第133話 小人さんと神々の晩餐 むっつめ
「.....ってわけだから、あんたにだけは伝えておくね? ヤバいと思ったら主の森からフロンティアにおいで。匿うにょん」
唖然とするパスカールに、満面の笑みな小人さん。
夜半遅く、空から王宮を散策していた小人さんは、明かり取りの天窓からパスカールを見つけ声をかけた。
「やっふぁい、少し話したいをんだけど良い?」
いきなり天窓に顔を出した少女に驚き、え?え? と眼をパチクリさせるパスカールを拉致して、二人はただ今王宮最上階。見晴らしのよい塔の上で夜空を見上げつつ話していた。
「父上がまたもや..... 申し訳ない。まだ成人前で、次男な私は国政に関わっていないのです。前回の沙汰もあり、成人した後には北の外れの領地へ追い出される予定で..... お力になれず、無念です」
悔しげに俯くパスカールに話を聞くと、獣人らを解放するのに協力した彼は国王から恨まれ、臣籍に落とされるのだという。
そして成人したら北の枯れた領地の領主となるよう命じられているのだとか。隣国と隔てる荒野との境目の土地で、数個の村に各百人いるかいないかの場所。
小人さんはクラウディアの地図を見せてもらって、その土地を確認した。そして眼を見張る。
あれ? ここって.....?
西の山脈の切れ目があり、僅かな隙間だが中央へと向かえる場所だ。しかも山脈側は雪溶け水の影響か、結構豊かな自然がある。
山脈が無くなる辺りは一面の荒野。そこから海辺のまでの広大な土地が、パスカールに与えられた領地だった。
つまり、パスカールは新たな辺境伯となるわけか。
北と南だけしか陸路がひらけていないクラウディアは天然の要塞。長く横たわる山脈が内陸部の侵入を拒んでいる。
多方面からの攻撃を想定しなくて良い隔離された立地が、代々暴君を生みだしたのかもしれないと、小人さんは暫し考え込んだ。
本来のクラウディア南の辺境伯はパスカールが送られる土地からかなりの後方。どうやら彼は体よく新天地開発を押し付けられる形になったようである。
だが、これも好都合。
小人さんは、悪い顔でニヤリとほくそ笑んだ。
「パスカールは何時成人?」
眼をキラキラさせながら振り返った少女に、一瞬、どきっと鼓動を高鳴らせ、パスカールは慌てて答えた。
「新年に成人いたします。なので領地に赴くのは来年の春になるかと」
それを聞いて、さらに悪い笑みを深める小人さん。
「ちょっと耳貸して?」
こしょこしょと内緒話を黙って聞いていたいたパスカールの眼が、みるみる見開かれる。
「そんな事が可能なのですか?」
「上手くやれば、隠し玉になるかもね。がんばれっ!」
ぐっと良い顔でサムズアップする小人さんに、パスカールは二の句が継げない。
困惑する彼の肩を叩き、小人さんは時々領地予定の様子を見に行ってね? と言い残してクラウディア王宮から翔び去っていった。
唖然としたままのパスカールが微動だにせず、その後ろ姿を見送っていたとも知らずに。
「さってと。準備は良いかな? いっくよーっっ!」
パスカールの領地予定な土地に降り立った小人さん。
荒野との境目な中心に立ち、何時もの調子で森を魔物達と造る。種と水を撒き散らして金色の魔力を与えて育てる森。
その荘厳な深い森を見て、初見の魔物達が呆気に取られた顔でポカーンと口を開けていた。
「この森はアンタに任せるからね?」
ぽんっと子ペンギンの頭を撫でて、小人さんは主の森固定をする。そこへ軽い調子の声が響きわたった。
《ここですか~? アテにお任せあれ、ちょっくら掘り返してきますよって》
大地からにゅ~と顔を出したのは巨大ミミズのトリガー。土の中を這い回る彼は、不死の呪いを解くことを拒んだ。
《アテはレギオン様と生涯を共にしま。御厚意には感謝しときますが、このままで、ええです》
にっと笑うミミズ様。眼も口もないのに笑ったのだと分かる謎。それでも小人さんに協力はすると言っていたので、さっそく一翔びしてトリガーの協力を仰いだ小人さんである。
モコモコと荒野の土を耕していくトリガーを見つめ、小人さんは他の魔物らにも指示を出して土地の開墾を始めた。
カエル達に泉をひいてもらい、荒野一面に草花を生えさせる。みるみるうちに荒涼とした大地が風をはらむ草原へと変貌していった。
「何度見ても見事なモノですな」
感嘆に眼を見開きつつ、ドルフェンは嬉しそうに微笑んで小人さんを見つめる。
パスカールの領地予定な土地は、あっという間に緑豊かな大地に変わっていた。
