加勢

 あの攻撃でトレントは力尽きた。

 魔物の実力にも色々と差があって、あのトレントはもともと力のない個体だったのかもしれない。


 まあ、いずれにしても、あれだけ体を壊されたらどんな魔物だったとしても継戦は難しいことだったかも知れないが。


 黒い靄が消えて、トレントの遺体があった場所には魔石と木の枝、そして果物が二つだけ落ちていた。


「回収は後でいいか」


 さて、次は白月さんと源の援護に行かないと。

 ド派手な戦闘音は未だ衰えていない様子。


 目を向けてみれば、白月さんはもちろん、源にも目立った傷は見られない。

 対してトレント側には新しくいくつかの傷が増えているようだ。


 これは善戦している……と見ていいだろう。

 しかしながら、危険な場面というのも見受けられる。

 特に一人で前衛をはっている源は危なっかしい。


 やはり、僕が援護に入るべきか。


「源、白月さん!」


 僕は二人に聞こえるよう、声を張り上げた。

 二つの視線が僕を向く。

 白月さんはあからさまにホッとした様子で、源は常にさらされるトレントからの攻撃に対処するのに忙しいようで、すぐに目線を戻した。


「今から加勢に入る!」


 “黒鬼化”と部分的な“液体化”の同時発動は現在も継続中だ。

 時折刺すような頭痛があるものの、前回よりはだいぶ軽いし、頻度も少ない。

 それに、動きに支障が出るほどでもないので気にすることもないだろう。

 もう少し【魔魂簒奪】のスキルレベルが上がれば、この頭痛だってなくなるはず。


 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 僕はトレントの攻撃を必死の形相で回避し続ける源を助けようと一体のトレント目掛けて右腕をしならせた。


 パァン、と空気の破裂するような音がした。

 しなる黒腕がトレントに迫る。


 音速レベルにまで引き上げられた攻撃に当のトレントは反応できていない様子で、というか、仮に直前で気づくことが出来たとしても、トレントの鈍足ではどうやったって回避するのは不可能ではあるのだが。


 やはりというべきか、トレントは一切の回避行動に移ることもできず、まともに攻撃を受けた。


 練度がそこまで高くない、ということもあってか、少しだけ狙いが外れて、僕の右腕は根の部分をバキィッとへし折った。

 一部分の根を根こそぎ折ったことで、トレントは盛大に体勢を崩す形となり、横転。


 その衝撃で、さらに枝の折れる聞こえた。


 そのチャンスに乗じて、これまでの鬱憤を晴らすかのように源がおどり出る。


 大斧を大きく振りかぶり、狙うは主幹――胴体部。

 大きく勢いをつけて、薪を割るような感覚で……振り下ろした。


 彼の一撃はトレントに一切の拒絶を許さず、叩き斬った。

 もちろん、両断というのは無理であったが、それでも高い筋力を誇る源の、斧による振り下ろしはかなりの威力があったらしく、太く硬いトレントの幹を三分の一ほどまで抉っていた。


 トレントは大きく体を捩って外敵を退けんとする。

 さらにここでもう一体のトレントが割って入ってきた。


 僕と源は小さく舌打ちして後退する。

 その間に白月さんが氷の礫を牽制として射出。

 この程度の攻撃の場合はダメージを与えることは難しいが、注意を引く時や、目くらましとしては有用だ。


 そして、今や勢いを失い、大きなダメージを負ったトレントに僕たちは負ける気がしなかった。


 そこから終戦までは早かった。

 僕と源が突っ込んで白月さんが後ろから攻撃。

 この型が面白いくらいにハマってほとんど反撃の機会を許さずに討伐せしめた。


 おおよそ一、二分の出来事で、僕たちはトレント二体に対して大金星を挙げた。

 僕が一人で倒したのも入れれば三体。


 そしてお待ちかねのドロップといえば……。


 源が眉を寄せて深くため息を吐いた。といえば、大体は伝わるだろう。

 そう、察しの通りポーションは出なかった。

 その代わりにとばかりに、赤い果実のオンパレード。

 売ればそこそこの値段にはなるはずだ。


「ま、まあ、まだ時間はある。もう少し頑張ろう!」


 僕は落ち込んだパーティの雰囲気をどうにかしようと声を上げる。

 二人も、それもそうだと同調し、探索は再開。


 淡く光るダンジョンの道を歩き回り、しかし、なかなかトレントとは遭遇しない。

 そもそも、確率的にはそこまで遭遇率が高くはない魔物だったのだ。

 最初に四体も出会ったのが奇跡的な偶然だっただけで。


 それから数時間使って練り歩き、討伐したトレントの数は一体。

 そしてやはり、ポーションは落ちなかった。


 時計を見れば、時刻は陽も落ち始める頃合いとなっていた。


「今日はここまでにしよう」


 源は少し不満げだったが、また明日もくるのだからと窘めた。

 さて、明日にはポーションがドロップすればいいのだが。

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