ホワイトクリスマス

「死んだ……のか?」

「そうみたい、ですね……」


 僕らは互いに顔を見合わせて、呟いた。

 サイクロプスの死体のあった場所には、魔石と、大きな目玉が転がっているのみ。


 それを見ると、本当に終わったのだという実感が湧いてくる。


「雪、だ……」


 隣から聞こえてきた、その声に反応して、僕は視線をサイクロプスのドロップアイテムから空へと変えた。


 白い白い、純白の粉雪が、しんしんと音もなく降り募る。

 黒々と染まった空を、白く塗りつけるような雪化粧。


 そんな神秘的ともいえる、美しい風景に、僕たちはただ見惚れていた。

 けれど、その時、僕たちの耳に獣の雄叫びがこだました。


 それをトリガーに意識は完全に戦闘モードに切り替わる。

 体力魔力、共に限界に近いものの、その残りカスを振り絞って、僕らは構える。


 声の発生源は、案外近くにあった。


 三体のバトルウルフ。

 まだ、魔物の軍勢は、完全に殲滅が終了したわけではないらしい。

 最初に比べれば、圧倒的に数は減っているが、見渡せばまだ魔物の残党がうろついているのが目についた。


 こんなことにも気づいていなかったとは……僕らはサイクロプスの討伐が完了したことで、無意識にも気が抜けてしまっていたらしい。


 僕は己の不覚を恥じ、同時に戦意を滾らせる。


 残るのは雑魚ばかり。

 恐らく、僕たちが戦わずとも、他の探索者たちにまかせていれば、一時間もあれば終息するだろう。


 しかし、僕たちは戦おう。

 サイクロプスは倒したから、あとはお願い……なんて無責任なことはできない。


 僕はすぐさま地を駆け、冬華は氷の弾丸を生み出した。

 万全の状態とは程遠いとはいえ、バトルウルフを屠る程度ならば造作もない。


 駆けると同時に発動した“黒鬼化”。

 それによって急加速。強化された肉体が、バトルウルフの胴体に激突した。


 一体のバトルウルフは、それだけで戦線離脱。気を失って仰向けに倒れ伏した。


 そして、残り二体のバトルウルフ。

 こいつらは低い唸り声で威嚇しつつ、僕を包囲し、攻撃の隙を伺っているよう……だが、ここで冬華の“氷轢弾”が炸裂し、頭部を貫いた。


 赤い血をばら撒き、死にたえると、これだけでもう残り一体。


 なす術なく仲間がやられたせいもあるのだろう、生き残ったバトルウルフは怯えの色を瞳に写し、後退の姿勢をとった。


 ――まあ、逃がすわけもないのだが。


 僕は、黒に染まった脚を一瞬だけ液状化させ、その圧倒的なリーチから蹴りを放った。


 音速を超える速度で放たれた蹴りは、バトルウルフの胴体を切り裂き、両断した。


 僕は脚の“液体化”を解き、フゥ、と一つ息を吐く。


 サイクロプスとやりあった後だからか、まるで手ごたえを感じなかった。

 それだけサイクロプスが強かったということなのだが、僕たちのレベルとサイクロプスのレベルの差でよくもまあ勝てたものだな、と今更ながらに考えてしまう。


 正直、サイクロプスへと直接的な攻撃が通ったのは僕の“黒鬼化”と“液体化”をプラスした状態での攻撃だけで、それすらも微々たるものだった。


 もし、あの持久戦での戦いに持ち込むことが出来なかったら、勝利はなかった。

 いま思い出すと、ギリギリの勝利だった。


 できることなら、もうあんな戦いはやりたくない。

 その為には、決定的な攻撃力が必要になる。

 ……僕も、そして冬華も。

 


 僕たちはそれぞれの課題を抱えたまま、魔物討伐に勤しみ、降り止まない白雪とともに今年のクリスマスは終わりを告げた。


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