買取金額

「お待たせしました」


 そう、声をかけられて僕と白月さんは揃って顔を上げる。

 若干引き攣ったような顔で立花さんは買取明細書とお金をトレーに乗せて前に出す。


「こちらが今回の買取金額となります。お確かめ下さい」


 そう言って差し出されたトレーの上には一枚の紙切れと一緒に数枚のお札と小銭がいくつか。


 手にとって確かめてみるとその総額は軽く八万円を超えていた。

 一階層でチマチマと稼いでいた時の単純計算で八倍だ。

 これなら二人で等分したとしても一人頭四万円。


 そこらへんで一日中バイトをするよりも遥かに稼げている。

 僕と白月さんはホクホク顔で報酬金を受け取った。


「さて、じゃあ帰ろうか」


 そう、話していると、立花さんが待ったをかけた。


「フロアボスのドロップ品はどうするんですか? まだ、売ってないんですよね?」


 何か用事でもあるのか、と振り返ると尋ねられた。


「ん、ああ、あれは家にあるので明日持ってきますよ」


 フロアボスであるあのゴブリンからのドロップは魔石は勿論として角とそして金の王冠。


 魔石と角はまだしも王冠なんてものを持ちながら戦うのは流石に無理。

 邪魔すぎて動きを阻害される、というのもあったので家に置いてきたのだ。


 そう返すと、立花さんは納得して受付カウンターまで戻っていった。


「パーティ名とか、諸々は明日考えよう。今日はもう疲れた」


 僕はパーティ申請用にと渡された書類をヒラヒラと扇ぎながら分配した報酬金を最近になって新調した長サイフに納める。


 暖かくなった懐にニンマリと笑みを浮かべ、今日の夕飯はちょっと奮発しようかな、なんて考えていると、白月さんに呼び止められた。


 頭上に疑問符を浮かべて、立ち止まり、振り向く。


「あの……今日はありがとうございました。それと明日もよろしくお願いします。それでは」


 視線は地面を向き、声は少し震えていた。よくよく見れば顔も少しばり紅潮しているのがわかる。

 でも、それは真剣な言葉であるという証明でもあった。


 それだけを言い残して足早に去っていく彼女に思わず僕は頬を緩ませる。


 案外、可愛いところもあるんだな、と。

 まあ、外見だけで言えば勿論可愛いのだが、性格がアレだったからな。


 普通の人なら敬遠するだろう。

 でも、いつもあれくらい可愛げがあるのなら人付き合いにも困らないはずだ。


 僕は既に姿が見えなくなった白月さんに続いてギルドを後にした。


 ◆


 翌日。

 けたたましいアラーム音で強制的に目が覚めた。


「うるっさい……」


 呻くように文句を漏らしながら、薄く目を開く。

 未だに重い瞼を持ち上げて目覚ましを切ると、洗面台で顔を洗う。


 ふと、携帯を覗き込めば時刻はまだ早朝、六時前。


「結構早く起きたな」


 サッパリとした顔でカーテンを開けば、空は雲ひとつない快晴。

 陽の光が差し込み、一気に眠気は吹っ飛んだ。


 そして何気なく、もはや体の一部として溶け込んだともいえるスマホを手に取る。

 その時、着信音が鳴り響きメールが届いたのを知らされた。


「誰だ、こんな朝早くに?」


 スマホのホーム画面からメールのアプリまで飛ぶと、差出人の欄には白月冬華とあった。


「は?」


 僕は水穂さんにこそメアドを教えたが、白月さんには――ってそうか、水穂さんに教えてもらったのか……。


 なるほどね、と納得すると次は内容が気になり始めた。

 こんな時間から僕に知らせたいこととはなんだろうか、と。


 ワンクリックでメールを開き、ザッと目を通す。


『おはようございます。朝早くに申し訳ございません。本日の集合時間、場所など指定をしていませんでしたので、希望がありましたら返信お願いいたします』


「うん、なるほど」


 固い、固いよ。

 学生の、それも同い年に送るメールじゃないでしょ。


 僕は暗に文体が固すぎるというニュアンスを含んだ分で集合時間や場所の希望も盛り込んでメールを返す。

 後はパーティ名やらリーダーをどっちにするかも決めておこう、ということも追加で記載しておく。


 それからメールは五分もしない内に返ってきた。

 予想を覆す速さだ。

 もう少しくらいは遅れるものだと思っていたが、もしや僕の方が変なのかもしれない。

 これが交友関係の浅さが招く障害か……。


 そういや、友人も源以来一人もできてないんじゃないか……と肩を落とした。


 まあ、それは置いておくとして、集合は今から二時間後の八時にギルド会館前、ということになった。

 その時に、ギルドの中でパーティ名やらは一緒に決めることになったのだが、一応候補としてお互いにいくつか考えて来るように、との言われた。


「そんなもん、どうすりゃいいんだよ」


 変に厨二感溢れる名前だと嫌な意味で目立つだろうし、だからといって地味すぎると注目されない。


 僕はひとり、自室でスマホ片手に頭を抱えた。

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