ボッチ大学生

 さて、あれからまた大分時間が経った。

 一ヶ月程度だろうか。


 今日は白月さんの家の引っ越し準備があるとのことでダンジョン探索はお休み。


 ちなみに、僕らの現在到達階層は第五階。

 三階層、また四階層フロアボスは大した苦戦もなく討伐し、そのドロップは高額で買い取って貰えたが、それでも白月さんが家を買い取れるだけのお金を集めることは未だに出来ていなかった。


 僕も一度だけ見にいったのだが、白月さんたちが引っ越す先は極々一般的なマンションだった。

 部屋は2DKで、二人で暮らすのであれば問題はないだろう。

 だが、あの豪邸から一気にそれだけ生活水準が下がるとなるとどんな弊害があることやら。


 そして、物憂げに僕が見つめる先はそれはもう大きな黒板。

 僕は今、大学にいるのだ。


 最近はダンジョン攻略にかかりっきりで大学にはあまり行っていなかった。

 そのため、単位はあまり取れていないので、この機会に少しでも取り返しておこうということになったのだが、いかんせん授業がつまらない。


 僕はつらつらと言葉を並べる講師の話を聞いている風にしながらも頭の中では明日のダンジョンのことを考えていた。


 つい先日辿り着いたダンジョン第五階層。

 メインとなる魔物はゴーレム。


 健吾さんの言っていた通り、ゴーレムは稀に鉱石をドロップした。

 そして、それは結構な額で取引されるのだ。


 立花さんから得た情報によると、一般の人間で五階層まで辿り着いているのは僕らだけだというのだからおそらく需要に対して供給が追いついていないためだろう。


 自衛隊や警察関係してからなる探索者は最前線で活躍しているため、五階層には見向きもしていない。

 そのため、現在ではあの鉱石を売却してくれる探索者が僕らしかいないというわけだ。


 お金を稼ぐなら、競争相手がいない今のうちに乱獲しておくのが吉だろう。

 これも明日白月さんと相談しようか。


 そんなことを考えていると、ようやく授業が終わった。

 大学の授業というのは高校と違って一限が九十分なので、異様に長く感じてならない。


 僕は溜まった疲れを吐き出すようにハアっと一つ息を吐いた。


 授業が終わるとみんな一斉に動き出す。

 ザワザワと騒がしく幾人もの声が混じり合い、そして少しずつ消えていく。


 時間的にもうそもそも昼飯かな。

 教室から一人、また一人と去っていく。

 誰もかれもが友達、もしくは彼女連れだよ。

 僕みたいに一人悲しく授業を受けているやつなんてごく少数。

 昼飯も一人となると更にその数は減少する。


 やっぱりサークルに入っていないのが駄目なのか? それとも何か原因があるのか? 僕は未だに大学内での友達は皆無であった。


 だからあまり大学に来たいとは思えない。


「もうそろそろ、僕も出ようかな……」


 人の出入りが収まりかけたところで僕も動き出す。

 食堂はどうせ混んでいるだろうし、どこか適当な場所で食べればいいだろう。

 それなら今日は何を食べようか。

 やっぱり肉か、肉がいいな。

 ハンバーガー、ステーキ、牛丼、焼肉、いや昼に焼肉はないか。


 そう、思考に没頭していて周りに注意が向いていなかったのが悪かった。

 席を立ち、出口に向かおうとしたところでぶつかってしまった。


 僕は少しよろめく程度の衝撃を受けただけだったが、相手側は尻餅をついて倒れてしまった。

 当然だろう。

 探索者としてダンジョンを探索し、レベルを日々上昇させている僕とそこいらの一般人では身体能力に差があるのだから。


「いっつ……」


 僕とぶつかった相手は男だった。

 背丈は僕と同程度。

 髪は何故か赤色に染められて服装から見てもチャラい。

 ザ・陽キャといった様相。

 だが、見た限り周りに友達がいる感じもしない。


「あの、すみません。不注意でした」


 僕は何か言われる前に頭を下げる。

 さて、この後は何を言われるのだろうか。

 などと思っていると――


「あ、いえ……自分もよそ見していたので、お気になさらず」


 見た目に反してものすごく礼儀の良い返しに僕は驚いた。

 最悪、キレられて殴りかかってくるところまで想定していたのだが……杞憂だったみたいだ。

 転んだ彼に手を差し伸べて立ち上がらせる。


「ああ、えっと……なんかイメージと違いますよね、俺」


 僕の視線に気づいたのか、彼は自嘲気味に話した。

 僕はこれにどう返せばいいのか迷ったが、最後には首肯で答えた。


「あはは、いわゆる大学デビューってやつで、こういう格好してたら友達も出来るかなって思っていたんですけどね……」


 無理だった、と。


「すぐにボロが出てしまって……」


 そう笑う彼はどことなく悲しそうであった。

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