作戦会議
「とは言ったものの、一ヶ月で二十階層のフロアボス討伐を完遂しなきゃいけないとなると、計画的に進めていかないと厳しい、かな……」
僕と冬華は特別報酬として受け取ったスキルカードと依頼書をギルマスから受け取り、その足でギルド会館からほど近いカフェテリアで昼食を摂るとともに作戦会議を進めていた。
「十九階層の攻略は結構進んでいますし、一月もあれば余裕を持って二十階層も攻略できそうですけど……何か問題があるんですか?」
「……冬華は、自衛隊が今、どこまで攻略が進んでいるかは知っているか?」
しばしの沈黙の後、僕は、冬華の質問に質問で返した。
冬華は「うーん」と頭を隅にあるのだろう記憶を引っ張り出そうと、思案げな表情を浮かべ、やはり思い出せなかった。
「二十二階層、だ」
「……思ったよりも、進んでいなかったんですね」
「そうだ。そして、その攻略を大幅に遅らせた原因でもあるのが、二十階層なんだ」
これはギルドで仕入れた情報だが、一応信頼できる筋からのものだ。まず誤りはないだろう。
「どうやら、この二十階層は魔物との遭遇率が少ない代わりに罠が多いらしい。しかも、なかなか巧妙に隠されていて、看破系のスキル持ちが気づかないレベルの罠まであるんだと。たぶんだけど、攻略が遅れたのはそのせいだろうね」
「……たしかに、それが本当なら、慎重に動かざるを得ないですからね……」
こう整理してみると、本当に僕たちが一ヶ月以内に二十階層を攻略し終えることが出来るのか、疑わしくなってきた。
「あの、因みになんですけど、自衛隊の方たちはどれくらいの期間で二十階層を突破したんです?」
それは、興味半分で聞いただけなのだろう。
だが、次の僕の返答によって顔を青くする結果となる。
「……二ヶ月」
「……え?」
「だから、二ヶ月だよ。二ヶ月」
沈黙が走った。
「に、二ヶ月……ですか? 本当に?」
疑わしそうに、嘘であってほしい、と彼女はチラと僕の顔を覗き見た。
「間違いはないよ。正確な情報だ。でもまあ、だからといって僕たちが二十階層の攻略に二ヶ月もかかるってわけじゃないから、安心していいと思うよ」
「え……でも、自衛隊でも二ヶ月かかったんですよね。私たち二人だけならもっと時間がかかるんじゃ……」
不安そうな顔で、彼女はゴクリと生唾を飲む。
たしかに、自衛隊は二十階層攻略に時間をかけた。
でも、それは最大限、安全に気を配ったからだ。
「自衛隊が、二ヶ月も時間を要したのは、詳しいマッピングと安全の配慮を求め、そして、大人数での探索の弊害がここで出たからだ」
僕は人差し指、中指、薬指の三指を立て、冬華に向ける。
「まず、マッピング。これは、僕たちみたいな後続組が楽できるようにって作成してくれたもので、もちろん僕も貰っている。そして安全の配慮。おそらくだけど、看破系、もしくは探知系のスキル持ちを前に集めて罠を虱潰しに探っていったんだろうね。まあ、そんなことをしていれば、攻略が遅れるのも当然」
僕は、ここまで一気にまくし立て、喉が渇きを訴えてきたところで一度口を閉じる。
テーブルの上に置かれたお冷を一息に呷り、水に濡れた口元をぐいっと拭う。
「……それに加えて、あの大人数での探索だ。魔物を相手にするなら、数の暴力は有効的だけれど、その相手が罠となれば、相性最悪。一つの場所に何人も固まっていたとして、そこで罠が発動したら、一気に何人ものケガ人が出る。そして、そのケガ人たちは戦力から一転、パーティのお荷物だ」
そこまで言えば、もう冬華は理解したようだった。
なるほど、とでもいいたげに、しきりに首を縦に振っている。
「だから、僕たちが攻略を進める分にはそこまでかからないのさ。それに、自衛隊さん方が残してくれたマップもある。これを合わせれば、一月での攻略も全然無理じゃないってわけ」
「か、奏くんは、そこまで考えていたんですね……私は、そんなの全く考えていなくって……」
冬華は申し訳なく思ったのだろうか、顔に陰を落とし、俯いてしまった。
「あー、これについては僕が勝手にやっていたことだし……じゃあ、次からは二人で考えていこう。僕だけじゃあ、分からないこともあるかもだしね」
「……わ、分かりました。次はお役に立ってみせます」
妙に気合いを入れる冬華に、引き笑いをこぼしながら、僕は新しく水の入ったコップを一気に呷った。
「まあ、でも今はひとまず、ご飯にしようか」
お昼時も過ぎる頃。
お腹はすぐにでも音を鳴らしそうなほど、空腹を訴えていた。
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