自己紹介
「ごめん、おまたせ」
少し息を切らせて、小走りに近づいてくる智也。
その表情はどこか申し訳なさそうで、反対に後ろに控える三人の女性陣は興味津々といった様子で僕らを視界に納める。
「いや、大丈夫。……それより、移動しようか」
思ったよりも注目されている。
僕らはまだしも、智也たちのパーティはあまりにも有名だった。
それはハーレムパーティということもあるのだろうが、そのパーティを構成する女子三人の全員が全員美少女、または美女だからだ。
それに加えて、智也も端正な顔立ちで女性探索者からの人気があるものだから男女問わず人気があるのも頷ける。
僕らはまあ、一般の探索者の中では間違いなくトップの到達階層を記録しているが、そんなもの調べない限り知っているやつはいないだろう。
そんなこともあってか、あのハーレムパーティと一緒にいるのは誰だ。
あの女の子は新しいハーレム用員か。と騒がれている。
ちなみに、この場合の“あの子”とは白月さんのことであり、それも相まって騒ぎが大きくなりつつあった。
「そう、だね。そうしよう。ここじゃあ落ち着いて話もできそうにない」
智也は辺りを見渡して大体の状況を即座に把握すると、苦笑を浮かべた。
僕たちはなんとも言えない微妙な雰囲気の中で動き出す。
◆
場所は変わり、とあるファーストフード店。
「えっと……まずは自己紹介から、かな?」
席に着き、最初に口を開いたのは意外なことに智也だった。
僕と、そして智也を囲うように座る彼女らは無言で頷くが、白月さんは機嫌が悪そうだ。
智也はポリポリと頬をかき、まずは自分からと先頭をきる。
「俺は赤城 智也、です。“紅蓮隊”のリーダーをやっています。えーと、奏とはこの前大学で仲良くなったんだ。よろしく」
それは白月さんに向けての言葉だった。
まあ、それも当然か。
自分のパーティであれば自己紹介はいらないし、僕にはもう既に話していることなのだから。
「……よろしくお願いします」
対する彼女は僕と当初会った時のように素っ気ない。
氷のような目、とまでは言わないが、興味なさげな視線は赤城の心を抉るのに十分な代物だ。
「ちょっとアンタ!」
急に声を張り上げたのは智也のちょうど右隣に座る少女だった。
髪は明るい茶髪で艶のあるセミロング。ツリ目気味で強気な印象はその通り性格に反映されているのだろう。
胸はツルペタで顔も童顔というのもあって見た目では中学生にも見えなくはないが、ダンジョンに入れるのであれば十八歳、大学生以上であるはずだ。
「はぁ……なんですか?」
白月さんは睨む少女に冷たく返した。
「なんですかって……その態度はないんじゃないの!?」
キャンキャンと騒がしい彼女に白月さんは凍えるような声を叩きつける。
「うるさいですよ。TPOをわきまえてください」
ここはお店ですよ、と。
Time Place Opportunity。
つまり、時と場所と場合を考えろということだ。
少女は周りから向けられた目線に気づいて悔しそうに歯噛みしながら口を噤んだ。
「だいたい、なんの説明もなしにこんな所に連れて来られたら不機嫌にもなります。それに、柊木さんのお友達だというなら、別に私が付いてくる必要もなかったと思いますが?」
細めた目が僕を向き、非難の言葉が突き刺さる。
「えーと、ごめん。何か用事とか、あったかな?」
だとすれば、ここまで怒っているのにも説明がつくものだが……。
「いえ、特に用事はありません……ただ、こういったことは事前の説明が欲しいですね」
「あはは、僕も突然だったから……」
白月さんのジト目に堪らず乾いた笑いが口を出る。
しかし、彼女としても僕と言い争うつもりはないのか、一度重いため息を吐くと「もういいです」と肩を竦めたのだった。
「さ、さて……色々と話は逸れたけど、続けようか」
一度沈黙が訪れたこの場で口火を切ったのは智也だった。
白月さんのアレコレで少し場が凍りついたものの、実質、話を始めてまだ数秒程度であり、互いの自己紹介も済ませていないのだから、終わらせることも出来ないのが原因ではあろうが。
「じゃあまずは……」
そこで言葉を切り、その視線は僕へと向けられた。
助け舟を求める子犬のような目に僕は応えてやることにした。
「僕からやろうか」
白月さんが与えたマイナスなイメージをなるべく払拭しようと慣れない笑顔を全力で浮かべる。
表情筋がヒクつくが、無理矢理保ちながら話を続ける。
「パーティ名“ヒイラギ”のリーダーを務めます、柊木 奏です。よろしく。智也とはさっきも言っていた通り大学で出会ってそのまま仲良くなってね……探索者をやっているなんて思ってもいなかったから、さっきは驚いたよ」
「あはは、それは俺もだよ。あの時は言いそびれてさ」
僕らを中心に小さく笑いが起こる。
――ただ、二人を除いて。
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