フロアボスへの挑戦決意
二週間が過ぎた。
しかし、僕たちは未だにポーションを手に入れることができずにいた。
「クッソがっ!」
本日、三体目のトレントを倒したところで源が苛立ちまぎれに悪態をついた。
だが、彼に焦りが出てしまうのも仕方のないことだろう。
なにせ、源の妹さんの余命は医者の言うことを信じるならば、残り後一週間程度。
いや、もしかしたらもっと少ないのかもしれないのだから。
「落ち着けって、源」
「でもっ! もう時間がねぇんだ! あと、あと一週間で本当にポーションが手に入るのかよ……」
ギリリと歯ぎしりする音が聞こえる。
それほどまでに切羽詰まっているんだ。
僕も、落ち着けとは言ったものの、焦燥を感じていないわけではない。
この二週間、七階層にてトレントを狩りまくったことで攻略法は大体掴めてきた。さらにレベルもいくつか上がって基礎となる身体能力の向上もあってか、この階層の魔物はもう敵じゃないといっても過言ではないだろう。
しかし、いかんせんポーションがドロップしない。
最近では一日に最低でも五体は討伐していると言うのに、だ。
僕自身、本当にトレントからポーションがドロップするのか、疑問に思い始めてきたところだった。
そこで、僕は提案することにした。
「源、トレントよりも確実にポーションを手に入れる方法があるだろ?」
僕の問いかけに、源とそして白月さんもが生唾を飲んだ。
「それって……」
「そう――フロアボス討伐。もうそろそろ、いいんじゃないかと、思っているんだけど、どうかな?」
実を言うと、ボス部屋は数日前には見つけていた。
でも、全体的にレベルが足りないと言うことで先延ばしにしていたのだが、トレントを狩りまくったことでレベルが上がった今、十分に条件を満たしているだろうとの判断だ。
「お、俺は……賛成だ。フロアボスは絶対にポーションを落とすんだろ? だったら、やらないわけにはいかない」
「……白月さんは?」
半ば分かっていたことではあるが、源は了解の意を示した。
そして、白月さんはというと……。
「私は……私も、賛成です。これ以上ここでトレントを狩っていても、よほどの成長は見込めませんし、それに、効率もあまりよくはありませんしね」
彼女の言う、効率というのは金銭的なものだろう。
この七階層、運が良ければ超高価なアイテムを落とすのだが、基本ドロップが微妙なのだ。
トレントの落とす枝や葉っぱ、果実なんかはそこそこの値段で取引されるものの、あくまでそこそこなのだ。
果実なんかは特に需要があって、供給が少ないから高級品として扱われはするのだが、それは果実としての高級品だ。
ポーションみたいに法外な値段ってわけじゃない。
故に、彼女は効率が良くない、と言ったのだろうさ。
まあ、彼女の目的を考えれば無理もない。
そっちもそっちで、少し焦りが出始めてきたということなのかもしれない。
「じゃあ、二人とも賛成ってことで」
「今から行くのか?」
斧を手にして戦意を滾らせる源。
しかし、今日はもうだいぶ探索を続け体力も消耗している。
時間的にはまだ少し余裕があるとはいえ、ボス戦は万全を喫して行いたい。
ということで――
「いや、今日は帰ろう。ボス戦は明日。体力が十分ある時の方がいいだろう」
疲れのせいで凡ミスして命の危機……なんてのは笑い事にもならないからな。
流石に源も理解してくれたようで、渋々ながらも斧を肩に担ぎ直した。
対して白月さんは当然だ、とでも言いたげに冷めた目をしている。
さあ帰ろう、と足を進めたところで、物音が耳に入った。
敵か?
僕の疑問に答えるように、少し先の曲がり角からトレントが一体現れた。
いち早く反応した源が、今日までの苛立ちをぶつけようと勇ましく斧を手に取った。
「俺にやらせてくれ」
これは一人で、ということかだろうか。
二週間前であったのなら、心配でそんなことはさせられなかったが、今となっては問題ないだろう。
それだけ、レベルが上がってきているのだから。
僕と白月さんは互いに目を見合わせて、小さくうなずいた。
僕は構えかけた槍を下ろして静観する。
源はニヤリと笑ってトレントを睥睨した。
トレントも、相対する源を敵と認識したのか、威嚇するように枝をワサワサと揺らし始める。
手始めとばかりに、ナイフのように鋭く輝いた深緑色の葉が一斉に射出される。
ガガガッと勢いよく地面に突き刺さったソレらはしかし、源の体を傷つけることは出来なかった。
重装備であるにも関わらず、素早い動きでトレントの懐に潜り込んだ源は、走る勢いをそのまま攻撃に転換し、フルスイング。
大斧は派手な音を響かせて、トレントの主幹を斬り裂いた。
痛みに悶えるように根っこやら枝やらを振り回して源との距離を取ろうとするも、それを許すほど甘くはなかった。
それは猛烈なまでの追撃。
暴れる根を切り落としては機動力を削ぎ、木樵のように斧を振るう。
それから、トレントを伐採しきるのに時間はかからなかった。
「ふぅ……」
疲れたように息を吐き、源は黒い靄となって消えていくトレントの死体を眺め見る。
ここでポーションが落ちるかも、という淡い期待もあるのだろう。
靄が消えたところで、ドロップしたアイテムが露わになる。
それは、いつもと同じ赤い果実、ナイフのような鋭利な葉っぱ……そして、不可思議な文字が描かれた金属質な小型のカードであった。
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