ギルドマスター
「探索者諸君による人命救助、及び、危険生物討伐への協力。その功労は多大である。ここに深く感謝の意を表し、表彰する」
僕たちを含め、あの日、街中に溢れた魔物の討伐に協力した探索者たちは、警察、ひいては政府からの感謝状が贈呈された。
さらに、政府直属の機関であるギルドから、魔物討伐特別報酬という形で、功績に応じた報奨金が支払われた。
また、あの魔物群の中でも、一際目立っていて、かつ厄介であったらしいサイクロプスを討伐した僕と冬華には更なる恩賞があるのだとか。
そのせいもあって、僕たちは智也たちを含めた探索者たちが去った後、ギルド本部長室に呼ばれていた。
ギルド内を隅々まで歩いたことのない僕らには本部長室なる場所がどこか、というのもわからないのもあって、ほぼ専属となりつつある立花さんに案内をたのんだ。
「ここが、本部長室です。それじゃあ、私はここで戻るから、後は頑張って!」
それだけ言い残して、彼女はそそくさと仕事に戻った。
本音を言えば、彼女にも同席してもらいたいくらいだったのだが、仕事があるとなれば、無理も言えない。
僕は早々に意識を切り替え、僅かな緊張を抱いたまま扉をノックする。
少し間が空いて、「どうぞ」とだけ、簡素な返答があった。
僕はその声に従って、ドアノブに手を伸ばし、取っ手を回すと、ガチャリという音を立てて扉が開いた。
扉を開いてすぐ目に入ったのは、デスクに両肘をついて、僕らを見定めるような視線を向けるゴリゴリの筋肉メガネ。
どこか既視感を覚えながら、僕はゴクリと生唾を飲んだ。
ダンジョンでの戦闘にも慣れ、そこそこ程度の威圧感にならビビリもしなくなった僕だが、この男の発する圧はサイクロプスのソレ以上に感じた。
――何者だ、このひと?
僕の頭は、すぐさま戦闘モードに切り替わった。
が、その時、男の口が開かれた。
「……すまない、警戒させてしまったね」
重低音の、腹に響くような声。
しかし、その声音は敵意など微塵も感じさせない、穏やかなものであった。
呆気にとられて、少しの逡巡の後、僕たちは構えを解く。
気がついたら、さっきまでの重圧は消えていた。
「一応、大体の実力を測ってみようと思ったのだが、問題はないようだ」
「は、はぁ……」
僕らの困惑など無関係に、男は眼鏡の奥にある目を細めて小さく笑った。
「まあ、座ってくれ。話が長くなるかもしれないから、お茶でもを出そうか」
男に促されて、僕たちは意味もわからないままソファに腰掛ける。
妙に時間が過ぎるのが遅く感じるこの空間に、居心地の悪さを感じて部屋を見回していると、いつも自分でお茶を用意しているのか、小慣れた様子で茶菓子とお茶を出された。
「どうぞ」と、差し出されたあったかい緑茶と和菓子の数々。
緑茶のことはよく分からないが、和菓子の方は何となく高そう……ということだけは分かった。
このまま手をつけない、というのも失礼かと思い、僕と冬華は、差し出された緑茶を啜った。
「あ、美味しい……」
声を漏らしたのは冬華だった。
僕にはいつも飲んでいる安物のお茶と何が違うのかも分からなかったのだが……
「おっ、分かるかい! このお茶の美味さが!!」
ごつい見た目に反して、男はキラキラと目を輝かせて反応した。
「これはお茶の名産地、静岡の有名店から取り寄せたものでね――――」
冬華の反応にテンションが上がったのか、延々とお茶に関しての話を繰り広げているが、ぶっちゃけ冬華が引き気味だったのには気づいていないらしい。
それから、お茶談義が終わったのは十分ほどしてからだろうか。
冬華はお茶の話を聞き続けたことで、疲れたのだろう。
ダンジョンで丸一日探索を終えた後よりもグッタリしていた。
「それで、僕たちを呼んだ要件というのは、何なのでしょう」
話が一旦落ち着いたところで、僕は口火を切った。
「ん……ああ、そういえば、そういう話だったね」
忘れていた、とでも言いたげに、彼はポリポリと頭をかいた。
この色々と自由な感じ。
男の印象は、最初に見た時とは正反対といえるほど変わっていた。
「まあ、とりあえず自己紹介でもしておこうか。私の名前は九童 忠宗くどう ただむね。このギルドの支部長、つまりギルドマスターだ」
丁寧な物腰だが、どこか胡散臭いこの男はギルドマスターだったらしい。
まあ、支部長室というくらいだ。
偉いひとなのだろうということは半ば分かっていたようなものだがね。
「僕は――」
自己紹介、というので、僕もそれに付き合って口を開いたところで、正面に座る男――ギルドマスターに手で制された。
「君たちの名前は知っているさ、それ以外にも色々と、ね」
「色々って……」
僕はおうむ返しで呟くと、ギルマスはニヤリと笑って誤魔化した。
「それって個人情報が流出してるってことですよね? ダメじゃないですか?」
「まあ、ギルドマスターだからね。ギルマスの特権だよ、特権。他の人たちにはこんなことできないから安心してくれ」
全然安心できない。
少し痛みが出てきた頭を抱えてギルマスを見ると、彼は、思い出した、とばかりに目を見開いた。
「ああ、こんなことを話したいわけじゃないんだった。今回、君たち呼び出したのは二つほど重要な話があったからなんだ」
声音が真剣さを帯びる。
それに伴って、僕たちの姿勢もピンと伸び、聞く態勢が出来上がった。
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