新装備購入
扉を開いた先には優に百は超えるだろう数多の武器が陳列されていた。
「すごっ……」
僕は驚愕に目を剥いた。
これだけの数の武具を一度に見たのは初めて。
感嘆の声は無意識に漏れ出ていた。
「すげぇだろ?」
「え、ええ、はい」
俺のリアクションにこの店の主人である男もご満悦な様子であり、フフンと鼻を鳴らしては大きく胸を張った。
好奇心を抑えられなくなった僕は近くに立て掛けられていた槍を手に取る。
いや、これは槍というか矛といったほうが正しいか。
やや幅広で剣状の刃を持つ長柄武器。
刺突による攻撃よりも斬撃による攻撃を主とした物だったはず。
そして、レベルアップのお陰か、そこまでの重さは感じない。
羽のように軽々とまではいかないが、それでも片手だけでも充分に扱えるようにはなっている。
自身の目に見える成長に僕も頬が綻ぶ。
「ふむ……お前さんはたしか、三階層以降でも使える武器が欲しいんだろう? それなら、その矛じゃあちと厳しいぞ」
男は腕を組み、室内を見渡す。
「これなんか、どうだ」
そう言って渡されたのは先ほどの矛同様に幅広の両刃で、三角形の穂先。さらに左右対称に小さな突起が付いた槍。
「パルチザンっていう槍でな、斬ってよし突いてよしの良い武器だ。刃の部分に重量が集中してあるから特に斬撃に関しては高性能だぞ。それに、構造がシンプルだから扱いやすい」
僕は言われるがままにパルチザンというらしいそれを手に持つ。
今度はズシリと僕の手に重くのしかかる感覚があった。
さっきあの矛を持った時はここまでじゃなかったのに……。
僕の不思議そうな表情に気づいたのか、男はニヤリと口角を上げた。
「重いだろう? その槍はな、ダンジョンで手に入れた特殊な鉱石を使って作り上げたんだ」
そう語る彼はどこか誇らしげであった。
「ダンジョン五階層で出てくるモンスターからのドロップらしいんだが、供給量はあまり多くないのが難点なんだ」
へぇ、と僕は相槌をうつが、ぶっちゃけ聞いていなかった。
「これ、いいな……」
そう呟いた僕だったが、値段を聞いて驚いた。
「これか、これは……そうだな、二十万ってとこか?」
「えっ……二十万円ですか!?」
と。
うーん、どうしようか。
そう悩んでいると僕たちが入ってきた扉が開かれた。
入ってきたのは白月さんとさっきの少女。
「柊木さん、決まりましたか?」
そう僕に問いかける彼女の着る皮鎧は僕同様に少しばかりの変容が見られた。
「白月さんの方は決まったんだね」
「はい。茜さんにいろいろと教えてもらって決めました」
よく見れば、短剣の方も新品になっている。
「茜さん……?」
僕は聞き慣れないその名前に首をかしげる。
「ああ、私です」
僕の疑問に答えるように白月さんの後ろから現れた。
さっきの少女――ここの店主の娘だ。
彼女の名前が茜、というらしい。
「藤田茜っていいます。よろしく! あー、それと、多分お父さん自己紹介とかしてないだろうから、私から教えておきますね。あの人は藤田健吾。もともと、刀鍛冶をやってたんだけど、先月くらいからここで武具店を開いているんです」
勢いよく捲し立て、僕は若干後ずさる。
丁寧ながらも元気のいい、接客業に向いた性格をしているように思う。が、コミュ力が高すぎてその存在が僕には眩しすぎる。
「おい茜、邪魔すんじゃねぇ……そんで兄ちゃん、どうすんだい? 買うのか、買わないのか」
その男――健吾さんは眉間に皺を寄せ、僕に問う。
しかし、僕としても悩ましい限り。
本音を言うのなら買いたい。
でも、お金が……。
そう、悩んでいると。
「買えばいいじゃないですか」
白月さんが口を開いた。
なんでもないように、あっさりと。
「いや、でも二十万円だよ?」
「そのくらいは想定していました。大丈夫、お金は下ろしてきていますから。百万ほど」
「ひゃっ……!?」
僕は驚きのあまり言葉を詰まらせた。
百万、というのは探索者になって稼いできたお金のほぼ大半である。
「今よりもダンジョン上階に行けばこのくらいのお金はすぐに回収出来るようになります。だから、今はお金の心配なんてしないで選んでください」
僕には、そう、ニコリと笑いながら話す彼女の背後に後光がさしているように見えた。
「お買い上げありがとうございます!」
僕が槍――正確にはパルチザンというらしい――を受け取り、白月さんが代金を支払う。
正式に購入となったところで茜さんは満面の笑みで僕たちを見送ってくれた。
そして、今回僕たちが使ったお金は合計で五十万円を軽く超えた、ということだけはここに記載しておく。
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