乱入
即座に展開した“転移門”。
しかし、これは僕が移動、回避するためのものじゃない。
門の先に繋がっているのは、サイクロプスの顔面。
ドロップキックの要領で突っ込んできたサイクロプスの脚を自らの顔面に直撃させる。
ゴリっという鈍い音が反響して耳に届いた。
自滅。
自分で自分に攻撃する。
これだけ聞けば、マヌケそのものであるが、サイクロプスの体重を全て乗せた飛び蹴りは、シャレにならない威力だった。
それを証明するように、サイクロプスの顔面は己の蹴りをもって変形した。
あれだけ僕が全力をもって攻撃しても、大して効いていなかったというのに、だ。
自分だけの攻撃で傷をつけることが出来なかったのは、少しばかり悔しさもあったが、同時に、これでサイクロプスの攻略法が見えてきたという安堵もあった。
僕は、鎖に縛られながら痛みにのたうち回るサイクロプスを一瞥し、“黒鬼化”と“液体化”の併用によって黒く染まった液状の腕を、追い撃ちとばかりに振りかざす。
風を切る音。
遅れてサイクロプスを叩いた衝撃が腕に伝わる。
やはり、というべきか、あまり効いている様子はない。
僕は、小さくため息を漏らし、未だジタバタと暴れるサイクロプスの脚を“鎖縛”によって拘束する。
これで、全身の自由は奪ったことになる。
いや、サイクロプスが鎖を破壊することだけに専念し始めれば、この程度すぐにでも解けてしまうのだろうが。
まあ、なんにせよ、少しの時間は稼げることに変わりはない。
この後、どうこいつを殺してやろうか、と思案していた、ちょうどその時。
――サイクロプスの瞳が大きく見開かれた。
黒曜石のような輝きを持つ、黒い瞳に幾何学模様が浮かび出るの、僕は見た。
それが、“支配の魔眼”という能力なのだと気づいたのは、それから数瞬後のことだった。
何を“支配”した?
恐らく、“支配”の対象は僕ではない……筈だ。
体は自由に動く。
なら……
僕は己の直感に従って、背後へ振り向いた。
その直後、僕の体を強烈な痛みと共に衝撃が貫く。
そして、僅かに僕の瞳が捉えた先には、鷹がいた。
正確には、鷹型の魔物……だろう。
普通の鷹と比べると、軽く十倍はあるその体躯と、ギラリと鋭く光る鋭利な嘴、一本一本が斧のような刃を持つ爪が、それを証明していた。
低空で飛行しながら、僕へと衝突したのだろう。
その衝撃に加えて、嘴が僕の横腹を串刺しにしたことで、焼くような痛みが走る。
さらに、ドクドクと流れ続ける鮮血は、僕の体から熱を奪っていく。
もちろん、“再生”によって体の回復は始まっているが、完全に治るまで一体どれくらいかかることやら。
僕は、痛みに耐え、患部を手で押さえつけながら、倒れた体をゆっくりと起こす。
あの鷹は、サイクロプスのとなりに着陸し、今もそばに控えている。
どうやら鎖を外そうとしているようで、先程から四苦八苦していた。
警戒は続けながら、僕はこの状況を切り抜ける方法を思考。けれどもその問いは一向に出てくる気配はなかった。
僕が途方に暮れていると、さらに後方からバタバタと騒がしい足音と、激しい戦闘音が聞こえてくる。
なんだなんだ、と慌てて視線を向けると、そこには魔物の行列があった。
ゴブリンから始まり、コボルト、バトルウルフ、オークにリザードマンまで。
そして、そのさらに後方。
そこには魔物を追う十数の探索者たちがいた。
その中には、僕も見覚えのある探索者と、それに加えて自衛隊員の姿もあった。
彼らは強力な助っ人ではあるが、これだけの数の魔物を連れてきたとなると、勢力的にはプラスマイナスゼロ。
というか、あの魔物の中の数体でもこっちに来られると対処が面倒だから、実質マイナスみたいなものだ。
なんてことを考えていると、早速魔物の列から僕を捉えたオークが、こちらへと迫っていた。
不幸中の幸いというべきか、あの鷹の魔物も、サイクロプスも今は僕へ目を向けていない。
オークの一体程度であれば、大した労力も必要ではない。
武器……というか、何やら棍棒のようなものを持っているようだが、間合いに入らなければ脅威でなんでもない。
僕は、腹の肉をタプタプと揺らしながら走り寄る豚の魔物へと手を向ける。
「――“放水”」
サイクロプス相手に放った時は軽くあしらわれてしまったこの“能力”だが、オーク程度なら、十分すぎるほどの攻撃力を発揮する。
虚空から出現した水の塊が、一条のレーザービームとなって――オークの肉を貫いた。
赤々とした紅は宙を舞い、既に黒く染まった真冬の空へと散って消えた。
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