売却
本日、二階層の探索は午前十時頃から始まり午後四時頃までの約六時間続いた。
初めてのダンジョン二階層ということもあって無駄にテンションが上がって魔物狩りに夢中になってしまった。
本当はもっと早い時間に切り上げるはずだったのだが、途中から楽しくなって切り上げ時を見失ってしまったのだ。
僕たちは現在、本日の探索成果であるドロップ品の換金を行おうと、ギルド会館前まで訪れていた。
パンパンに膨れ上がったバッグを担ぎ、僕と白月さんは意気揚々と扉を開く。
ギルド内には僕たちと同様にダンジョン帰りでドロップ品の換金をしに来た数組の探索者たちがいた。
どの探索者たちも武器防具で身を固めた物騒な身なりである。
まあ、それは僕たちも同じわけだが、数ヶ月も前なら信じられない光景だ。
そして、今だからこそ、目を凝らせばわかることもある。
このギルド会館内にいる探索者。
その中の一組だけ、明らかにレベルが違う者たちが混ざっている。
恐らくは、ギルドを警備している自衛隊員か、もしくは警察官のみで組織された探索者パーティだ。
一見ただ仲間内で騒いでいるだけに見えるが、その実周囲の動きを逐一観察している。
しかも、ほとんどの人に感づかれていない、というのがプロの仕事だ。
探索者ってのはレベルが上がれば力も自動的に上がっていくものだし、そういう人たちが暴れた時に制圧するにはそれなりに高レベルじゃないといけないわけだ。
そうなれば、ダンジョンの前線で活躍している自衛隊員やら警察官やらが警備に出張ってくるのも当然か。
けど、それに気づいたとして別段声をかけようとも思わない。
僕は何にも気づいていない風を装って受付へ向かう。
その先にはもはやお馴染みの受付嬢、立花さんがいる。
「あっ奏さん、今日は随分と遅かったですね……」
ニコリと朗らかな笑みを見せながら振り向く立花さんだったが、僕の隣に立つ白月さんに視線を送ると途端にその笑みは驚愕へと変わった。
「もしかして……彼女さんですかっ!?」
「いや、そんなわけないでしょ!!」
口に手を添えて目を見開く立花さんに僕は渾身のツッコミを入れる。
「まあ、そうですよね。分かってました」
何の悪びれもなく、口元を隠しながらふふっと笑う。
少しばかりイラっとするものの、これくらいのことで一々怒るほど短気なつもりはない。
はぁ、と一度小さく溜息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
そんなことをしていると、立花さんが再び口を開いた。
「それで、そちらの方のお名前は?」
「ああ、彼女は白月さん。パーティを組むことになったんだ」
「えっと……白月冬華です。よろしくお願いします」
立花さんは「ふーん」と白月さんを一瞥すると同じように自身の名前を告げ、棚から一枚の書類を僕たちの前に差し出した。
「パーティを組むなら、書類申請が必要になります。これに、パーティ名、構成メンバーの名前、あとはパーティリーダーを決めてから記載してください」
提出は後日でもいい、というので一旦預かりじっくり考えることにした。
ちなみにだが、白月さんから正式にパーティを組むことについては了承を得ている。
換金はまだだが、明らかに一日に得られる報酬が多くなるだろうことが分かったからだろう。
そして、それが先日までとどれ程の差があるのか。
「じゃあ次は買取お願いします」
すぐに分かる。
「はい。ではこちらにライセンスと品の方をお願いします」
僕は営業用の口調に変わった彼女の声に従い、まずはライセンスを提出。
その後、本日の収穫物をカウンターにバッグごと乗せる。
僕と白月さんの二人分で相当な量があるが、さて、どれくらいになるのだろう。
二階層まで行ったというのもあって量でもそして質でも昨日までとは比較にならない。
僕たちは期待を込めた視線を送り、立花さんは淡々と作業を始める。
「は……え?」
と思いきや、驚愕の声を漏らして固まった。
「ど、どういうことです……奏さん、いつの間に二階層まで進んでたんですかっ!?」
ドロップ品を見るや否や、立花さんはシャウトした。
一階層ももう少しで終わる、とは前々から言っていたはずだが……そう話すと――
「いや、それはそうですけど、フロアボスはどうしたんですかですか!? アレを倒した後こんな量の魔物を倒すなんて有り得ませんよ!」
ああ、そういうことか。
僕は妙に納得した。
昨日、ボスを倒した後はすぐに白月さんを家まで送り届けてそのまま家に帰ってしまったものだからフロアボスの討伐報告やらボスから出たドロップ品の売却やら色々やってなかったんだ。
僕は諸々の説明を行い、買取を催促する。
流石に話しすぎた。
ダンジョン帰りの探索者が増え始め、これ以上は迷惑になりかねない。
「まあ、事情は分かりました。量が量なので少し時間を貰いますので、少しの間、椅子にかけてお待ち下さい」
僕と白月さんはギルド内の各所に設置された柔らかな椅子に腰掛けて数分の時を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます