鎧の集団

 現在は駅のホーム。


 実家で飯を食べて一泊した僕たちは、翌日の昼にはもう東京にもどっていた。

 勿論、一泊したとは言っても僕は自室。冬華は客室だったため、何か間違いが起こるようなことは一切なかった。


 まあ当然だ。うん。別に残念とかは思っていない。いや、本当に。


 ま、何はともあれ、これで色々と手続きを済ませれば僕は大学を中退ということになる。

 そうすれば、今まで以上にダンジョンに集中できる。


 冬華も僕と時期を合わせて大学を辞める準備をすませているらしい。


 明日からは忙しくなるぞ、と僕が意気込んでいると、隣で伸びをしていた冬華がポンポンと僕の肩を叩いた。


 どうした? と僕が彼女へと顔を向けると、なにやら切羽詰まった顔で小さくある方向へと指を指しているのがわかった。


 どうしたのかと疑問符を浮かべながらも僕は冬華の指差す方へ視線を向けると、たしかにそこには目を剥くような光景が――


「小泉……?」


 そう、僕と冬華の視線の先にはあのヤリチン野郎こと、小泉がいたのだ。

 それも、なにやら探索者のような装備を着込んでいる。


 僕の記憶がたしかであれば、アイツは探索者ではなかったはずだが……。


 そんな僕の疑問に答えられる人間はいるわけもなく、小泉が僕の視界の外に消えるのを茫然と見送った。


 ◆


 さらに翌日。


 昨日見た小泉の姿が忘れられないまま夜を過ごし、何事もないまま今日が訪れた。


 僕はこれ以上気にしていてもしょうがないと、半ばヤケクソ気味に頭を振る。

 そんな僕だが、今は例によってダンジョンへと向かっている。


 当然隣には冬華。

 両者とも装備は万全だ。


 街中でのフル装備着用は、探索者という職業が認知され、広まっている現在とはいえやはり目立つ。

 特に僕が背中に背負う槍が一番目を引いているように思う。


「こいつをなんとかする方法でもあればいいんだが……」


 ポツリとこぼしたその一言に反応したのは冬華であった。


「あの……【隠術】ってスキルは、その槍に使えないんです?」


 ハッと僕は彼女の顔を凝視した。


「その手があった!」


 いや、忘れていた。

 そもそも、ここ数日忙しくてそんなスキルを取得していたのも忘れていたくらいだ。


 早速とばかりに……いや、ここでいきなり透明にしたら逆に目立つか。


 そう考え直して人気の少ない裏路地に入り込む。


「ここならいいか」


【隠術】発動。

 対象、槍。

 脳内でイメージを固めると、スゥッと手の中にある槍が色をなくす。

 しかし、そこには以前と変わらないズッシリとした重さがある。


「よし、成功だ!」


 これなら周囲からの目線も少しはマシになる。はず。たぶん。


 いや、まあそもそも探索者自身が珍しいから周りから見られるってこと自体は変わらないとは思うけどな。

 これは有名税とでも考えておこう。

 そうすれば精神的なものも少しは楽になるだろう。


 隠した槍をさっきと同様肩に担いで裏路地を出る。


 ここからダンジョンまでの距離はそこまであるわけではない。

 歩いて十分もすれば着くだろう。


 ダンジョンについたら“転移門”で二十一階に飛んで探索開始。

 今の時間を鑑みれば……今日は十八時には上がれるくらいにしておくか。


 僕は今日の行動スケジュールを組み立てながら足を進める。


 そんな中でガシャリガシャリと鉄製の全身鎧を鳴らしながら歩く一団が目に留まった。

 最初はなかなかに金のかかった装備だなーっと見ていただけ。


 ここら辺はダンジョンも近いし、他の探索者とすれ違うことは多いし、そこまで気にはしなかった……が、ただ、あんな格好のやつらは見たことがなかっただけに目を引いた。


 僕らの前を進む彼らは四人パーティのようだが、そのうちの一人は鎧の色が違うのが気になった。

 他三人はありきたりな金属鎧といった感じ。

 しかし、そいつだけは白銀に所々レリーフの入った優美な鎧。下品にならない程度の金の装飾と加工された宝石が散りばめられていて美しいものだ。


 ……実用性の方ではどうかは分からないが。


 これは、どっかの金持ちの坊ちゃんが金に物言わせてダンジョン探索に踏み込んだってところかね? 

 さて、それでどこまでいけるのか……少し楽しみではある。


 貧乏人の僕としては鎧を全損させられて泣いて帰って来てくれるのが一番スカッとするんだが、そう思ってしまう僕の心はやはり汚れているのだろう。


 どうでもいいけど。


 そういえば、あの小泉も一応金持ちだったなぁ……なんてことを考えながら、僕たちはゆっくりとダンジョンへ足を運んだ。

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