第6話 神々の神託 ~みっつめ~
「これは?」
千尋は渡された短弓を頭にかざす。千早も同じ短弓の弦を物珍しそうに引いていた。
「御二人とも剣の基礎は終わりました。身体が出来るまでは、今までの反復練習になります。それだけでは退屈になるかと思います。なので体術と短弓を嗜んでみてはいかがですか?」
双子が騎士団に通うようになってから半年。めざましい上達を見せた二人に、ハロルドは弓と体術を勧めてくる。
うん、手札は多い方が良いよね。常に得物が手元にあるとは限らないし。何でもやれた方が良いに決まっているよね。
大きく頷く小人さんを見て、千早も頷いた。
それに眼を細め、ハロルドは弓兵隊から選りすぐりの若手を指導につける。
思わず鼻歌が飛び出しそうなほど満面の笑みを浮かべる騎士団長を怪訝そうに一瞥し、ドルフェンは怪しげな眼を向けた。
「あれって見習いの行程ではありませんか?」
「何の話だね? 型も終了したし、打ち抜きも出来るようになった。ならば、本格的に剣術を始められるまでの間、他を嗜むのも良かろう?」
しれっと嘯くハロルド。
剣術の型から始め、体術、弓術。たぶん、この後に来るのは棒術と槍術だろう。
二年かけてローテし、自分に向いた専門を選ぶ。騎士見習いの研修行程だ。
この古だぬきめ。
嗜みのオブラートを被せて、双子に騎士団見習いのローテをやらせていくつもりに違いない。
基礎固めがされていれば、応用は容易いものだ。しかもお二方は努力を厭わない。
あっという間にモノになさるだろう。
盛大に苦虫を噛み潰しつつも、静かに静観するドルフェン。
騎士団長の思惑がどうあれ、力をつけるのは良い事だ。
なにしろチヒロ様のこれからを思えば、身を守る術は幾らあっても困らない。
彼は眼をすがめて弓を引く双子を見つめた。
数ヵ月前、ドルフェンと何時もの面々は、冒険者になるという小人さんを問い詰め、その理由を知ったのだ。
神々からの神託。それは寝耳に水な話だった。
「なんで今更....っ、それは他の誰かが代行する訳にいかないのか?」
「アタシ、アタシ。アタシが神々の代行」
半泣きな熊さんを慰めるように、小人さんはお髭をモシャモシャと撫でる。
「金色の環を作るとなれば、チィヒーロが直に行かねばなるまい。兄上に打ち明けて、騎士団の護衛をつけるべきだろう」
「いや、勘弁してね。アタシと御供だけなら空を翔ていけるけど、他が一緒だと行動に制限がかかっちゃう。何より王宮には、もう関わりたくないから。王様はファティマと幸せに暮らしてもらってね」
じっとりと眼を座らせて宣う幼女。さすがのロメールも、あまりの言われように言葉を失う。
「でも、俺はついてくからな。蜜蜂らに宜しく言っといてくれよ?」
「私もです。生涯を共にすると剣に誓いましたから」
顔を見合わせてニヤリと笑うアドリスとドルフェン。
これは想定内だったのか、小人さんは然して狼狽えなかった。
「まあ、二人くらいなら。だからさ、お父ちゃんとロメールに御願いあるさ」
「御願い?」
小さく頷いて、千尋はドラゴを見上げる。
「お金かかるけど、巡礼用の馬車が欲しいの。引くのは魔物だから、通常より重くても平気。その形が重要になるから、特注で頼みたいんだけど良い?」
おずおずとおねだりする愛娘に、ドラゴは一も二もなく頷いた。
「勿論だともっ! どんな攻撃にも耐えられる丈夫な馬車を作ろうっ!」
爛々と眼を輝かせて力説するドラゴに苦笑しながら、千尋はロメールにもおねだりをする。
「ロメールには馬車に設置する魔道具を御願いしたいの」
「魔道具?」
魔力が失われなかったフロンティアでは、未だに魔道具が生産されていた。
大きな宝石を核とし、魔力を充填して繰り返し使える道具だ。
今はフロンティアのみの恩恵だが、いずれアルカディア全土に広まる技術だろう。
「そう。宜しくね」
にししっと笑う幼女。
その悪巧みな懐かしい笑顔に、思わず安堵の溜め息をもらす大人達だった。
「出来たねーっ」
やってきた馬車は、馬車であって馬車ではない。
ぶっちゃけ大八車に箱をのせた物を想像してくれたら間違いはない。
