新たな能力と検証

 翌日。

 昨日購入した装備――特に槍の性能がどの程度のものかどうしても気になった僕はダンジョン三階層にて検証を行っていた。


 結果、調子は良好。

 この槍、パルチザンも昨日まで使っていた槍より頑丈かつ鋭いものだということは分かった。


 鎧の方はといえば、ろくに攻撃を受けないものだから検証も何もあったものじゃない。


 そして、白月さんの方は特に代わりはないようであった。


 そもそも、彼女の攻撃手段は魔術であって近接戦闘なんて滅多にない。

 そのため、昨日購入していた短剣はまだ一度も使用されていない。

 それに加えて、魔物が白月さんのいる後方まで接近することはない、といってもいいほどなので新調した皮鎧も意味をなしていなかった。


「それにしても、装備を変えただけでここまで楽になるとは思っていなかったな」


 前使っていた槍では完全に貫くことが出来なかった魔物の装甲もこの槍だといとも簡単に貫通させてしまえる。

 それはやはり、穂先に使われている材質のせいもあるのかもしれない。

 たしか、あの人――健吾さんはいっていたな。

 この槍はダンジョンで手に入れた特殊な鉱石を使って作られた、と。


「そうですね、柊木さんはそうなんでしょうねぇ。私は何も変わったことなんてありませんけど」


 少しむくれる彼女に僕は笑みをこぼした。


「じゃあ、白月さん前衛やってみる? 新しい短剣も活躍出来ると思うよ?」


 僕がからかうようにそう進言すると、彼女は「ええっ!」と驚愕と焦りが混同した声を漏らした。


「や、やめておきます……」

「そっか」


 自分が前衛で動くことは無理だということはきちんと理解しているのだろう。

 彼女は途端に言葉を弱めた。

 同時に、僕もこれ以上の意地悪はやめておく。


「あの、そういえば柊木さん」

「ん……?」


 話題を変え、白月さんは僕に話を振る。


「水熊の魔石は結局どうしたんですか?」

「ああ、あれはもう使ったよ。でも、そういえば新装備に浮かれててコッチの方は一度も試していなかったな……」


 そう呟いて、少し先から魔物の派手な足音が近づいてくるのを察知した。


「いいタイミングだ。新しい能力も試してみることにしようか」


 さて、対象が現れた。


 半人半狼の魔物――ライカンスロープだ。

 体中が毛だらけで、顔は狼。

 二足歩行であり、鋭い爪と牙を武器とする。


 満月の日に限り、その身体能力は倍以上に跳ね上がるらしいが、まだ僕はその状態で遭遇したことはない。

 そして、今日も満月ではないため心配は不要だ。

 もう既に何度か戦ったことはあるし、スキルなんて使わなくても討伐可能だということも分かっている。


 ライカンスロープは喉を鳴らして威嚇するが、僕は構えない。


 槍を構える必要すらないからだ。

 そんな僕の様子に苛立ちを見せるライカンスロープ。

 ついに我慢が限界を超えたのか、勢いよく地面を蹴った。


 その獣面が迫り、その距離はわずか数メートル。


「――“放水”」


 僕は余裕の笑みを貼り付けて、ポツリと呟いた。

 それを合図にして、何もないはずの空間からレーザー状に水が放出される。


 一度にライカンスロープの体を貫通出来るだけの殺傷能力はないが、それでも勢いよく接近するそいつを元の場所まで吹き飛ばしてやれるだけの威力はあった。


 不意をつかれたライカンスロープは頭から地面に転がり落ち、そのまま壁に衝突した。


 あまりに呆気なく吹き飛んだので、なにかの罠か? と疑ってみたが、なかなか起き上がらないのを見て確認してみると、死んでこそいなかったものの、頭を打ったショックで気を失っているようだった。


 このまま生かしていてもろくなことにはならないので、サッサと槍で心臓を突き刺してその命を終わらせる。


 もう一つの水熊から手に入れた能力――“水纏体”も試してはみたが、こちらは名前通り体中に水を纏うだけの能力であり、戦闘には使いづらいものであった。


 実験、というか検証は一通り終了した。


 チラ、と腕時計に目を向ければ、時針は既に六時を回っていた。


 体感では二、三時間程度に感じていたのだが、時間というのはいつのまにか過ぎているものだ。

 まだ色々と物足りない感じはあるが、これ以上遅くなるのはまずい。

 帰りの時間も考えなければいけないのだから。


「丁度いい時間だし、そろそろ戻ろうか」


 僕は白月さんに声をかける。


「あ、はい!」


 数時間は歩きっぱなしにもかかわらず元気のいい声。

 その声を最後に僕たちは帰路についた。

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