“紅蓮隊”
「っていうか、今のところ僕と白月さんの二人でもダンジョン探索にも支障はないし、パーティメンバーを増やす必要もないよね」
僕は立花さん曰くハーレムパーティであるらしい“紅蓮隊”にどうこう言うつもりは無い。
無いが、だからといって自らのパーティをハーレムにしようなどとはカケラも思ってはいない。
まあ、今より上の階層まで行って、自分たち二人だけじゃあ力が足りない。そんな状況に陥ったとしたら、誰かしらを仲間に加えることはあるだろうけどね。
「そう……ですね」
ふい、と顔を僅かに僕から逸らし、白月さんは小さく返した。
なにか気に触るようなことを言っただろうか。
「ふふふっ」
不安が頭をよぎり、その瞬間。
立花さんが、静かに笑い声を漏らした。
口に手を添え、形こそ上品ではあったが、僕としては笑い事ではないのだが……。
僕と白月さんの関係が悪くなる、ということはすなわち連携能力が極端に低下して、探索スピードが落ちることにも繋がる。
僕は睨む、とまでは言わないが、不機嫌オーラ全開で視線を立花さんへと向けた。
「ああ、ごめんなさい。でも、大丈夫だと思いますよ?」
それは白月さんには聞こえず、僕だけに聞こえるくらいの小さな声だった。
はて、彼女の言う「大丈夫」とはどういう意味なのか……僕には到底理解できるものではなかった。
「それはどういう……」
そこまで言いかけて、すぐのこと。
ギルドにたむろする数少ない探索者たちがザワザワと騒がしくなり始めた。
なんだ?
僕の疑問に答えるように、彼らの視線がギルド会館の入口へと向けられているのに気がついた。
「あ、れは――」
「あれが、“紅蓮隊”ですよ。柊木さん」
白月さんは興味なさげに立花さんは少し興奮気味に、そして僕は驚愕に目を見張って彼らを視界の内へ入れた。
「――智、也?」
三人の女を侍らせて先頭を歩く男に、見覚えがあった。
鮮明に覚えている。
昨日、友達になったばかりの同級生――赤城智也。
その見た目とは裏腹に弱気な性格。
僕と同じように友達が少ない、と悩んでいた彼は、あの時と同一人物とは思えないほどに堂々としていた。
赤い髪に赤い皮鎧、加えて赤いコートを身に纏った赤づくしの装いは一目で分かる派手さを持つ。
ただ、気になる点が一つ。
装備の汚れ具合などから見るに、恐らくダンジョンからの帰りであるはず。
だが、智也はどこにも武器を持っているようには見えないのだ。
考えられるのは、暗器やらの服の内側に隠しておける小さなサイズの武器か。または、スキルに頼った戦闘スタイルか、ということくらい。
彼らは注目の視線など慣れたものだ、とものともせずにカウンターに向かってくる。
そして、智也の視線が僕を向き、固まった。
彼も今、僕と同じことを思っているに違いない。
――なぜ、君がここにいるのだ、と。
お互いに探索者をしている、とは言っていない。いや、言うことが出来なかったのだ。
友達になった、とは言ってもまだまだ知り合ったばかり。
そんな話題を出すよりも共通の話題の方が盛り上がるだろうと思ったし、それに自身が探索者をしている、と告げることで何かしらの悪影響がないとも言い切れない。
以上の理由もあったとはいえ、僕らは困惑した。
僕も、智也も、積極的に目立とうとするような性格ではなかっただけに驚きもした。
けれど、自分の目で見たものは事実として捉える他ない。
僕は静かに足を前に踏み出した。
ゆっくりと、まずは一歩。
釣られて智也も僕へと足を向けた。
智也のツレ三人はどこか困惑の表情を浮かべて僕を凝視する。そして、それは白月さんと立花さんも同じ。
僕と智也を交互に見やって困惑している様子。
「お前も、探索者だったんだな……」
「うん……奏も探索者だったとは思っていなかったよ」
僕らの距離はもう数歩分しかない。
互いに顔を見合わせて苦笑する。
数奇な出会いもあったものだ。
まさか、偶然大学で出会って、つい昨日友達になったばかりの奴が自分と同じ探索者をやっているだなんて思いもしないだろう。
「とりあえず、行ってこいよ。換金とか色々やることあるんだろ? 話はそれからにしよう」
「分かった」
僕は白月さんを伴って待機。
智也はパーティメンバーだろう女の子たちを連れて受付へと向かう。
白月さんは何か言いたいことがあるのだろう、僕へ視線を投げかけるが、その疑問はすぐに晴れることになる。
少しだけ待ってくれ。そう言うと、彼女は大人しく引き下がった。
智也は智也は僕と違って問い詰められているようだが、さて、ここからどれくらいかかることやら……。
僕は静かに嘆息を漏らした。
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