デート(3)

 駅から徒歩十分と少し。

 今回、予約してあった映画館はそこにあった。


 けれど、時間が思った以上にあまっていたというのもあって、少しの間、辺りをブラブラしていようということになった。


 やはり、東京――都会なだけあって色んな種類の店が散見される。


「白月さんは何処か行きたいところとか、ある?」


 隣を歩く少女に問う。

 側から見れば、僕と白月さんとでは致命的なほどに釣り合っていないことだろう。

 片や清楚系美少女、片や特徴のない地味男。


 考えてみれば、今僕が白月さんとこうやって隣を歩いていられるのも奇跡みたいなものだ。

 もし、僕が探索者をやっていなかったら、話をすることもなかっただろうな。

 そう思うと、なんだか緊張してきた。


 夏の蒸し暑い気候のせいか、尋常じゃないくらい手汗が溢れ出る。


 対して白月さんは僕の問いに応えようと、うーん、と思案げな声を漏らしながら、じっくり考え込んでいた。


 邪魔をしてはいけない、と僕は横から様子を見るにとどめる。

 一分か二分か、少しばかりの時間を要して白月さんは口を開く。


「柊木さん、朝ごはんってもう食べました?」

「え……まあ、パン一個くらいは食べてきたけど」


 とは言っても、時間の都合で急いでいただけで、それだけで足りるわけもなく今も少しお腹が空いているくらいだ。

 何処かで食事をとるというのなら喜んで賛成するのだが。


 横から、グゥッと腹の虫が鳴る音がした。


「えっと、私、実はまだご飯食べてなくって……」


 白月さんは羞恥によってか、頬を赤らめて手でお腹を抑えていた。

 普段の冷静な白月さんとのギャップのせいか、嫌に可愛く見えてしまう。


 ここは、僕から切り出すべきか。


「それなら、何処かご飯食べに行こうか」

「あ、はい」


 と、いうことで。

 僕も白月さんもここら辺のレストランやら何やらに詳しいわけでもないので目に入った良さげなお店へ勘に任せて入っていく。


 チリンチリン、と鈴の鳴る音が店内に響き渡ると、「いらっしゃいませ!」と店員さんたちの元気いい声が聞こえてくる。


「な、何名様でしょうか?」


 接客に応じてくれたのは高校生だろうか? 若々しくてあまり手慣れていない様子が見受けられた。


「二名で」

「で、ではこちらへ」


 ところどころつっかえながらも真剣だというのは伝わってくる。

 こういう場合は暖かく見守ってあげるのが吉だ。


 僕らは店員さんの案内に従って席に着く。


「ご注文の方、お決まりになりましたらお呼びつけください」


 そう言って店員さんは忙しそうに踵を返した。

 何も知らないで入ったのだが、どうやらこのお店はパスタ専門店、ということらしい。


 まあ、お値段は手頃だし、懐が痛むほどでもないだろう。

 僕はメニュー表を手にとって目を通す。

 白月さんも僕に習ってメニューを手に取る。


 さて、どれにしようかな、と悩むこと数分。白月さんはすぐ決まったようだが、いまだ僕は悩んでいた。


 しかし、これ以上待たせるのも忍びない。

 ――ええい、これに決めた!


 呼び出しボタンをポチっと押すと、一分もかからない内に店員さんがやってくる。


「私はこの、エビのジェノベーゼを」

「えーと、僕はカルボナーラ一つ」


 朝に食べるには少しばかり重いかもれない、と思いつつ、しかし食べたいという欲求には逆らえなかった。


 朝でそこまで混んでいないのも相まってか、注文の品はすぐに届いた。

 ホクホクと湯気を立てて食欲を湧き立たせるそれに、僕らの視線は釘付けだ。


「いただきます」と手を合わせて、フォークを手に取る。

 白月さんはよほどお腹が空いていたのか、食べ方は上品そのものだが、スピードは結構早い。

 まあ、僕も人のことを言えた義理ではないが。


 気づけば、皿の中身は空だった。

 あっという間、一瞬だった。

 食べ足りない感じがしないでもないが、その分はお昼まで取っておくことにしよう。


 腹も満たしたことだし、僕らはそそくさと店を出る。

 とはいえ、まだまだ時間は余っている。

 あまり過ぎるているくらいだ。


 さて、次はどこに行こうか。という話から、ご飯を食べたなら腹ごなしにちょっと動きたいと白月さんが切り出した。


 動く、となればどこだろう?

 ボウリング、バッティングセンター、とかが妥当かな。


 けれど、ボウリングもバッティングセンターも白月さんの格好では動きづらいことこの上ないだろう。

 なにせワンピースだ。

 動くのに適した服装ではない。


 じゃあどうしようか……と辺りを散策していると良さげなお店を見つけた。


「カラオケ……ですか」


 そう、カラオケ。

 動く、というのは無理そうだけど、歌を歌っていればそこそこのカロリーを消費出来るからね。

 さらにストレス発散も出来るという。


「実はカラオケって行ったことないんです」


 白月さんはどこか不安げだ。

 やはり、未知のものには不安がつきまとうものらしい。


 ここは僕がリードしなければ。

 まあ、僕もそこまで頻繁にカラオケに行っているってわけでもないけど。


 僕は白月さんを伴ってカラオケ店に入っていった。

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