フラフラになりながらも立ち上がろうとするクリングリンさん。

 だけど膝に力が入らずそのまま崩れ落ちてしまう。


「これがブライスさんの、スーの本当の力……。わたくし相当の修練を積んだのにまだ同じ場所に立てていないというんですの?」


 立ち上がろうとして両手に力を入れるが……それでも立ち上がることは出来なくて。


「カラカラもクバールもやられてしまって残っているのはミュルクスだけ……。それにわたくしの輝力も残っていない……」


 クリングリンさんは場外で動かない自身の二体のグロリアを見てそう呟く。


「まだよ、クリングリン・ドリルロール。あの辛かった日々を思い出しなさい。あの子達と辛く厳しい修行をした日々を。

 輝力が無い? 何を寝言を。まだ命が残っているわ・・・・・・・・・・

 まだわたくしには命が残っていますのよっ!!」


 沈んだ状態から荒々しく啖呵を切り、ぐいっと一息に立ち上がるクリングリンさん。

 命の光だろうか、輝力とは違ったキラキラとした粒子がクリングリンさんに集まっていく。


 い、いや、これは!?


「見てスー、カラカラとクバールが光ってるよ!」


 俺に目は無いが、目をこするように知覚を一度クリーンにして謎の光をもう一度見てみる。

 これは命の光じゃない。やっぱり輝力だ。場外でダウンしているカラカラとクバールも同様に光っていてそこからクリングリンさんへと輝力が流れ込んでいる。


 もしかして、顕現するための……この世界に存在するために必要な輝力を全部クリングリンさんに集めているのか!?

 そんな事をしたら消えてしまうぞ!


 光はフルフレッジドアーマーに集まってさらに強さを増していく。

 やがて二体のグロリアは光の粒子となって消え、クリングリンさんと一つになった。


「カラカラ、クバール……。わたくしのためにありがとう。

 これでまだ戦えますわ……」


 クリングリンさんは目を閉じ、胸のあたりに手を添えて小さくそう呟いた。


 カラカラ、クバール……。お前たちの契約者マスターを思う気持ち、俺には良く分かるよ……。

 だからこそ戦う。感傷に浸っていないで全力で戦わせてもらう。

 それがお前たちの、そしてクリングリンさんの望みだからだ!

 

 レナ、もう一度仕掛けるぞ!

 たとえ輝力が圧倒的に増えたとしてももう一度俺の体当たりコズミックバスターを防げる訳じゃない。


「待ってスー! 様子が、クリングリンさんの鎧の様子が!」


 なぬっ!?

 まさか、進化!? そう言えばこの輝力の光は進化するときに似ている。


 ジジッ、と音を立ててフルフレッジドアーマーの姿がぼやけ、一回り大きな姿が薄く見えている。


 Cランクのインプルーブアーマーに進化するのか?


 注意してその様子を見ていると、かすれたその姿がさらに違う姿に変わっていく。


 インプルーブアーマーじゃない。もう一つ上のランクの……、いや、あの特徴はその上の……。

 あれはAランクのユニオンリンクだ! 間違いない。【神カンペ】のデータと照合してもあの鎧は間違いなくユニオンリンク。一度に二段階も進化することなんかあるのか!?


 『ユニオンリンク:Aランク

  黄金色に輝くその鎧は流線形でありながら小さく鱗のような部品パーツで構成されており、どんな衝撃も外へと散らして無効化する。装着者を守る能力は特段に優れており常に体の周りに張り巡らされている防御膜によって宇宙空間での活動も可能となっている。その強固な防御膜は攻撃にも利用され手刀を振れば空気は割け、蹴りを繰り出せば大地が裂けるほどの力を持つ。その細かな部品を組み合わせて違う形に組み替えることもできる。そのため我々の中にも愛好者が多く、出来上がった品を時の英雄へ武器として渡すこともある。ただしほどほどにしないと渡した物をめぐって争いが起きてしまうので自重してください』


 神様が勇者に授ける神器ってやつじゃないですかー!?

 宇宙空間でも大丈夫なやつとどうやって戦えば……。太陽風とか銀河宇宙線とかなんか凄い放射線を防ぐってことだろ。耐熱温度はどれくらいなんだ? 俺必殺のフレイムブリンガーは通じるのか? どうする、どうしようレナ!


「スー落ち着いて。何に驚いているのか分からないけどよく見て!」


 んんっ? クリングリンさんの鎧は光に包まれていて進化の途中だろ?

 まだ途中だから進化後の姿が半透明になっていて、その姿がやばいっていう話なんだが。


 いや……進化にしては長すぎる?

 そう言いたいのかレナ?


「あ、あれは限定進化! 王城の書庫で読んだことがある!」


 審判席の男性が立ち上がるといきなり大声を上げた。


「知っているのか貴殿っ!」


「ああ、古い書物によると契約しているグロリアの能力を高めて一時的に上位のグロリアの能力へと近づけるらしいのだ! 数百年前の勇者が使っていたらしいが、残念ながら詳しい内容は残っていなかった」


 なにぃ、限定進化だって!?

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