副次効果

「かぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 野太い雄叫びが響き渡る。


 源の巨体ともいえる鍛え抜かれた肉体から放たれる大斧の一撃はキラープラントの体を易々と両断し、黒い靄へと姿を変える。


 僕たち一行は昨日のあの後は特に何があるわけでもなく、ダンジョンを出て帰宅した。

 そんでもって今日、再び第七階層まで訪れているというわけだ。


 今日の目標は七階層フロアボスの討伐。

 そして今、僕たちはそのボス部屋の真正面にいた。


 因みにさっきのキラープラントはというと、さぁさっそくボス戦だ、と意気込んでいたところへ空気も読まずに襲撃してきた馬鹿な魔物だ。

 僕たちが対処しようとしたところをいつもより数割り増しで殺気立った源が単独で討伐した形であったわけだが。


「なぁ源、お前……昨日よりも力、強くなってないか?」

「ん……?」


 僕は昨日の源と今日の源、その戦いぶりを比較してすこし疑問に思うところがあった。


「そうか?」

「いや、そうでしょ」


 彼にはあまり自覚が無いようであった。

 しかし、傍目から見て彼の膂力は昨日よりも確かに増しているというのが見て取れたのだ。


 僕の指摘に賛同するようにして、ここで白月さんが口を開く。


「確かに、昨日よりも一撃の強さが増しているような気がします。まあ、それ以外の変化はないようですけど」

「でも、あの後は別にレベルアップとかもしてないぞ?」


 源にはなぜ自分の力が突然上がったのか、というのが理解できていないようであった。


 しかし、僕はここで昨日源が手に入れた【鍛治】のスキルについて思い出した。


【鍛治】。

 これは生産系スキルのうちのひとつであり、武器生産に特化している。

 しかし、僕は前にこんな話を聞いたことがあった。


 スキルには、【鑑定板】で鑑定しても見ることのできない、副次効果がある場合も存在するのだ、と。


 つまり何が言いたいのかというと、源の手に入れた【鍛治】には膂力を強化する副次効果があったのではないかってこと。


 そもそも、鍛治仕事をするというなら筋力は当然必要だろうし、普段は使わないような筋肉を使うことになるはず。


 そして、スキルというのはその技能を無理矢理体に叩き込ませるもの。

 で、あるならば、その普段は使わないような筋肉や、それ以外の筋肉も含めて、鍛治仕事に耐えうるだけのものに作り変えられたということではないだろうか。というのが、僕の推論だ。


 まあ、この理論が正しいかどうかはわからなきのだが、それは別にどうでもいいか。


 結果として、源の自力が上がったのだから。

 これで、フロアボス戦も少しは楽になってくれることだろう。


「それじゃあ、少し休んだら……いこうか」


 ボス戦へ。


 ここまで来るのに、少しばかり体力を使ったので、それの回復に努める。


「あの……これ、どうぞ」


 ボス部屋のすぐ隣に腰掛け、ダラリと力を抜いたところで、白月さんがバックから何やら取り出して僕へと手渡す。


 それは、小ぶりなバスケット。


「えっと、これは?」

「サンドイッチ……です」


 ちら、と時計に目を向けると、時刻は丁度お昼時だった。

 バスケットを開けてみると、卵、ツナ、ハムなどなど比較的スタンダードなサンドイッチがいくつか。オシャレに詰め込まれていた。


「もしかして、手作り?」

「は、はい……そうですけど。迷惑でした?」

「い、いやいや、そんなことは……えっと、ありがと」


 白月さんは僕のすぐ隣に腰掛けた。

 源はその反対の僕の隣側へ。


「あ……藤堂さんのもありますよ?」

「おっ、あんがと。まあ、俺のはオマケだろうけどな」


 源は最後何かボソッと呟いたようだったが、僕には聞こえなかった。

 同様に白月さんにも聞こえていなかったようで、小さく首を傾げている。

 その様子が、小動物のようで妙に可愛らしかった。

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