vsドラゴン
焼かれた左腕が痛い。いや、もはや感触も無くなってきている。違和感がすごいな、これは。
走り回る僕だが、ドラゴンからはそう簡単には逃げられない。
幾度となく赤熱のブレスが迸る。
その度に紙一重で避け続けているが、このままじゃあジリ貧だ。
“再生”を持ってしても、左腕はなかなか治る気配を見せない。だが、痛みがなんだ。知ったことか。僕は、それでもここで打って出る。
常に背後に回ろうと走り続けていた足の動きを変える。
【隠形】。
一瞬、姿を隠す。
もうそろそろこのスキルにも目が慣れてきて、効果が効かなくなるはずだ。
今のうちに、一度使っておく。
ほんの少しの間、僕を見失ったドラゴンは動きを止めた。驚いた……のだろうか?
僕はその隙に一気に加速、懐に入り込む。狙いは左前脚。
右前脚に続いて左を潰せば、移動は困難になる。
そうなれば、僕の有利に進めることが出来るようになる……はずだ。
できることなら、さらに追撃を加えたい。
流れはさっきと全く同じ。軽量化した槍を、インパクトの瞬間に超重量に変換。これでドラゴンの足をも貫くことが出来るのは、もうわかっている。
漆黒の槍が、ドラゴンの足に再び、深く突き刺さる。
槍を引き抜くと、ポッカリと風穴が開き、鮮血が散る。やった、と思うまもなく、轟音が耳をつんざく。
ドラゴンの悲鳴、咆哮だ。黄金の瞳に更なる憎悪が宿る。
ふわり。僕の体を不快な生温かい風が撫でた。
全身に感じる生温かさとは反対に、背筋には悪寒が走る。嫌な予感。死の気配。
頭の中でガンガンと警鐘が鳴り響く。己の直感に従って、僕は咄嗟に“液体化”を発動。
次の瞬間、僕の体は7つに裂け、飛び散った。
何が起きたのか。液体化した体を寄せ集めながら冷静に考える。
あの瞬間に感じたのは強烈な風。
風の刃のようなものか。ようは、パズズの能力での攻撃と似たもの。
“液体化”によって難を逃れた僕は、すぐに体を元に戻す。もちろん、傷一つない。
あの攻撃で死ぬはずだった人間――僕が五体無事であったのが不愉快なのか、ドラゴンは苛立たしげに唸り声をあげる。
その威圧感は、変わらず王者の風格漂うものだ。人間に傷をつけられて、プライドが傷ついたって感じか?
まさに、自分が殺されるとは微塵も思っていないようで。
「――なんか、ムカつく」
勝って当たり前とでも言いたげなその態度が気にくわない。
絶対殺す。
ここまでの戦いで、分かったことがある。
ドラゴンの主な戦闘手段は炎のブレス。風を操る能力。そして、巨大な体躯を使った物理攻撃。
この中で一番危険なのはやはりブレスだ。
風での攻撃や物理攻撃は“液体化”で凌ぐことは出来るが、ブレスは防ぎようがない。さらに、避けるのも簡単ではない。掠っただけでも大ダメージ足り得る。なんとまあ、厄介だ。
どうにかして、事前に防ぐことが出来ればいいんだが……生憎とそういった能力は持ち合わせていない。
となると、なんとかしてブレスを躱しながら致命傷を与えるしかない。
なら、やっぱりあれか――
思考はそこで途切れた。
自身に迫るブレスの予兆を察知したからだ。
転がり回ってなんとか回避すると、“獄炎吐息”を発動。
黒い炎がドラゴンへ向かう。威力はドラゴンの放つブレスにも負けていない……ように思うが。
ドラゴンは“獄炎吐息”に反応すら示さなかった。回避しようという意志さえも感じなかった。
それはなぜか。
ドラゴンに、炎が効かなからであった。
黒い炎に包まれて、僕は「やったか!?」と身を乗り出した。しかし、炎に遮られた視界が晴れると、そこには先ほどと全く変わらないドラゴンの姿があった。
まさか、これほどまでに効果がないとは想像もしていなかった。
思わず、ゴクリと生唾を飲んだ。が、それもそこまで。
効かなかったならしょうがない。次の手段を考えるまでだ。幸いにも、僕には切れる手札が多い。
“風神”。
僕の周囲を風が支配する。
「さっきの仕返しだ」
ドラゴンが僕にしたように、風の刃を差し向ける。が、それはドラゴンの強靭な鎧に阻まれて肉にまでは到達しなかった。
ただ、鱗に幾百の傷を付けた。まあ、その程度では意味ないも同然だが、塵も積もれば、という言葉もある。
強化された身体能力で飛び回りながら、風の刃で傷をつけ続ける。
時折ドラゴンの放つブレスを躱し、風による妨害をなんとか凌ぎ、逃げ回る。
けれども、徐々に戦況は僕の優勢に傾きつつある。
僕には“再生”がある。傷ついた左腕も少しは動かせるほどまで回復してきた。たいして、ドラゴンの両前足は風穴が空いたまま。勝機は十分ある。
あとは、反撃のチャンスを見計らう。ドラゴンを討つ、最後の一打を狙う。
ただ、少し気にかかることもある。
最後のフロアボス。ダンジョンの最奥を守護するモンスターが、果たして、本当にこの程度の力しかないのか、ということだ。
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