赤城 智也
場所は大学近くの某有名ハンバーガーショップ。
僕はあれから仲良くなった赤髪の男子生徒――赤城 智也あかぎ ともやと対面して座っていた。
今日は何故だか店が異様に空いていたので、四人席のテーブルを二人で贅沢に使っている。
まばらに聞こえる話し声を背景に僕は口を開いた。
「ええと、それで……なんだっけ?」
中断してしまったさっきまでの話しの続きを催促する。
「ああ、うん。俺の格好って、見てわかると思うけど結構派手でしょ? だから、最初はいろんな人が絡んできてくれてたんだけど、元々人とのコミュニケーションがあんまり得意なほうじゃなかったからどんどん人が居なくなっていって……今じゃまともに話せる友達とかもあんまりいないんだよね」
そう言って彼は自嘲気味に苦笑した。
さっきも言っていたな、ボロが出たって。
見た感じ、顔も整っているし性格も特に悪いところは見当たらない。
優男風な美男子である彼は女ウケがいいと思うんだけどな。
僕はそんな疑問が頭に浮かぶが、ほぼ初対面の彼に突っ込んだ話は出しにくい。
「学外ならまだ何人か友達もいるんだけど……」
言い訳のようにポツリとこぼれ落ちたその言葉から類推するに、バイト、もしくは高校の時の友達とかだろうか……何はともあれ、彼にも全く友達がいないというわけではないようだ。
まあ、こうやって話していて、別段不快感を覚えることはないし、というか僕にとっては結構話しやすい相手のように感じる。
赤城が友達作りに失敗したのは単に相手と相性が合わなかっただけなのかもしれない。
「僕もおんなじ感じかな……大学の外だと友達いるけど、同じ大学にはいないんだよね」
源とか、白月さんとか……。
そういえば最近源とは会ってないけど、どこいるんだろう?
今度、連絡とってみようかな。
こっちにきて、最初に出来た友達だし、大切にしないとね。
「まあでもさ、一緒に飯食った仲なら、僕たちも友達だよね」
源にはいずれ連絡を入れておこうと心の中にメモを取り、僕は卓上に置かれた揚げたてのポテトを一つ齧る。
僕の言葉に一瞬戸惑った様子だったが、赤城もポテトを齧って咀嚼、やがて穏やかに笑顔を浮かべた。
「友達……そっか、俺たち友達でいいんだ……」
感極まった様子で頬を緩ませ、破顔した。
「お、俺……男の友達が出来たのって初めてだよ」
途端、なにやら聞き捨てならない言葉を耳にした気がする。
「それは、どういう……?」
僕は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「え、ああ、俺って女の子の友達はいるんだけど、男友達ってあんまり……というか全然いなかったから」
照れ臭そうに頭を掻きながらそう言う彼に僕は呆れるでもなく腑に落ちた。
さっきも思ったがコイツ、顔はいいんだ。なのに友達が少ないと言う。
その原因は彼が言う女友達が原因だろうよ。
恐らく、コイツは友達だと思っているのだろうが、その女たちのほとんどは友達ではなく彼女という立場につきたいがために近づいてきただけだ。
イケメンの彼氏持ちの私というステータスを得るために。
そして、他の男どもはそんな、女にめちゃくちゃモテる赤城を妬んで離れていったのだろう。
まあ、それ以外にも理由はあったにしても今の俺には主な要因としてはこれ以上考えられない。
いや、推測である以上、絶対そうだとはいえないのだが。
「あの……ごめん」
なぜか、赤城は僕へと頭を下げた。
なぜ?
僕は謎の事態に首をかしげる。
「えーと、どうした?」
「お、俺……なんか悪いことでもしたのかと思って」
ビクビクおずおずと口を開いた彼は怯えた様子だった。
僕が黙って考え込んでしまったのを何かと勘違いしたのだろう。
肝心のそれが何か、というのは僕にも分からないが、いいことではないのは確かだ。
「や、別にそんなことないよ! 大丈夫大丈夫!」
僕は慌てて言葉を返す。
せっかくできた友達だ、そう簡単に嫌いになるはずもない。
「よ、よかった……」
ホッと安堵の息を吐いた彼に僕はズキリと胸を痛めた。
僕には彼に寄ってくる女たちが悪いなんていうつもりは毛頭ない。
いい男と付き合いたい。イケメンと彼氏彼女の関係になりたいと考えるのは人である以上当然の欲求である。
だが、当人の知らぬ間に何か悪いことをしたわけでもないのに、いつのまにか嫌われているというのは、いくらなんでも可哀想すぎるだろ。
不憫すぎる赤城のことを思うと、無性にそう思うんだ。
――ああ、僕の心の訴えは、一体どこの誰に向ければいいのだろうか。
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