臨時収入
「おまたせしました」
あれから、十分。
ようやっと手続きが完了し、ライセンスには今まで空欄だったパーティネームが刻まれていた。
「おぉ……」
受け取ったライセンスをまじまじと見つめ、僕らは感慨深く嘆息を吐いた。
「これで、柊木さんたちのパーティは『ヒイラギ』という名前で登録されました。今後、パーティ単位で呼ばれる時はその名前が使われることになります」
立花さんは完全に仕事モードに入り、受付嬢としての職務を完璧にこなす。
僕らもそれにつられて敬語になる。
「はい」と返事をすると立花さんはニッコリ笑顔を貼り付けた顔で話を続ける。
「それと、何か問題を起こした時はパーティリーダーの責任になるので、覚えておいて下さい」
「え……あ、はい」
何それ怖いんだけど。
問題ってなんだよ、どんな責任とんなきゃいけないの? 最悪捕まったりとかするの?
途端湧き出した不安を体の内に押し込んで返答すると、パーティについての話は終わったようであった。
「そういえば」
一旦話の区切りがついたところで、立花さんにまだ用事があったのを思い出した。
「フロアボスのドロップ品を持ってきたんですけど、今って買い取ってもらえますか?」
「ええはい、問題ありませんよ」
僕は持ってきていたバッグの中から、魔石、角、そして王冠を取り出した。
魔石は戦力強化に使おうとも思ったが、所詮は黒ゴブリンの下位互換になる、と思い直して売却することにした。
それ以外の二つは僕では使い道が思いつかなかったので売却。
さて、これでいくらになるのか……。
期待を膨らませながらカウンターの上に置かれたトレーにそれら三つを丁寧に乗せる。
「では、お預かりします」
それを預かる立花さんの手つきは今までよりも慎重に見えるのは、いつも扱っているドロップ品よりも明らかに高価であるからだろう。
今回は質こそいつもより上ではあるが、数は少ないというのもあって鑑定は素早く終わった。
「こちらが買い取り金額になります。お確かめ下さい」
そう言って手渡されたのは軽く十枚は超える諭吉さんと一枚の樋口さん。
それから二枚の野口さん。
震える手で一枚一枚数えていくと、その総額は十六万と七千円。
一度に稼いだ額としては頭一つ飛び抜けている。
明細書に目を通すと、魔石が五千円。
角は一万と二千円。
そして金の王冠、これが一番の高値で、十五万円。
「王冠はレアドロップですね。あそこのフロアボスからこれが出るのは結構稀なんですよ?」
とは立花さんの談で、毎回ドロップする王冠は質が違うらしい。
なんでも、僕が今回手に入れた王冠は比較的傷が少ない方だった為、あの値段で買い取ってくれたのだとか。
昨日の稼ぎも加えると大分懐が暖かくなった。
これなら、しばらくは少しくらい贅沢な暮らしが出来ることだろう。
毎食外で食べたとしても損傷はない。
探索後の自炊は正直キツかったから、それもいいかもしれない。
僕がお金を懐に仕舞うと羨ましそうな横からの視線に気がついた。
そういえば、白月さんはお金を貯めるために探索者になったんだっけな……。
「ねえ、白月さん。今日、この後は暇?」
僕は白月さんのことをあまり知らない。
知っていることと言えば、水穂さんに聞いたことくらいなもの。
だから今日、この機会に少しでも話をしたい。
「暇だったらさ、一緒にご飯にでも行かない? 色々と話したいことがあるんだけど」
「えっと……私は別にいいですけど」
白月さんも何が決め手になったのかは分からないが、前までのトゲトゲしさは緩和せれてまともに話せるようになった。
そのおかげで、僕もなんの気兼ねもなく食事に誘えたというものだ。
白月さんからの了承を得た僕は小さくガッツポーズをつくった。
やはり、可愛い女の子と食事が出来るというだけで舞い上がってしまうのは男の性であり、僕もその例にもれない。
「でも私、今はあんまりお金が……」
申し訳なさそうに、彼女は自分の懐の寂しさを語る。
昨日の稼ぎがあるはずだが、それはどうしたのだろうか。
尋ねてみると、ほとんどは家を買い戻す為の資金に当てているのだそう。
それなら僕が払おうかと話を持ちかけたが、そんなことで借りを作りたくない、と断られてしまった。
白月さんも多少は手元に残してあるらしく、ご飯を食べにいくならサイゼが限界ということで、僕らは立花さんに別れを告げると二人でギルドを出た。
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