自己紹介(2)
「じゃあ次は私が……」
僕に続いて自ら名乗り出たのは“紅蓮隊”から、智也の左隣に席を構える女性だった。
「私の名前はぁ、柳生 涼子って言いますぅ」
ゆったりとした口調で大人びた雰囲気を感じさせる彼女は“紅蓮隊”の中でも軽装で、智也同様に武器を所持していなかった。
が、それは今はどうでもいいことだ。
「赤城君とはぁ、試験の時に同じチームになったのがキッカケでそのままパーティを組むことになりましたぁ」
ウフッと妖艶な笑みを浮かべて彼女は智也へと視線を移した。
そこにはさっきまではなかった熱っぽい感情が見え隠れする。
なるほど、な。
ハーレムパーティってのは嘘ではなかったようで、少なくともこの柳生さんって人は智也に少なからず好意を抱いているようであった。
出るところ出て引っ込むところは引っ込んでいる、所謂グラマラスな体型であるところの彼女に言い寄られたら、並の男ならばすぐにでも落ちてしまうことは間違いないだろう。
しかし、この様子を見るに智也は並の男、というのには該当しないようである。
というのも、智也はこの柳生さんの好意の視線に全く気づいていないみたいなのだ。
これが噂に聞く、鈍感系主人公というやつか……。
僕は軽く戦慄していた。
「ちょっと、涼子さん? 智也に色目を使うのはやめてくださいって何度も言っているでしょ?」
次に口を開いたのは先程白月さんに突っかかっては言いくるめられた勝気な少女であった。
キッ、とキツめの目をさらに吊り上げ、柳生さんを睨みつける。
敬語を使っていることから、彼女は柳生さんよりも年下なのだろう。
しかし、その敬語も途中から崩れて最後には叫ぶように声を荒げた。
この様子を見るに、彼女もまた智也を慕っているのだろうな。異性として。
そんでもって智也はこれにも気づいていない、と。
前途多難だな。
そんな感想が他人事のように頭に浮かぶ。
まあ、完全に他人事なのだが。
「あー、えっと一応俺の方から教えておくね、アイツは南條 桜。幼稚園の時からの幼馴染なんだ。大学は違うんだけど、なんか俺がいるアパートまでついてきて、この前隣の部屋に引っ越して来たみたいなんだよね。母さんに世話を頼まれたとかなんとかでさ」
呆れたように、でもどこか嬉しさも含んだ目が未だにギャーギャーと言い合う彼女へと向けられた。
――これは……。
僕の思考は一つの推論へと達した。
ハーレムパーティなんて言われているけれど、智也はそうは思っていないようだし、最終的に付き合うことになるのはあの南條さんという子なのだろうな。
もちろん、これから智也の気持ちが変わることも充分考えられるし、そもそも僕の推論が間違っている可能性もあるのだから断定はできないが。
智也が柳生さんと南條さんの喧嘩……とは違うだろうが、言い争いを仲介しに入り、僕らは手持ち無沙汰になったことろで――
「ねぇ、ちょっと……」
視界の外から声がした。
僕は少しだけ驚いて声のした方へと首を捻った。
そこには智也たちとは一線を引いた様子で気怠げに真っ直ぐ僕へと視線を向けていた一人の少女が。
肩まで伸びた黒髪と小柄な体、眠たげな目が印象的で、僅かに非難の色が混じった声は確かに僕の耳に残っている。
自己主張の少ない子なのだろう、それだけ言って声を噤んだ彼女に僕は救い手を差し伸べようと口火を切る。
「えっと……僕の名前は――」
「それはもう聞いた」
僕が口を開いたと同時に言葉を遮られた。
ヒクリ、と頬が引き攣る。なんなんだよ、と。
「……私の名前」
ポツリ、とそれだけ呟いた。
数秒程度の時間を要してまた言葉が紡がれる。
「舞鶴……舞鶴、理央。……よろしく」
「え、ああ、うん。よろしく……」
不思議な子だ。
それが、彼女へ対する第一印象だった。が、それでも悪い子ではないのは分かる。
ただ、コミュニケーションが少しばかり苦手なだけなのだろう。
「そっちの、は?」
そっちのとは? という疑問も僕はすぐに察することができた。
「あー、彼女は白月 冬華さん。僕のパーティのメンバーだよ」
「ん……分かった。じゃあ、冬華。よろしく」
「……よろしく、お願いします」
途切れ途切れで、声量は大きくはないが、それでも聞き取れないほどではない程度の声は白月さんの耳にも無事に届き、少しの間があったが、言葉を返した。
彼女たちの間で、それ以上の会話が続くことはなかったが、互いの印象は最良とは言えないまでも悪くはないものであった。
最初に、白月さんが南條さんと険悪な雰囲気になった時はヒヤヒヤとしたものだが、友達……といえるかは分からないが、違うパーティの知り合いが出来て結果的には良かった……といえるのかな?
ちなみにこの時、智也の仲介は一切の意味をなさず、柳生さんと南條さんはまだ言い争っていた。
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