新スキル

 軽くて飯を食べて腹を膨らませた後、僕たちは冬華の家へ出向くことになった。


 これは、冬華からの誘いだった。

 もともと、特別報酬として貰い受けたスキルカードについての話をしようとしていたのだが、それは周りに人がいない場所で話すべきじゃないか、ということになったのが原因だ。


 今は、家に誰もいないということ。

 それはそれでどうなんだ? とも思ったが、他に人気がなくて重要な話ができる場所に心当たりがあるわけでもないので、黙って従うことにした。


 まあ、僕の家、という手もあったが、あのボロアパートに冬華を連れて行くのには抵抗があったから、彼女から誘ってくれたのはちょうど良かった。




「着きましたよ」


 そうこうしているうちに、僕たちは白月邸に到着した。


 スタスタと迷いなく歩いていく冬華に続いて、僕も玄関に足を踏み入れる。

 彼女が前もって言っていた通り、家の中には人の気配はなかった。


 綺麗に靴を揃えてお邪魔すると、以前と同様にリビングに通されて、ソファに座らされた。


 冬華はというと、優雅にお茶の準備を始め、目の前のテーブルにはあったかい緑茶と軽いお菓子が並べられていた。


「どうぞ、粗茶ですが」


 彼女は僕の隣に座り込み、お茶を勧めてきた。

 粗茶、とはいうが、テーブルから少し離れたソファに座ったままでも嗅ぎとれるほどに芳しい匂いのするいいお茶であることは、その手に関しては素人に近い僕でも分かった。


 僕は恐る恐る手を伸ばし、湯気の立ち上る茶器を口元に運ぶ。


「……うまい」


 さっき、ギルマスのところで飲んだお茶よりも美味しい……気がする。

 あの時は、若干緊張もしていたから味覚が鈍っていた可能性もあるが……それでも、このお茶が美味しいのだということは間違いなかった。


 僕の言葉に偽りなんてものがないというのが分かったからだろうか、冬華は嬉しげに顔を綻ばせた。


 ◆


 お茶を楽しみつつ、少々の雑談を終えたら、本命の話題に移る。


「じゃあ、このスキルカードについてだけど……」


 僕はそう口に出しながら、もらったアタッシュケースの鍵を開ける。

 出てきたのは二枚のカード。


 やはり、何が描かれているかは分からない。


「どうする?」


 僕はひとまず冬華に声をかけた。


「うーん、迷っていてもしょうがないですし、ここはじゃんけんでもして決めましょうか」


 スッパリと迷いのない声音で、彼女は言い切った。

 とはいえ、それもその通り。

 いつまで考えていても、どんなスキルが手に入るか、なんてことは分からない。


 なら、さっさと使ってしまった方がいい。


「じゃあ、それでいこうか」


 僕は彼女の案に乗る形で賛成に乗り切った。



 ――結果、僕が勝った。

 冬華がパー、僕がチョキだった。


「僕はこれで」


 何も迷うことなく、一直線に手を伸ばした。

 近くにあった方のカードだ。


 そして、スキルカードを手に持った瞬間。

 辺りが白い光で包まれた。


 いつもの光景だ。

 分かっていたことなので、目を光から守るために手でガードを作るのは忘れていない。


 目が光で焼けるのを防ぎ続け、光が止んだのは、それから数秒後。


 続いて冬華もスキルカードに手を伸ばし、同じように光が視界を埋め尽くした。


 僕らは何を言うでもなく、【鑑定板】を取り出し、自らのステータスを確認する。



 ――ステータス


 名前:柊木 奏

 年齢:18

 Lv.40

 《スキル》

【鑑定板】

【魔魂簒奪】Lv.7

【隠術】Lv.1

【】

【】

【】


 SP:36

 ――



 結果として、僕の新たに得たスキルは【隠術】というものらしい。

 これの使い方について何となくわかる。


 体に無理矢理覚え込まされた感覚だ。


 このスキルの主な効果としては、隠れる、もしくは隠すことが出来る、というもの。


 自分の身を隠す、物を隠す、他人を隠す、なんてことも可能だし、なんならステータスを隠すことも出来るらしい。

 自分以外を隠す場合は、ちょっとした条件もあるみたいだが、まあこれは大した条件でもないし、気にすることもないだろう。


 単純な“力”を期待していた期待していた面はあったが、これはこれで使い道は多い。


 戦闘において強力無比、というわけでもないが、なかなかに有用なスキルだ。

 暗殺、奇襲の類いを行う場合は特に重宝することだろう。


 僕は満足げにステータスを眺め、次に冬華の手に入れたスキルが気になり出し、彼女の方へと視線を向けた。

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