下衆な企み

 ダンジョンに着くと、先ほど見た鎧の男たちがちょうど入っていくところだった。


 僕たちとしてはダンジョンに入ったらすぐにでも二十一階層まで“転移門”でショートカットしたいところなのだが……やはり瞬間移動の能力を他人に目撃されるのは面倒だというのもあって人目のつかないところでの発動が好ましい。


 よって、前の鎧の集団が目視で見えない所に行くまではゆっくりしているしかないわけだ。


 実に面倒臭い。


 僕はあからさまに顔をしかめ、それを目にした冬華は苦笑を漏らした。


 でもしょうがないだろ? 本当のことなんだから。


 そうこうしているうちに僕たちもダンジョンへと一歩足を踏み入れる。


 いつもと何一つ変わらない光景だ。

 横に広い石畳の道。

 照明や松明の類は見当たらないにも関わらず壁が淡い緑色の光を発する光景はいっそ幻想的だと言えるものだ……まあ、僕はもう見飽きてしまったが。


 前方を見ると、鎧の集団はまだ僕らの少し先をノロノロと歩いている途中だった。


 ……のだが、何か少し様子がおかしいような気がする。


 このダンジョンの一階層から僕たちが攻略した二十階層までのルートはギルドにて公開されている。

 それ故に一階層から二階層へと続く道を探すのにはそこまで苦労はしないし、たいした魔物も出てこないから警戒するだけ無駄だと軽く構える人間が多い。


 しかし、こいつらはなぜか異常なほどの慎重さを見せている。


 まるで何かを見落とすまいとしているかのようで……。


 何をしようとしているのか、僕は彼らに少しだけ好奇心を覚えた。

 そんな好奇心に駆られて、レベルアップの恩恵で強化された聴覚でもってコソコソと聞き耳を立てる。


 あ、これなんか楽しいかも。


 さて、一体全体何を話しているのかな? と若干胸を躍らせていると、鎧の奥からボソボソと喋る数人の男の声が僕の耳に届いた。


「おい、本当に間違いないんだろうな? 一階層の何処かに隠し部屋があるってのは」


 隠し部屋!? 

 そんなものがあったのか……。


 まだ確証を得られていないとはいえ、ない話ではないだろう。

 どこからともなく宝箱が湧いてきたりもするこの不思議な建物だ……そのくらいあっても不自然なことはない。


 むしろ、それくらいあると考えた方が自然なくらい。


 僕たちは、そんなの考えたこともなかったな。盲点だった。

 なるほど、とうなずく僕に気づくことはなく、かれらは小声での会話を続ける。


「ああ、間違いはない。ここのどこかにあるはずだ。お前たちには大金を払っているんだ。その分はきっちり働いて貰うぞ」

「分かっている。こっちもプロだ、隠し部屋の一つや二つ、今日中に見つけてやるよ」


 大見得を切った男の声からは揺るぎない自信を感じ取れた。

 それに、プロ……というからには何かしらのエキスパートなのかな?


 ま、それはいい。

 それよりも、大金をはたいて探す……ということはそれだけの価値があるということだ。


 つまり……隠し部屋には貴重なアイテムが隠れている可能性が高い!


 それは、僕の好奇心が大きく揺さぶられる瞬間だった。


「ねぇ、冬華……宝探し……いや、隠し部屋探し、しない?」


 一緒になって聞き耳を立てていた冬華は僕と顔を見合わせると、ただ同意するように親指を立てた。



 ◆



 僕はまず、僕自身と冬華に【隠術】を発動させた。

 僕たちだけの力で隠し部屋を発見するのも面白そうだが、せっかく向こうがプロを雇ってくれたと言っているんだ。


 有効利用させて貰おう。


 なに、鎧の彼らが隠し部屋を発見したのを偶然見つけた僕らが彼らよりも早くお宝を発見する。それだけのことだ。


 ただ、僕は別に泥棒をしようとしているわけじゃない。

 僕は好奇心を満たせればいいからどんなものがあるのかを調べられればそれでいい。

 ……冬華がどう思っているのかは知らないが。


 それに、もしもどうしても手に入れたい物だったとしても、彼らよりも早く手にできたなら、隠術での隠匿も楽勝だ。

 しかし、ただ奪……頂戴するだけでは僕の良心も痛む。そこで、横ど……ではなく、拝借したアイテムとは別に手持ちの素材でも入れておけばいい。

 そうすれば、彼らももとからそれが入っていたと考えるはず。


 これならどっちも嫌な思いはしないで済む。

 ウィンウィン……? だね!


 割と下衆な考えだが、自分たちの利だけを考えれば最善手だ。

 自分がもしもこんなことをやられたことを知ったら壮絶に腹が立つだろうが、いまさら止めるつもりはない。


 さぁ、どんな宝物があるのか……楽しみだ。

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