パーティネーム(2)
立花さんから受け取った紙にはいくつかのパーティネームが羅列していた。
見たところ全部で十と少し程度。
例を挙げるなら、『愚連隊』『灰色猫』『チョビヒゲ騎士団』なんてのがあるかな。
その他にもネタかな? ってくらいにはふざけてる名前とか、後は僕が危惧していた厨二全開のパーティネームもいくつか見られた。
中でも一番痛々しいのは『聖剣勇者団』とかいう奴らだ。
構成人数は四人。
何をもってこの名前にしたのか、よく分からないが聖剣なんてもの持っているはずもないだろうし、勇者の要素もどこにあるのやら。
上三つはまだしも、『聖剣勇者団』は流石に嫌だな。
この名前で呼ばれると思ったら寒気さえ感じてくる。
「『聖剣勇者団』ってカッコよくないですか?」
「え……?」
横から見ていた白月さんが、そう僕に向けて言い放った。
僕はしばらく呆気にとられていたが、あぁ、そういえば白月さんも変な感性を持っているんだった、と思い出した。
まさか、これがカッコいいだなんて思うとは……ますます任せられなくなってきた。
やっぱり自分で決めるしかないか。
とはいえ、どんな名前にするのか、指針すら決まっていないのが現状だ。
どうしたものか、と頭を悩ませてとりあえず思い至ったのは自分たちの特徴を書き出してみることだった。
自分たちの特徴。
例えば、武器。
僕は主に槍を使うし、白月さんは魔術、それも氷魔術を使用して戦う。
これを名付けに使うのもいいだろう。
つけるなら、どんな名前にするべきだろう。
覚えやすく、呼ばれて恥ずかしくない、親しみやすい名前。
「うーん……」
ここまで考えても、やっぱりそう簡単には出てこない。
他のパーティネームを参考にしようにも、個性の強いものが多くて使いづらい。
「あの……『ヒイラギ』って名前はどうですか?」
さっきから拗ねたようにスマホをいじり始めていた白月さんが口を開いた。
思ったよりも普通な名前だ。
ただ、僕の苗字と同じって言うのが気になる。
何か訳があるんだろうか。
そんなことを思っていると、まるで僕の心の声でも聞こえているんじゃないかってくらい良いタイミングで説明が加わる。
「柊木さんの苗字って言うのもあるんですけど、ヒイラギの花は冬、特にクリスマスなんかによく見られるんです。私の名前が冬華なので丁度いいんじゃないかなって……思ったんですけど、どうですか?」
予想していたよりも遥かに考えられていた。
どうせ安直な考えだろう、そう思って聞いていたが、そうではなかった。
さっきのは拗ねてスマホをいじっているのではなく、自分なりに考えて色々と調べていたのだろう。
僕はさっきの僕自身を恥じた。
「うん、良いと思うよ」
これなら僕は文句はない。
むしろピッタリとも言える。
白月さんのネーミングセンスは微妙だと思っていたけど、考えを改める必要があるかもしれない。
「じゃあパーティ名は『ヒイラギ』で決まりだね。それじゃあ次は――」
「リーダーなら、柊木さんでいいんじゃないですか?」
僕の言葉は白月さんに被せられて勢いを失った。
「え……なんで?」
自分で言うのもなんだが、僕はリーダーに向いているとは思えない。
高校時代は教室の端っこで仲のいい友達数人とつるんでるだけで他とは繋がりがないような陰キャだったし、白月さんがリーダーでもいいんじゃないか。
そう、話してへみたが、彼女はむしろそれ以外あり得ないといった感じで首を傾げている。
「私は最初から柊木さんがリーダーをやるんだって勝手に思ってましたけど。それに、パーティ名が『ヒイラギ』ですし、ここは柊木さんがリーダーになった方が色々と都合がいいと思いますよ。私がリーダーをやるとややこしいでしょう?」
そう言われてみれば、たしかにそうかもしれない。
けど、僕に、僕なんかにできるだろうか。
「決まりましたか?」
苦悩する僕を他所にタイミングを見計らったかのように立花さんが現れた。
その顔には薄く笑みが浮かべられていた。
「ええ、まあ」
僕は渋々ながら書類に一通り書き入れていき、空欄だったパーティネーム、リーダーの欄を埋めた。
「これで、お願いします」
「『ヒイラギ』ですか……うん、いい名前ですね。私は好きですよ」
なんのフォローなのだろうか、ニッコリとした笑顔を向けられたあと、そう告げられた。
「では、これで手続きさせていただきますので、お二人のライセンスをお借りします」
書類に続き、ライセンスの提出を要求された。
まあ、これは調べていたので分かっていた。
焦ることはなく、財布の中に収納してあったライセンスを取り出し、立花さんに預ける。
白月さんも同じようにライセンスを手渡すと、立花さんは受付まで戻っていった。
後は数分もすれば手続き完了。
今日の用事は一まずなくなる訳だ。
探索も休みになっていることだし、この後はどうしようか。
僕はこの後の予定を考え始めた。
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