ファミリーレストラン
サイゼリヤ。
安い、早い、美味いを売りにしたイタリアンファミリーレストランだ。
懐事情が寂しい学生がよく使うお店として有名であるのだが、今回僕たちは、というか白月さんがお金がないということでこの店に訪れていた。
そこまで時間は経っていないと思っていたのだが、近場の店に着く頃には時刻は十二時の少し前といったところ。ちょうど飯時だ。
グゥッと腹の虫を鳴らし、赤面する白月さんに気づかないフリをしながら扉を開く。
「いらっしゃいませ〜!」
元気のいい女性店員の声がよく通る。
さっきも言った通り、飯時である為か客は多く、少ない店員が忙しなく動き回っていた。
クーラーはよく効いているが店員さんたちの額には珠のような汗が浮き出ている。
店内を見渡せば、客のほとんどは半袖で、それがまた夏を思わせる。
僕らも炎天下の中歩いてここまで来たわけで、服の下は汗で濡れていた。
服をパタパタとさせて、熱を逃がす。こうすることで店内の涼しい空気が僕らの体を適度に冷やしてくれる。
「気持ちぃ」
二人して涼んでいると、やっと手が空いたのか、一人の店員が僕らの前に現れた。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「二人で」
「はい、ではこちらへどうぞ!」
僕らの対応に回ってくれたのは十代後半から二十歳くらいの女性だった。
美人、というほどではないが、愛嬌のある笑顔が魅力的だ。
先導する彼女に従って僕らは席に着く。
「注文が決まりましたらお呼びください!」
それだけ言って店員さんは去っていった。
当然だ。ただでさえ忙しいのだからいつまでも僕らに付きっ切りというわけにもいかない。
「さて、白月さんは何にする?」
僕は席に着くなりメニュー表を開いた。
イタリアンとしては定番のビザやパスタはもちろんのこと、ハンバーグやステーキ、グリル等の肉料理が並ぶ。
そんな中で、このサイゼリヤに来たからにはドリア、それもミラノ風ドリアは絶対だ。
僕は自分の中で頼むメニューは決定していた。
あとは白月さんだが、どうやらまだ悩んでいるようでメニュー表をすごい剣幕で睨みつけている。
「うーん……ちょっと待って下さいね」
どれにしようかな……と悩む彼女を見て、僕は密やかに頬を緩める。
出会った当初は凍るような冷たい目で見られていたのが、今ではこうして素の彼女を見せてくれている。
それが、どうしようもなく嬉しいと感じたのだ。
「これにしようかな」
白月さんもついにメニューが決まったようである。
僕はそれを確認すると、傍らにおかれた呼び出しボタンをポチッと押す。
店員さんは十秒と経たない内に現れた。
「ご注文はお決まりでしょうか!」
さっきとは違う店員さんだ。元気がよく、清潔感の滲みでる男性店員。やはり彼も少しばかり体は汗ばんでいるようであった。
「はい、えっと……僕はミラノ風ドリアと辛味チキン、あとはイタリアンサラダとドリンクバーを。白月さんは?」
「私は、このアーリオ・オーリオ? っていうパスタと、エスカルゴとドリンクバーでお願いします」
「かしこまりました!」
元気よく、それだけいうと店員さんは去っていく。爽やかなスマイルがよく似合う青年だった。
それにしても――
「よかったの? 結構頼んだみたいだったけど……」
「え、はい。一応千円くらいは持っているので。それに普段は外食なんて滅多にしないですから、今日くらいはって思いまして」
「そっか……」
会話が途絶えた……思い返せば、何を話すかなんて考えてもいなかった。
僕は自身の無能さを悔いた。そのくらい考えておけよ、気が回らないな、と。
「――あのっ!」
静まり返ったこの小さな空間で、突発的に発せられた彼女の言葉は僕の耳によく届いた。
「柊木さんは……なんで、探索者になろうと思ったんですか?」
急な質問にビックリはしたものの沈黙を破るのにはいい機会だ。
そうだな、なんで……なんで、か。
「しいて言うなら、好奇心。まあ、あとはお金かな」
田舎の両親から仕送りはあるものの、額としては到底満足できるものではない。
最初はバイトでもして稼ごう、と思っていたけれど、それ以上に稼げる探索者という職を見つけた。
ならば、それを避けて通る必要はないだろう。
僕と似た考えで探索者になろうとしたものは少なくないはずだ。それで、試験に受かったか受かってないかは別物だが。
「そうですか……私は、お金を稼ぐためです。それも、大金を。短期間で」
私の話、聞いてくれますか? そう尋ねた時の彼女の眼光は鋭く、そして真剣味を帯びたものであった。
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