社会の動き
三ヶ月ほどの月日が経過。
鉄道は無事に運行を再開し、街の復旧も既に始まっている。震災の被害によって死亡した人の数は比較的少ないものだったが、やはりゼロとはいかず未だ行方不明者の探索も続けられているらしい。
それからあの塔のことだが、震災から二日が経った頃、警察によって全国に出現した全ての塔の入り口が封鎖された。そのニュースを聞いて僕が行った時には野次馬も結構な数見られた。
そして今、僕が何をやっているかというとスキル【魔魂簒奪】に内包されたスライムの能力を使う練習だ。これがまた凄い。
適応の能力は攻撃を与えられれば与えられるほどその攻撃に対して耐性ができてくる。例えば、包丁で手を切ると最初はもちろん痛い。でも、それを何回も続けていくと徐々に痛みが感じられなくなって最終的には包丁で切るくらいだと傷が付きにくくなった。
加えて液状化の能力。これがとにかく便利。体全体を液体に変化させて狭い隙間に入り込んだり一部だけを液化させて操ったりもできる。
そんでもって、なんで今こんなことをしているかというとつい先日のニュースが原因だ。
警察、というか政府は俺たち国民にあの塔の情報を一切流さなかった。そして、何があったのかいままでずっと塔内にいたゴブリンたちモンスターが門を越えて外に出てきた。それを周辺住民が偶然にも目撃してしまった。
それによって大ごとに発展。緊急特番も作られて今、多くのテレビ番組で話題に挙げられている。
警察の言ではこれまでモンスターの対処には警察と自衛隊が協力して当たっていたが、あまりにも手が足りないとのこと。今のままではまたモンスターが塔を出て一般市民を襲ってしまうかもしれない。その為、緊急処置として一定数の人員を募集する方針だと発表。
条件としては前科がないこと。戦闘能力、ひいては身体能力に自信のあるもの。政府が死亡時の責任を負わないことを了承すること。年齢が十八以上であることなどがあった。
僕はこの条件を比較的満たしていると感じられた。身体能力にはあまり自信がある方ではないが、戦闘能力という面ではスキルが使えればそこそこ戦えるのでは、と考えている。
そしてこの募集なのだが、なんと予想以上に問い合わせがあったみたいで発表からまだ一週間も経っていないにも関わらず、その応募の数は千を超えた。もちろんその中には僕も入っているのだが。
なんでこんなにも反響があったのかというとある有名動画配信者がどんな手を使ったのか塔内に忍び込み、そこでモンスターと遭遇。打倒したことが発端になっている。
それによって更に話題に拍車がかかり、ネット上ではあの塔をダンジョンと呼び、ゴブリン等モンスターたちを魔物と呼称している。
更にその他にもダンジョンに入った一般市民がスキル、そして魔道具と命名された摩訶不思議な道具を発見したとの情報が流出。オークションで超高額で取引され、一攫千金のロマンを求める日本国民のダンジョン人気は沸騰した。
しかし、日本国民を虜にするダンジョンの魅力はこれだけでは終わらなかった。
あのスライムが倒れた後に残っていた魔石と呼ばれるそれは新たなエネルギー源として扱えるものであると、とある研究組織が発表。それからというもの応募人数は更に膨れ上がった。
応募締切であった一ヶ月後にはその人数は六桁を突破。全国に点在するダンジョンは現在発見されている段階では百と少し。
一つのダンジョンでの募集人数は百人。つまり、正式に採用されるのは十万人のうち一万人程度。確率で言えば十分の一。
その十分の一を絞り込むためにいくつかの試験を受ける必要があるらしく、今わかっているのは面接と体力テストなどがあるということだけ。
試験日はちょうど一月後。
それまでに出来るだけ体を鍛えておきたい。
最近、毎朝毎晩五キロのランニングを始めたが、これだけなんとかできるほど甘いものとも思えない。
どうしたものか、と頭を抱え、一つ名案が浮かんだ。
モンスター――魔物と戦うなら、武器が必要不可欠。そして、武器を持つならそれを扱う技術も当然必要になる。
なら、それをどこで習うか。
僕に武術をやっている友達はいない。というかそもそも友達がいないんだけど……今のご時世、ネットを使えばある程度のことは調べられる。
インターネットを巧みに駆使して近所に武器の扱いを教えてくれる道場がないかを検索。
すると、一件だけヒット。
歩いて一時間もしない場所にそれはあった。
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