共通点
獣が消えた先には小さな魔石の一つだけが残されていた。
「す、すみません。なんか、横取りするみたいになってしまって……」
僕と白月さんの間に微妙な空気が流れる。
僕は行き場をなくした殺気を霧散させ、構えを解く。
「い、いやいいよ。大丈夫。そ、それよりも、さっきの説明でもしておこうか!」
僕は焦りを隠すように早口に話題を切り替える。
それの心情を悟ってか、白月さんも引き攣った笑みを浮かべながら首肯で答える。
「えっと、さっきのは……まあ大体分かってるとは思うけど、スキルを使ったんだよ」
というか、それ以外に考えられないのだから当たり前なんだけどね。
アイテムを使おうにもあの時、僕は槍以外何も持っていなかったし、そもそも体を液体に変えるアイテムなんてもの、発見されたなんて話は聞いたことがない。
そこまで考えれば、スキルによるものだろうというのは自ずと分かってくる。
でも、そのスキルが一体全体どんな物なのか、というのは謎だろう。
「体が液体になるスキル……ですか?」
さっき使った“液体化”の能力だけを見て考察するとなると、そのまんま体を液状に変えるスキルとしか取れないはずだ。
現に白月さんもそう解釈したようである。
だがしかし、残念。
「いや、液体化の能力は僕の持っているスキルに内包された力の内の一つってだけなんだ。僕のスキルは【魔魂簒奪】って言ってね、僕が倒した魔物からドロップした魔石を食べることによって、その魔物が持っていた能力が使えるようになるっていう効果があるんだよ」
自信満々に、自慢するかのように僕は懇切丁寧に言葉を紡ぐ。
白月さんも【氷魔術】というレアな部類に入るスキルを保有しているが、それでも【魔魂簒奪】はそれを遥かに上回る希少度、そして有能性を誇る。
【魔魂簒奪】の効果を耳にした白月さんは信じられないものでも見たかのように目を丸くして硬直。
驚愕で染まった顔を僕に向け、叫んだ。
「そんなの、強すぎじゃないですかっ!? 明らかにおかしいでしょ! ズルですよ、ズルっ!!」
目を血走らせながら詰め寄り、胸ぐらでも掴んできそうな勢いで迫られて僕は無意識に一歩分、足が後退していた。
長めの黒髪な風で揺れると、フワッとフローラルな香りが鼻を通り抜け、ここで僕の思考は正常な思考状態へと戻る。
「そんな頭おかしいスキル、どうやって手に入れたんですか!?」
「まあまあ、落ち着いて白月さん」
どうやって、と言われてもこれに関しては偶然としか言い表せない。
「っていうか、白月さんだって【氷魔術】なんてスキル持ってるでしょ? そっちこそ、どうやって手に入れたのさ」
僕の反論に、白月さんは言葉を詰まらせる。
「そ、それは……偶然としか」
やはり、彼女もまた、僕と同じというわけか。
彼女の言葉から勢いが失はれる。
「本当に偶然、宝箱みたいなのを見つけて、その中に……一階層ではスキルカードは滅多に発見されないって言われていたので最初は驚きました」
「僕もそんな感じかな。ゴブリンに追いかけられた先に偶然小部屋があって、その中に宝箱があったから開いてみたらスキルカードが置いてあったんだよ」
成り行きで行った情報交換。
けれど、僕は互いの情報から共通するものを見つけた……まあ、これは聞けば誰でも分かることだろうけど。
白月さんだってこれには気づいているはず。
――宝箱。
基本的にスキルを手に入れるためのアイテム――スキルカードは低階層でのドロップ率は低い。
安定してスキルカードを手に入れられるのは十階層を超えたあたりから、という話を聞いたことがある。
だが、それは魔物からドロップするスキルカードについてだ。
宝箱、というのは稀にダンジョン内のどこかに気まぐれに現れては誰かがその中身を取るといつのまにか宝箱は消えている、らしい。
そして、それによって僕ら二人はスキルを手に入れた。
何という強運なのだろうか。
これだけでも残りの人生で使う運の大半を使ってしまったかも知れない。
けど、そこな後悔はない。
この、【魔魂簒奪】のスキルがあれば何でも出来る気さえするのだから。
僕が探索者になったのは己の好奇心を満たすためだ。
ただそれだけ。
そのはずだった。
でも、偶然とはいえ、こんなにも希少なスキルを手に入れて、強くなるために努力して、死ぬかもしれない危険な冒険を繰り返して……僕はいつからかこんなことを考えるようになっていた。
――一番に、最強になりたい、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます