必勝法

 一日、休息日を挟んで今日。

 僕たちは十八階層フロアボス戦へ挑む。


 そして今、僕らはダンジョン十八階層。ボス部屋の前にいた。



「準備は?」

「万端ですよ」


 僕らは顔を見合わせて薄く笑った。

 荘厳な扉を前に、得物を構える。


 白月さんは短剣を、僕は槍を。

 ちなみにだが、僕の槍と白月さんの短剣は十五階層を超えたあたりで新調している。


 そして、その作成者が源だ。

【鍛治】のスキル持ちである源は探索者辞めた後に、僕らも世話になった武器屋の店主――藤田健吾さんに弟子入りしたらしい。


 どうにも彼は元々凄腕の鍛治師だったらしく、無理言って弟子にしてもらったんだとか。


 そのあとは早かった。

 源はスキルのおかげもあって猛スピードで技術を吸収していき、今では一流の鍛治師と言っても過言でないレベル。


 これは普通信じられないようなことらしいのだが、やはりスキルがあるというのはそれだけのアドバンテージなのだと再認識させられた。


 そんで、源は僕らに何か恩返しがしたいとかで、無料で武器を鍛造してもらえることになったのだ。


 もちろん、武器の質は前使っていたもの以上。

 上階層の武器に使えるドロップアイテムやら希少金属をふんだんに使った逸品らしい。


 僕の槍は第十三階層に生息するミノタウロスの角と十一階層で採掘した特殊金属から作られている。


 それが関係しているのか、この槍はずっと昔から使っていたかのように僕の手に馴染む。

 特殊な効果なんかは付いていないが、こいつはひたすらに頑丈だ。

 今の僕が本気を出して使ったとしてと壊れることがないくらいには。


 だから僕は、今日も安心してボス戦に挑める。


「――さぁ、行こう」


 僕は両の手に力を加えて扉を開く。

 ギィッと音を立てて扉を開くと、その奥から重厚な威圧感がここからでも感じ取れた。


 でも、僕は……僕たちは止まらない。


「魔物狩りの時間だ」

「はい!」


 ◆


「雑魚任せた!」


 僕はそれだけ言い残して地面を蹴った。


 ダンジョン十八階層、ボス部屋。

 そこにいた魔物、その名は鬼虎。

【鑑定板】にて確認したので間違いはない。


 姿形はその名前の通り、鬼のような角を二つほど額に付けているだけの虎だ。

 ただ、全長が四メートル程度と中々にビックサイズではあるが……これについてはもう慣れた。


 ここまで来るのにこの程度の大きさの魔物であれば幾たびも見てきたのだ。

 これだけでビビってはいられない。


 僕は怯えも緊張もなく、いつも通り槍を構える。

 やや脱力した左半身構え。


 鬼虎の取り巻きは白月さんが【氷魔術】で気を引いている。

 チラ、と横目を向ければ宙空に発生した幾十もの氷の弾丸が鬼虎よりはふた回りほど小さい虎型の魔物を貫いていく様子が見えた。


 続いて氷の大剣を生成し、虎の魔物たちを次々と斬り裂いていく。

 その様相、まさに一騎当千。

 まあ、数は千もないのだが。


 何はともあれ、これは絶好のチャンス。

 鬼虎は今一つ。

 単独でポツリと佇んでいる。


 僕も単身、鬼虎の眼前に姿をあらわす。


 ここで鬼虎がようやく僕を敵と認識。

 鋭い牙を光らせる。

 カパァッと開いた口からは血と肉に飢えた唾液が溢れ出す。


「食い殺す気満々ってわけだ」


 ――けど、残念ながら死ぬのはお前だ。


 僕は“黒鬼化”を発動。

 途端、体が隙間なく黒で埋まる。


 それと同時に湧き出す力の奔流。

 満ち溢れる万能感。


「あぁ、これだよこれ」


 途方も無いまでの生気が身体中を巡る。

 もはや快感ともいえるこの感覚に僕は高揚を隠しきれずに強く強く槍を握った。


 ニヤリと。

 自然、頬が緩む。


 槍を構えたまま、僕は目の前の虚空を黒で塗りつぶす。

 “転移門ワープゲート”。


 そこに、腰のひねりを全開で加えた渾身の刺突を捩じ込む。


 ――すると。


「ゴガァぁァァァァィァァ!!!」


 悲鳴。

 “転移門”の出口は鬼虎の丁度背後に設置していたのだ。


 これが、僕の最近の必勝法。

 チート級の反則技だ。


 人間だろうと魔物だろうと、この攻撃を楽々躱せるような奴はそういないはずだ。

 ま、いたとしたら、そいつは相当な化け物だろうね。


 なにせ、決して弱く無いはずの十八階層のボスが一撃で無抵抗のまま死滅するくらいには強力無比な技なのだから。


 僕は黒い靄となって消えゆく鬼虎を無機質な目で見つめていた。

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