パーティネーム
時が過ぎ、現時刻は八時。
ギルド会館前で僕は黄昏ていた。
ちなみにパーティ名は大したものは思い浮かばなかった。
どうやっても厨二病感の拭えない名前になってしまうのだ。
こうなってはもう、白月さんを頼るしかないだろう。
そして、その白月さんはというとまだ来ていない。
もうすぐ来るとは思うのだが、雲ひとつない快晴のもと炎天下で待たされている僕は汗だくだ。
今日は探索はしない休養日にしよう、とのことで短パンにシャツ一枚という格好ではあるものの体じゅうから汗が滲み出てはシャツが肌に張り付き、大変うざったい。
まだかまだか、とウンザリしていると横から声をかけられた。
「すいません、遅れましたっ!」
少し焦ったような声色の女性の声。
最近になって聞き慣れたその声に僕は反応して体を向ける。
白月さんだ。
彼女はハァハァと息を切らし、手は膝に、呼吸は肩で行なっていた。
また、探索はしない、ということもあってか彼女はいつものジャージに皮鎧などの色気のない武骨なものではなく、可愛らしい、かつ夏を意識した服装となっていた。
いや、この場合服が可愛いのではなく、素材が良いために可愛く見えるのかもしれない。
丈が短めの無地の白シャツにショートパンツ、後はちょっとしたワンポイントだけで可愛らしさが出ている印象だ。
非常にシンプルでありながら彼女自身の魅力が十全に引き出せているように感じられた。
それに加えて、体を滴る汗とチラリと見える肌色成分がなんとも言えない妖艶さを醸し出している。
そんなこともあって、一瞬、ほんの一瞬だけ、見惚れてしまっていた。
彼女の言葉に遅れて返事をするものの、若干吃ってしまった感は否めない。
僕はそれを誤魔化すようにギルドに入っていく。
白月さんもすぐに僕に続いてギルドに入る。
その瞬間、熱のこもった僕らの体を人工的な冷気が癒す。
「ハアァ……いい」
よく効いた冷房に思わず息が漏れる。
横を見れば白月さんも体全体で冷気を受け止めて目を細めていた。
まあ、そんなこんながあって、僕らはギルド会館内に設置された共有スペースに訪れた。
ここは、言ってしまえばダンジョンに行く前や、探索終了後に探索者たちがダベったりする場所だ。
椅子から机、簡単な筆記用具やらも設置されていて、自販機もある。
流石に自販機はお金を出さなければ買えない仕組みだが、快適な場所といえる。
そして、今回僕たちが解決しなければいけない問題がパーティネーム。
これに尽きる。
メンバーの名前はすでに記入済み。
リーダーなんかは別にどっちでもいい。
ただ、パーティの名前だけはそう安易には決められない。
ギルドにて、パーティ単位での呼び出しだってあるだろう。
その時、例えばゴリゴリに痛い名前だとしたら周りからの嘲笑や可哀想な目、生暖かい視線に晒されるということだ。
そんなもの、耐えられる気がしない。
故に、真剣に考えなければいけないのだ。
だから――
「『ブリザードドラゴンズ』だけは嫌だっ!」
「なっ!? なんでですかっ! いいじゃないですか、カッコよくて!!」
いや、ダサイよ!
彼女は本気でカッコいいと思っているようで、目をキラキラさせながら提案してきたときは正気か? と疑ったほどだ。
どうやら、白月さんはネーミングセンスが壊滅しているようだ。
「じゃ、じゃあこれはどうですか!」
ドン、と机の上に出されたのは一枚の紙。
そこに書かれていたのは――
『ツインホワイト』
「却下!」
「なんでですか!」
「いや、なんでも何も、単純にダサいから」
キッパリと言い切った僕に白月さんはショックを受けた様子。
でも、仕方がないんだ。
ここはハッキリ言っておかないと。
『ブリザードドラゴンズ』も『ツインホワイト』もいやだ。
何故かって?
いや、だってダサいだろ?
そんな名前で呼ばれたくない。
「じゃあ柊木さんは何か案、無いんですか?」
それを言われると僕も押し黙るしか無い。
なにせ、丁度いい名前なんてそうそう浮かんでこないものだからね。
そうやって二人で頭を悩ませていると、背後から気配を察知した。
「おはようございます」
立花さんだな。
振り返らずとも声で分かった。
「まだ、悩んでいるみたいですね」
「はい。まあ……」
僕らの前に並べられたいくつかの紙切れ――白月さんの出したボツアイデア――を見て察したのだろう。
朗らかな笑みを浮かべて、一枚の紙を渡された。
「これは?」
「今、この支部で登録されているパーティ名の一覧です。ネットで調べればすぐに出てきますけど、良かったら使って下さい」
一筋の光明が見えた。
――立花さん、貴女が神かっ!
僕は深々と頭を下げてその紙を受け取った。
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