勉強

 

 映画について白月さんと語り合い――僕は相槌を打っていただけだが――を終えると僕らは軽く街中を練り歩き、休日を堪能した。


 今日は白月さんの僕が知らなかった一面を見ることができたという意味では大変良い休みだった。

 が、明日からまたいつもの日常に戻るのかと思うと少し億劫な気分になって仕方がない。


 というか、だ。

 僕たちは、ほぼ毎日といっていいほどダンジョンに篭っては魔物狩りに勤しんでいるわけで、もうそろそろ本格的に単位がキツくなってきた。

 そう、大学だ。


 僕たちはあんまりにも大学に行ってなさすぎた。具体的に言えば、週に一度行くかいかないかくらいには。

 それを、今日になってようやく街中を歩く幾人もの大学生や高校生を見ていて気がついたのだ。


 いかにも青春してます、みたいな人たちを見かけるとなんだか自分が虚しく見えて仕方がなかった。


 智也も結構な頻度でダンジョンに入っているらしいが、あいつも単位の方は大丈夫なのだろうか。

 いや、真面目そうな奴だからなんだかんだで勉強だけはしていそうだ。


 もうそろそろ夏休みシーズンに入る頃合いで、テストも近い。

 勉強しなければ。

 そうは思うのだが、ぶっちゃけ、控えめにいってもやばい。やばすぎる。

 あまりにも勉強していないためについていける気がしないのだ。


 最近は講義に出ないだけに止まらず、家ですら一切勉強に手をつけていない。

 高校の時はそれなりに優等生で通っていたのだが、まさか大学生になって勉強で困るとは思ってもいなかった。


 僕はくそッ、と悪態をつきながら日も暮れてきたこの休日の残り時間を全て勉強に費やすことを決意した。

 しかし、久しぶりに開けた教材からは全然内容が頭に入ってくる気がしない。


「あーダメだ……」


 一旦休憩、とベッドに腰掛ける。

 そして、あと少し、あと少し、と休憩時間は伸び続け、漫画、ゲーム、テレビ、インターネットに時間を潰され、そしていつもはしないはずの部屋の掃除まで済ませて、疲れのせいからか、いつのまにか、僕の意識はシャットダウンされていた。



 僕が目が覚ましたとき、太陽はすでに昇っていた。


「ああ、寝ちゃったのか……」


 僕は自分の意思と集中力のなさに頭を抱える。

 本当なら今日も勉強に当てたいところではあるが、本日からダンジョン六階層への進出する予定なのだ。

 ここから、ということころで僕が休むわけにはいかない。


 僕はせめて少しくらいは勉強しておこう、と参考書片手に朝食を摂る。

 公共の場での食事では下品に映るかもしれないが、誰が見ているわけでもないし、家でくらいならべつに構わないだろう。


 食パンにバターとジャムを塗りたくって口に運び、そして、咀嚼しながら参考書にチラと視線を向ける。


 やはりというべきか、分からないところが多すぎるな。サボっていた分、できないのは当たり前なのだが、それにしたって分からなすぎた。

 基礎的な部分はともかくとして、応用となると高校の時は出来ていたはずのところすら、スッポリと抜け落ちてしまっている。


 こういうのがあるからこまめに復習しておくのが大事なんだよな、と改めて痛感した。


 さて、それはそれとして、もう集合の時刻が迫ってきている。

 僕は慣れた手つきで皿を食洗機にぶち込み、身支度を済ませる。


 いつもと同じ戦闘服を着込み、そして槍を担ぐ。

 もちろん街中を歩く時は、それとは分からないように布を巻いているが。


 そんでもって、バッグの中にはいつもの持ち物に加えて参考書も突っ込んでおく。

 暇な時間でもあったら眺めていよう、という大学受験のときにも使った、隙間時間勉強法を取り入れようというのだ。


 問題を解かなければどうしようもない、みたいなものでは効果はあまり見込めないが、暗記でどうにかなるものだったらそれなりに有効であろう。


 支度が終わったら僕はすぐに家を出た。

 腕時計を見れば、集合時間まであと数分、というところまで来ていた。


 ギルドまではそこまでの距離があるわけではないが、移動手段が徒歩に限られている僕にとっては到着まで少しばかり時間がかかってしまう。


 一応、白月さんには遅れるかもしれないとの旨をメールで送っておいた。

 まあ、たかが数分程度の遅れだろうけど、世の中報告、連絡、相談が重要だって聞くし、メールくらいはしておいて損はないだろうさ。


 僕はメールを送信すると、ギルドに向かう足を早めた。


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