箱と台車の間にバネ式のスプリングを採用し、斜めって前倒しな車体は骨組みの殆どが鉄骨である。
形は真っ当な馬車だが、その屋根にも車体の鉄骨と溶接された梯子のような物が横にして着いており、車体の天井とその梯子の隙間に荷物が入れられるようになっている。
一見してキテレツそのものな馬車に、大人達は言葉を失なった。
「馬は..... どこに? 装備がついてないように見られますが」
ドルフェンは前倒しの手摺を撫でた。
まるで人間がそのまま引いていくかのように一本の横棒が付いているだけ。奇妙な手摺の上にも梯子を横にしたような鉄柱がついていた。
すると小人さんは、大きく手を振る。
「ポチ子さん達、かもーんっ!」
呼ばれてやってきた蜜蜂らは、小人さんの説明を聞き、数匹並んで馬車の横棒を持ち上げた。ついていた鉄棒を掴み、ぐんっと車体を水平にする。
そしてそのまま、指示された通りに馬車を牽いた。
軽々と馬車を操る蜜蜂らを驚嘆の眼で見つめる大人達の前で、さらに小人さんは指示を出す。
「ポチ子さーんっ、上昇ーっ」
小人さんの言葉に従い、蜜蜂らは二匹を前方に残し、残り六匹が馬車の天井にある梯子状の鉄棒を掴む。
まさかと思った瞬間、ドラゴ達の目の前で、大きな馬車は空に持ち上げられた。
「重くないー? いけそう?」
空を舞う馬車を見上げて、小人さんは蜜蜂達に叫ぶ。すると、それに応えるように、蜜蜂らは馬車を抱えたまま軽々と旋回してみせた。
「うん、大丈夫そうだね」
満足気に破顔する幼女を凍った眼差しで見つめ、ドラゴ達は異口同音を叫ぶ。
「「「「説明しなさいっ!(してくださいっ)」」」」
ドラゴに抱かれながら、おおぅっと思わず仰け反る小人さん。
「万が一、墜落したらどうするんだっ!!」
「麦太や他にもカエル連れてくから平気」
鉄壁の守護に定評のある麦太君と仲間達。
ドラゴが、ぐっと言葉を詰まらせる。
「いやいや、それにしたって....
っ、俺らも乗るんだよな? えっ? 飛んでいくのかっ??」
「嫌なら来なくても良いよ?」
しれっと宣う憎らしさよ。
ぐぬぬぬと黙り込むアドリス。
「まあ、快適ではありそうにないですが、御供いたしますよ」
あっさり頷くドルフェン。
そこで思い出したかのように、千尋はロメールへ視線を振った。
「そーだ、それそれ。快適な旅のために、空間増やす魔道具作って欲しいの。ほら、前の巡礼で使ってた天幕みたいな」
ああ、とばかりにロメールは軽く瞠目する。
天幕の魔道具を馬車の箱に使えば、それなりに快適な空間が作れるだろう。
動く馬車に使用できるか分からないが、改良を兼ねて研究してみるのも面白い。
......面白い?
ふとロメールは、以前脳裏を過った思考を思い出した。
《面白い時代に生まれたものだ》
数々の小人さんのやらかしに奔走しながらも脳裏に浮かんだ愉快な言葉。
これもまた、その一つなのだろう。
細く長い溜め息をはき、ロメールは挑戦的に眼を輝かせた。
「やるなら、とことんだよね? チィヒーロ」
それに不敵な笑みをかえして、小人さんはドラゴの腕から、ぴょこんっと飛び降りる。
「そうだよっ、踊るなら全力で踊らないと損なんだよっ!!」
そう快活に笑い、短い手足でピョコピョコと踊り出した。
こちらの人間には分からない謎な踊り。
克己がいれば、一目で見破るだろう盆踊り。
河内男節をチャカチャカと踊る幼女に毒気を抜かれ、ドラゴらは致し方無さげに顔を見合わせる。
興がのってきたのか、小人さんは唄まで歌っていた。
カワチって何処だろう?
そんな益体もない事を考えつつも脱力する大人達と、楽しげに踊る幼女。
スチャラカな踊りに騙された大人達は、後日改めて小人さんにお説教をはじめた。
小人さんが止まらないのは良く知っている面々だが、それでも刺しておきたい釘はある。
それぞれから長々とお説教を食らい、ちっと舌打ちして眼を逸らす小人さん。
毎日色々騒動はあれど、今日も小人さんは元気です♪
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