「見てくれだけだにょ。本当に豊かな土地にするには時間が必要さな」
一仕事終えた感を出して、ふうっと一息つく小人さん。
ここに動物が住まい、馴染むことで初めて森として意味をなす。それまではモノノケ隊を置いて番をさせなくては。別の誰かに気づかれ横取りされぬように。
子ペンギンはレオンの次代だと聞く。ならば、このまま新たな森の主になれるだろう。
小人さんは子ペンギンを振り返り、もう一度確認する。
「ここを任せるよ? 良い?」
任せろとばかりに、むんっと胸をはり嘴をへの字にする子ペンギン。
その頭を撫でながら、小人さんは子ペンギンを森の主に設定した。
すると子ペンギンの身体が発光し、ずずっと形を変えていく。
「え?」
「「「「は.....?」」」」
しだいに大きくなっていく光の塊をみて、静かに見守っていた周囲はもちろん、小人さん本人も思わず狼狽えた。
ひとしきり燦々とした目映い光が満ち溢れ、それが消えた時、そこへ巨大なペンギンが出現する。
唖然と見上げる小人さんに、そのペンギンは嬉しそうな顔で両翼をパタパタと振って見せた。
《俺 頑張る。だから、名前を
「あんたが喋ってんの? え? なに、これ」
レアンと良く似たペンギンだが、少し違う。眉毛の後ろが短くなり、額の辺りまでフサフサなペンギン。
あれだ、ロイヤルペンギンだ。
唖然と見惚れる小人さんに気付き、件のペンギンは然も楽しそうに足をペタペタさせる。
《俺、子供。だった。王の力で、大人、なった。俺、進化、した。だから、名前、欲しい》
「うええぇぇぇっ?!」
進化した? 主が?! 誰か説明プリーズっっ!!
脳内パニックな小人さんへ、誰かが呑気な声をかけた。
あらかたを耕し終わって戻ってきた巨大ミミズ様である。
《あっれぇ~? これは珍しなぁ。久方ぶりに見ようや、進化》
「アンタ知ってるの? 教えてっ! 何が起きたの? これっ!」
必死の形相な小人さんを、じっとりと見つめ、トリガーは少女とペンギンに眼のない顔を何度も往復させた。
《知らずにやらかしたん? 阿保やなぁ》
はあ~っと大仰な溜め息をつき、トリガーは金色の魔力は植物だけではなく、全ての命を司る魔力なのだと教える。
《つまり生き物の成長や促進、ぜーんぶ出来るってこっちゃ。さらに主固定ともなれば、相応の力が必要。幼生な個体を主とすれば、それに見合う力が必要となり、稀に進化を遂げる個体も出現しやん》
「聞いてないよぅぅぅっ! カオスーっ、アビスーっ! そういう大事なことは前以て言っておいてよねーっ!!」
大空目掛けて怒鳴り付ける小人さんだが、時既に遅し。キラキラ眼まなこで見つめてくるペンギン。
ぐぬぬぬっと拳を握り締めつつ、小人さんは新たな主の名前を考えた。
「お父ちゃんがレアンだから..... レオン? レオンでどう?」
口許をヒクつかせて振り返った小人さんに、元子ペンギンは両翼を天に広げて喜んだ。
《レオンっ! 俺、レオンだぁーっ!》
喜びの舞なのか小躍りを始めたレオン。
なんか、何処かで聞いたような?
遥か昔に覚えのある懐かしい響きを耳にして、小首を傾げた小人さんをトリガーがじっと見つめる。
《あんさん、安直やな》
だまらっしゃいっ!!
ネーミングセンスに難ありな自覚のある小人さんは、チクチク刺さるトリガーの視線を力ませに振り払うと、馬車にいたモノノケ隊に声をかけた。
「この森が安定するまで皆で手伝ってあげてね」
ラジャッとまでに、ぴっと敬礼するモノノケ隊。どうやら騎士達を見ていて、その真似をするようになったらしい。
居並ぶ魔物が揃って敬礼する姿の愛らしさに、顔が緩みっぱなしな騎士達。
めちゃくちゃ可愛いーっ!
もちろん小人さんもニヨニヨだ。
こうして、クラウディア辺境に新たな主の森が生まれた。
後日やって来たパスカールは、小人さんの内緒話どおりに森が出来ていることに驚き、主がいることに驚き、領地予定の大地が一面の緑に溢れていることに泣き崩れた。
「.....感謝します、神よ。いや、金色の王よっ! これならやっていける。立派な領地を作ってみせますっ!!」
後にクラウディア国王となる少年の一歩が、ここに記される。
この先、地獄絵図となるクラウディアで王族唯一の良心と呼ばれた彼は、南の辺境伯と共謀して自国の再建に乗り出すのだが、それはまた別のお話。
あらゆる所に色々な種を撒き散らし、今日も小人さんは我が道を征く♪
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