十九階層へ
「案外、呆気なかったな……」
僕はドロップアイテムだけを残して消えた鬼虎へ、ポツリと落胆を滲ませた声音で呟いた。
「仕方ないと思いますよ。だって柊木さんのあれ、強すぎますから」
あれ、というのは“転移門”のことだろうか。
たしかに、あれは強力な能力だ。
今まで――それこそ、十階層であの能力を手にしてからここまで通用しなかった敵はいないほどには。
しかし、今以上に敵が強くなる上階層ではあの力に対応してくるやつが出てこないとは限らない。
というか、十中八九出てくる筈だ。
なればこそ、僕は“転移門ワープゲート”に頼らない純粋な力を鍛えたい。
となると……
「白月さん、“転移門ワープゲート”を使うのはしばらくやめようと思っているんだけど……どう思う?」
「……え?」
僕の質問に、白月さんは素っ頓狂な声をあげた。
今までにない、少し上ずった声。
そして、その表情には隠しきれない動揺、困惑がにじみ出ていた。
「あ、いや、もちろん移動には使うよ!? これが無いと大分時間が短縮出来るしね。でも、戦いの方ではもう少し自粛した方がいいんじゃ無いかなってさ……」
「えっと……それはまた、なぜですか?」
戸惑い混じりの白月さんの声。
しかし、最初から否定的、というわけでは無いようだ。
「うん、まあ……最近ちょっと、“転移門ワープゲート”に頼りすぎかなって思ってさ。ここら辺で他の能力も鍛えておこうかなって」
「うーん、別に私は転移門を使うことは悪いことじゃないと思いますけど……でも、たしかに最近はアッサリ敵が死んでしまいますから私の出番も減ってきてるかなっていうのは感じていました。いい機会です。私も、もっと戦えるようになりたいですから」
意外にも……と言うべきなのか、白月さんは僕の提案をあっさり承諾してくれた。
◆
十八階層のフロアボスと戦ったとはいえ、あまりにも消化不足だったことも相まって、僕たちはその後、第十九階層へと足を進めた。
新階層。
多少の情報こそあるが、僕らにとっては未経験の場所。
さらに、今は“転移門”の力を自主的にとはいえ封印中だ。
自然、一つ一つの行動は慎重になる。
階層は違えども、いつもと同じ淡い光を放つ壁は健在で、不安感はない。
それに、今のところ魔物の気配もない。
「ここら辺で戦い方の確認でもしておこうか。基本の戦法はいつもと同じ、僕が前衛で白月さんが後衛。でも僕は極力“転移門”は使わない……ここまではいい?」
「はい、問題ありません。続けてください」
白月さんは真剣な眼差しで僕を見つめる。
新しい階層への不安か、それとも僕が“転移門”を使わないことへの不安かは分からないが、どことなくいつもより緊張しているように見受けられた。
しかし、ここでは敢えて指摘しない。
こういうのは口に出すと余計動きが固くなってしまうこともあるし。
「白月さんの役割は前と変わらず【氷魔術】での援護と牽制、隙があったら積極的に狙って行って。僕はなるべく後ろに行かせないように前で張ってるから。あと、やってみたいこともあるんだけど……」
そう言いかけたところで、僕の直感が魔物の気配を察知した。
「――ッ!」
「来たっ!?」
白月さんも戦闘態勢をとる。
まだ目では捉えていない。
しかし、耳では既に補足済み。
聞こえる。
足音が、聞こえる。
一つじゃないな……複数、それもかなり多い。
一、二、三……いや、十はあるか?
「ダメだ、音だけじゃ正確な数がわからない」
音が近づいてきた。
迷いのない足取りから見るに、恐らく僕たちの存在には気づいているはずだ。
もう少しで接敵する。
戦闘態勢。
僕は槍を握り、“黒鬼化”を発動。
まずは様子見。
ギルドからの情報が正しければ、この階層のメインはスケルトン。
しかし、どうもそのスケルトン、種類が多いらしい。
例えばスケルトンソルジャーやらスケルトンアーチャーやらスケルトンウォリアーやら。
そして今回はどうやら、魔術師タイプのようだ。
雑多な足音が遂に止まり、僕たちは視認する。
十を超え、二十ほどはいるだろうスケルトンの大軍を。
群れなだけあって、それを統率するリーダーがいるらしく、そいつは集団の先頭を陣取っていた。
リーダー格はボロ布で作られた薄汚い黒のローブを身に纏い、荒く削った木の杖を手にしていた。
しかし、装備はそれだけ。
とんだ紙装甲だ。
しかも、魔術師――後衛にいるべき種類のヤツがなぜ前衛にいるのか……僕には到底理解できない。
何か理由があるのか……それは分からないが、まずは先手必勝。
僕は“黒鬼化”にて強化された肉体を前に押し出した。
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