捜索(2)

 四階層。

 そこを疾走する影が二つ。


 一つは黒髪短髪の少年。

 未だ幼さの残る顔に反してその体は鍛えられたものであり、身に纏う革鎧の上からでもそれは伺えた。

 背中に身の丈ほどの槍を背負い、しかし、それでも疲れた様子を見せないことからも、その異常さが見て取れる。


 もう一人は少年と同じ黒髪を持った少女であった。

 腰まで届くほどまで伸びた黒髪は美しく、また少女の美麗な容貌も相まって更なる美しさを感じさせる。

 ただ残念な点といえば、その胸部のモノくらいか。

 全くない、というわけではないが、平均を下回る程度の微妙な乳房は実に勿体ないものだった。

 まあ、中にはそれを好む者のいるが。


 そして、彼らは何かを探しているようであった。


 視線を右往左往へと動かして魔物を見つければ即殺。しかし、その眼には魔物の姿は写ってはいなかった。

 では、魔物ではない何かを探しているのだろうが、一体それは何なのか……


 ◆


「うーん……いない、なぁ」

「そうですね」

「やっぱり、ダンジョンには来てないってこと、なのかな?」


 僕らは四階層全域を探索し、人一人いないのを確認した。

 たまに発見する魔物も見つけ次第討伐しては、ドロップをいただいた。

 が、しかし――


「一応五階層まで行ってみようか……」


 行けない、というわけでもないのだ。

 一応、五階層まで到達したパーティの一員であるのだし、単独で五階層まで上がるのは不可能だ、とは断定しきれない。


 それ以上となると、流石に否定から入るだろうが。というか、五階層にいなかったら僕たちも大人しく帰る他ない。


 白月さんの残り体力を鑑みながら、それに合わせて僕は走る。


 ここまで来るのに急いだせいか、いつもより結構体力を使ってしまっている。

 当然、いつでも戦えるだけの体力はあるが、それでも体には少しづつ疲労が蓄積されていく。


 五階層ともなれば、遭遇する魔物はゴーレムばかりとなり、僕ら――というか僕とは完全に相性が悪い。

 この階層での戦闘は白月さんに頼る場面が多くなりがちで、それ故に白月さんには常に余力を考えてもらわなければならない。


 申し訳なさと不甲斐なさが僕の胸中を支配して渦巻く。


「……ごめん」

「気にしないで下さい。いつもは私が助けられているんですから、こういう時くらい私にも活躍させて下さいよ」


 僕が苦渋に満ちた顔をするのと反対に白月さんは朗らかに笑った。


「うん……」


 それでも、僕のこのやるせない感情が消えるわけではないが。


 沈んだ気持ちをなんとか盛り上げるため無理矢理笑顔を浮かべようと四苦八苦していると、僕らの耳に音が響いた。


「ゴーレムか」

「多分、そうだと思います」


 その音は、足音というには大分大きくて、それでも僕らはその音に聞き覚えがあった。


 ゴーレムの足音。


 石で作られた重い体を一歩踏み出すだけでズンズンと音が響き、その体から繰り出される攻撃は一撃で地面にヒビをつくるほどだった。

 まあ、その代わりに鈍足で対処が簡単な魔物ではあるのだが。


 音が近づく。

 一歩、一歩と近づいてくるのをこの身が感じ取る。


 そして、それから数秒。

 ついに視認した。

 石で象られ、歪な形をした人型の魔物を。


 僕らはいつでも攻撃に移れるよう、態勢を整える。


 今回、僕は例の棒は持ってきていない。

 というのも、まさか五階層まで上ることになるとは思っていなかったためなのだが、それは言い訳か……。

 持ってこようと思えば両方持ってくるという手段も取れたのだから。


 僕は自らの準備の悪さに辟易する。


 穂先を使って攻撃すれば刃が痛む可能性があるので、柄と石突き部分を使っての打撃を心がける。


 ゴーレムが重い体を引きずりながら僕らへと直進してくるが、やはりそれはあまりにも遅かった。


「ハァァァァァァァァアッ!!」


 雄叫びを上げ、僕は駆ける。

 ――“黒鬼化”、ついでに“放水”。


 放たれた水がゴーレムの動きを阻害して、その巨体と重量故に吹き飛ばす、とまでは出来ないまでも、ただでさえノロマな鈍足を更に鈍らせることには成功した。


 そして、好機。


 黒く変色した腕には筋肉が盛り上がり、繰り出す一撃は岩をも貫く剛力の刺突。


「――シッ!」


 攻撃の瞬間、小さく息を吐き、石突きでの刺突はゴーレムの体に風穴を開いた。

 だがしかし、それは致命傷足り得ない。


 ゴーレムは「何かしたか?」とでもいいだけなほどにケロッとした様子で、僕の攻撃などまるで効いていないようであった。


 苦虫でも噛んだような顔をする僕へと、ゴーレムはその豪腕を振り上げ、僕は素早く後退し、一息つく。


「っくそ、理不尽すぎるだろ」


 僕は悪態をつくが、それを咎める人はここにはいなかった。


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