それぞれの第二スキル
僕の視線の先――冬華は、【鑑定板】を片手にその画面を睨みつけるように凝視していた。
「ど、どうした?」
僕は何かあったのか、と口を開いた。
が、しかし、それは無駄な心配だったようだ。
睨みつけるようだった目が、次第に柔らかさを帯びる。
そして、ほんの少し、つぶやくような声量で、彼女は「やった……」と拳を握ったのだ。
それから数秒、冬華は僕の視線に気づいて、赤面した。
それは、先ほどの一連の動作を見られていたということを認識したからだろう。
赤く染まった顔を隠すようにして、フイ、と顔を僕から背けた。
まあ、ここで余計なことを言っても何にもならないだろう、と僕はしばしの沈黙に耐え忍んだ。
◆
あれから数分の間、静寂の支配する空間を耐えきり、今、やっとそれが終わりを迎えた。
「す、すみません。お見苦しいところを見せてしまいました」
まだ、若干羞恥が残っているのか、耳が赤い。
「いや、いいよ。それよりも……スキルの方はどうだった?」
僕は彼女の謝罪を軽く受け流し、話題を変える。
それによって、冬華は「あっ!」と声を漏らして、【鑑定板】に映ったステータス画面を僕へと向けた。
「これです。見た限りでは、結構いいスキルだと思うんですけど」
どうでしょう? と彼女は僕に意見を求めた。
その顔には、溢れ出る自信と期待、そして僅かに覗く不安があった。
僕はそんな彼女に苦笑を浮かべつつ、画面を覗き込んだ。
――ステータス
名前:白月 冬華
年齢:18
Lv.39
《スキル》
【鑑定板】
【氷魔術】Lv.8
【守護精霊】Lv.1
【】
【】
【】
SP:12
――
【守護精霊】、それが冬華の新しいスキル。
はてさて、これは一体全体どんな能力を持っているのか。
僕は彼女に視線を投げかけ、問うた。
「これは、私に合った、私を守ってくれる。私だけの精霊さんを召喚して使役できる能力みたいなんです」
どうですか。すごいでしょう?
そんな声が聞こえてきそうなほどに、彼女の声は弾んでいた。
瞳をキラキラと輝かせ、まるでおもちゃを貰ったばかりの幼い子供のような印象すら与える、冬華にしては珍しい姿。
精霊、というのが、どういうものなのか。それは僕にはまだ分からないが、それだけ聞けば強力なものなのだろうと推測できる。
「それで、奏くんの新しいスキルは?」
僕が思考に浸っていた、その最中で、冬華は無邪気に問いかけた。
ニコニコとした笑顔が咲き誇り、僕の中で渦巻いていた雑念は消え失せる。
そして、少しの迷いも躊躇なく、僕は【鑑定板】を取り出して、彼女に開示する。
ステータスを誰かに見せる、ということは、探索者にとって自らの手の内を晒すことでもあり、ともすれば心臓を差し出すことにも等しい行為ではあるが、僕は彼女にこれを見せることに一切の抵抗感を抱いていなかった。
それは、僕と冬華が互いが互いを助け合う、一蓮托生のパートナーのような関係性であるから、というのもあるが、それ以上に彼女への淡い恋心のせいもある。
彼女に、冬華に僕の子の新しい力を知ってもらいたい。
そういう思いも、少なからずあった。
結局あの日、僕は冬華への告白は完全な形では果たせなかった。
それが今も心残りで、消えない思いとして胸の内で燻っている。
――もう一度、告白するか。
だが、そうなるといつになるのか。
先日のような完璧なタイミング、完璧なシチュエーションなど、そうそう訪れるものではない。
僕が再び思考の渦にハマっていると、これまた冬華が、僕の意識を引き上げた。
「――くん、奏くん、聴いてます?」
少しむくれたような顔。
可愛らしく、端正な顔立ちが、僕の瞳をのぞいていた。
「うぉっ!!」
驚きから、思わずソファの上でのけぞった。
「ご、ごめん。聞いてなかった……えっと、なんだっけ?」
僕はぽりぽりと頬をかき、ソファに座りなおす。
「まあ、いいですけど……どうしたんですか?」
少し、心配そうに彼女は尋ねた。
しかし、僕はそれを曖昧に誤魔化して彼女に話の続きを促した。
「……私が聞きたかったのは、この【隠術】ってスキルについてです。これってどういう効果が――」
話は、スキルの使い方について、というのを延々と続けるだけのものだった。
しかし、少し彼女が身じろぎするたびにふわりと靡く艶のある濡れ羽色の長髪と、それにつられて鼻を通る心地のいい甘い香り、そして時たま浮かべる自然な笑みは、僕個人として、とてもいいものだった、とだけ言っておく。
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