帰宅とニュース
あれから二時間ほどが経った頃。
スライムを倒したことで手に入れた【鑑定板】のスキルを手に入れ、多様な戦闘手段を手に入れることができると分かったのはいいが、僕はいまだにこの塔から出ることはできていなかった。
「はぁ〜」
思わず嘆息が漏れる。
足も疲労が溜まり、動きが鈍くなってきていた。
どこか休める場所はないかと視線を周囲に巡らせていると、僕はその道に既視感を覚えた。
「あれ……ここって」
だいぶ前、確か……この塔に入ってすぐに見た道の造りによく似ている。
「――っていうかまんま同じ場所じゃねぇか!」
ってことはもうすぐ出口がっ! 乳酸が溜まりに溜まった足に鞭打って走り出す。
途中で足がもつれて転びそうになるのをなんとか踏ん張って息を荒げながら力を振り絞り、出口を目指す。
そして、大きな門が目に入った。
「やっとだ! やっと出られる!」
興奮冷めやらぬままに外へと脱する。
外はもう既に朝日が昇り始めていた。塔に入った時間を考えれば大分長い時間を過ごしていたのだということが分かる。
塔をでてすぐそこにあった例の公園は地震のせいで地面がひび割れ、遊具はほとんどが無残にも破壊されている。
さっきは塔の方に気をとられ過ぎて気づかなかったが酷い有様だ。
街の方も結構な被害が出ていることだろう。
こんな巨大な塔が突然現れたにも関わらず人がまったく集まっていないのもそんな理由があるゆえ……ということか。
「あっ……そういや、この槍どうしよ……」
そこでようやく気づいた。
ゴブリンから拝借した槍だが、これを持って街中を歩くわけにもいかないだろう。
下手したら、いや下手しなくても銃刀法違反で捕まる。
ということで、一旦塔に戻って置いてくることに。
それも終わると、家に帰ろうとするのだが足が、体が言うことを聞かない。体力がもう限界。
僕はその場で倒れるように眠りについてしまった。本日二度目の気絶だった。
◆
小鳥のさえずりと春の朝日で目を覚まし、まだ冬の名残を感じさせる冷たい風が肌を刺す。
地面で寝ていたからか身体が悲鳴を上げる。
なんとか体を起こして伸びをするとポキポキと関節の鳴る音が。
やはり地面というのは寝るには適した場所ではないと再認識させられた。
「はぁ〜、帰るか」
一晩休んだことで動ける程度には体も回復。
もうここに居る意味もない。
鞄を拾い、服についた土を軽く払うともう準備は完了。どこか寄り道したい場所もないので真っ直ぐ家路につく。
やはり東京の街も見た限りでは地震の影響か酷い被害が出ているようだ。
いつもは人通りの多い大通りにも人影は少ない。いつになく低い人口密度が居心地悪く感じてしまう。
電車も地震の影響を受けて運行を停止していた。そのせいか駅のホームは逆に人でごった返していた。
電車を使うことは出来ないようなので歩いて帰る以外に帰宅する手段を失った。
タクシーは利用料金が高すぎるし、大学に入ったばかりで知人はいない。今は実家を出て一人暮らし中なので親を呼ぶことも出来ない。
仕方なくスマホで道を調べながら帰路についた。
それから歩くこと三時間。
ようやく帰宅。
設備は古いし部屋も綺麗とは言えないものだが、月三万と家賃が安いのが魅力な築三十年越えのボロアパート。その右端が僕の部屋なのだが、なんとあれだけの地震があったにも関わらず見た感じ被害はない。
帰宅中ずっと抱えていた不安が解消されてホッと安堵の息を漏らす。
「ただいま」
というも、この家に住んでいるのは僕だけ。
どうあっても声が帰ってくることはないが、ついつい言ってしまうのだ。
家の中は当然というべきか結構荒れていた。
本やら何やらが散乱して、棚に置いていた食器のほとんどは無残にも割れ落ちている。
「あーあぁ……」
買い揃えたばかりなのだが、また色々も買い足しに行かなければならなくなった。
安堵から一転、陰鬱とした気分が広がる。
僕は気分を変えるためにテレビのリモコンにてを伸ばした。
『本日深夜0時、全国各地で震度五強の揺れが観測されました。それと時を共にして各都道府県にいくつもの巨大な塔状の建築物が突如出現いたしました』
「やっぱり、あそこだけじゃなかったんだ……」
テレビをつけた時、放送されていたのはニュース番組。
果たしてこれは日本だけの話なのか……それは続くニュースキャスターの言葉で解消された。
『これは日本だけに留まらず世界にも影響を及ぼしています。全世界で一斉に大地震が引き起こされ、同様に巨大な塔が出現したとの情報が寄せられています。その数は万を超えるとのこと』
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