スケルトン

 まず狙うは何故か前衛にいるリーダー格の魔術師型スケルトン。


 僕の動きに応じてスケルトンは杖を前に突き出した。


「魔術攻撃、か?」


 そこまで悟った僕だったが、走る勢いは殺さない。

 ――“恐慌の紅瞳”


 瞳が紅色に染まる。

 そしてスケルトンは――


「――ッ!? 効果がない!」


 一切動きを止めることはなかった。

 何故? そう思考する僕の頭は、一つの結論を導き出した。


 スケルトンって目ないじゃん、と。


「クソがっ!」


 僕は悪態をつきながら、それでも足は止めなかった。

 彼我の距離は十メートルちょっと。

 今の僕なら一秒とかからない。


 しかし、その僅かな時間すら、この戦場のなかでは遅すぎた。


 スケルトンの杖が赤く変色。

 熱を持つ。

 そして、杖の先端に火の玉が出来上がる。


 スケルトンは無表情、無感情にソレを僕へと射出した。


 ――反応、出来ないッ!


 火の玉が直撃した。

 痛みを感じるほどの灼熱、遅れて炸裂した衝撃が僕を襲い、走る勢いは完全に止められたどころか、体が宙を舞い、背中から地面に叩きつけられた。


「カハッ」


 肺から、息が漏れた。

 でも、痛みはそこまでじゃない。


 火も、衝撃も、“適応”が仕事をしてくれたおかげで傷は最小限に抑えられた。

 防具が焦げて多少穴が開いてしまったのは残念だったが、それはまあいいさ。


 僕は槍を杖にして立ち上がる。

 対してスケルトンな再び杖を前に突き出した。


 ――させない!


 僕は再度駆け出し、そしてスケルトンの頭蓋に氷の礫が突き刺さった。


「白月さん……!」


 後ろは振り返らなかった。

 スケルトンはまだ生きている、フラついているが、でもまだ、立っている。


 ここで、倒す!


 僕は足に力を込め、地面を蹴った。

 この時、ようやく他のスケルトンたちが乱入。

 魔術師型――メイジスケルトンを守るように展開し、僕の行く手を阻む。


 しかし、いくら量が多くとも、コイツら一体一体は雑魚だ。

 それこそ、槍の一振りで殺してしまえるほど。


 このなかで脅威足り得るのはメイジスケルトンのみ。


 だから僕は未だ杖を構えるメイジスケルトンへと足を向ける。

 雑魚スケルトンたちが邪魔をするが、それは白月さんが援護してくれている。

 不安も心配もない。


 僕はニヤリと頬を緩めた。


 ――瞬間。

 火の玉が僕めがけて飛来する。


 だが、今回は距離がある。

 僕も冷静に対処できるだけの余裕がのこっている。


 なら、この程度の攻撃はどうとでもできる。


 “放水”。

 この能力によって火の勢いをなくす。


 本来であれば、“転移門ワープゲート”で火の玉をメイジスケルトンにお返ししてやる、くらいのことは出来るのだが、今回は“転移門”封印中だからそれも自粛。


 残された選択肢の中で、僕が選んだのは……


「このまま“放水”だけで突っ切る!」


 だった。


 “放水”の能力も以前より大分威力は増している。

 雑魚スケルトンを水圧で蹴散らしながら進むというのも出来ないわけではない。


 僕は槍を持ったまま、宙空から放出され続ける水のレーザー砲でもってスケルトンも群れを散らし、駆ける。


 狙いは変わらずメイジスケルトン。


 あいも変わらずなんの変化もない骸骨へと、迫る。

 一歩、一歩と進むたびに距離は縮まり、接触。


 僕は立ち尽くすメイジスケルトンへと、槍を振りかざす。

 慈悲はない。

 せめてもの抵抗のつもりか、メイジスケルトンは僕へと杖を差し向けた。

 が、それは無駄の一言に尽きる。


 あの火の玉は僕には効かない。


「それにはもう、“適応”した」


 黒腕がしなる。

 白銀色の穂先がキラリと煌めき、スケルトンの首を飛ばした。


「討伐完了」


 ポツリと呟くと、メイジスケルトンはその体を地面へと横転させた。

 それから数秒、死体は黒い靄へと変わる。


 それと同時に周囲に跋扈していたスケルトンたちの群れもバッタバッタと倒れていく。

 白月さんの【氷魔術】だ。

 やはり、魔術系のスキルは多対一において有効だということか。


 ほどなくして、白月さんによるワンサイドゲームともいえるスケルトン狩りは幕を閉じた。


 やっぱりというのか、なんというか、スケルトンたちのドロップアイテムは大したものがなかった。

 二束三文にしかならないような小粒ばかり。

 ただ、量だけはあったので、魔石を売ればそこそこの金にはなるかな。


 このまま旨味がないなら、すぐにでも次の階層に行ってしまいたい……が、そうもいかないのが世知辛い。


 前の十八階層の方が実入りがいいと考えると、また余計に憂鬱な気分になってしまう。


 ハァッ、と僕と白月さんは肩を落とし、同時に重いため息を漏らし

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